自分が何者か悩んでみましょう
ボクは自分を一体何者と定義すれば良いのだろう。
この世界の真実とともに、陽菜から自出を聞いてしまった。
ルース教の勇者ルースとともに、ボクは陽菜に、『神』となった陽菜のために創られたのだ。
陽菜を愛し、満足させるために生み出されたモノなのだ。
ボクは神が作った玩具か?
これまでの朧げな記憶と人生もすべてまやかしだった。
空っぽの人形と同じだ。
おままごとで与えられた『役』を演じるための『設定』でしかなかったんだ。
今までの人生は。
陽菜に捨てられれば、それこそ飽きられた玩具だな。
吐きそうだ。
頭も痛い。
それに、気を抜くと何か叫び出しそうだ。
まだ、勇者ルースは陽菜が憧れていた人物を処女受胎で産み、自ら育てたけど、ボクは陽菜の好みに合うように創られた。
そうして創られたにも関わらず陽菜はボクに自分を殺すように言ってきた。
陽菜を崇め、従属している気はないけど、その言葉は陽菜に捨てられたのと同じだ。
癪だな。
「はいはい。兄さんら、今日はこの村で休ましてもらうよ。」
荷台で俯いていたボクは声を掛けられるまで御者を頼んだ男が来るどころか、馬車が止まったことすら気付かなかった。
「すまねぇが、もう7日も野宿続きだ。これ以上は身体が保たねぇよ。」
「予定通りじゃないですか。村との交渉は私が行きます。」
陽菜が荷台から降り、御者たちと一緒にどこかに向かってゆく。
2・30分は過ぎただろうか。
陽菜が戻ってくると、ボクを広い家に連れていく。
食事は…
多分、したと思う。
出発してからもう7日も経っていたのも気が付かなかった。
思考という底なし沼にはまったように、その中でずっと足掻いてるだけで、どこにも進んでいない気がする。
布団代わりに毛布が敷かれてたけど、ボクは壁に凭れていた。
毛布は一枚しか無かったから。
「優くん。ごめん。」
「ごめん以外に何もないの?」
素性を聞いてから、陽菜の口から『ごめん』以外の言葉を聞いていない気がする。
だとしても、性格悪いな。
「ごめ…」
陽菜が言いかけて止めてから、再び沈黙する。
「陽菜はボクのことどう思ってるの?」
「どうって?」
「ただの玩具?好きだった男の身代わり?一体、ボクは何なんだよ?」
「優くんは、優くんだから。」
「一体どういう積りで今まで一緒にいたの?」
「優くんが心配だったから。」
「意味わからない。好きだった男の代わりなんだろ?その男にしてほしかったみたいにすれば良いんだろ?」
そう言って、ボクは乱暴に陽菜の着ているものを剥ぎ取った。
陽菜は抵抗しない。
灯りはなく、締め切られた部屋の中ではほとんど何も見えなかったけど、陽菜の肌が白いのだけは分かった。
一年以上視覚を失っていたボクに暗闇は関係ない。
陽菜の匂いと肌の暖かさに我を忘れて陽菜を毛布の上に組み伏せる。
「こうして欲しかったんだろ!」
一体、ボクは何を言っているんだろう?
ボクは抵抗しない陽菜の身体を貪るように手を這わせていた。
「代わりじゃない。優くんは、優くんだから、好きになったの。」
「なんだよ、好みの人形みたいなもんだろ。そりゃ好きになるよな。」
「違うよ。優くんは優くんだから。誰も優くんの代わりになれないから。」
「何だよそれ?勝手に訳のわからないこと言って!」
ボクの手は陽菜の衣服を剥ぎ取り続ける。
「良いよ。好きにして。優くんがしたいなら。でも、ちゃんと優くんに好きになって欲しかった。」
涙声のその言葉でボクは動けなくなった。
何分経ったか、やっと一つの言葉が口を出る。
「ボクは陽菜に愛されたかったんだ。」
「優くん。」
陽菜が伸ばしてきた手が首元に回されるのをそのままに、ボクは右手を陽菜の後頭部に、そして左手を頬に当てる。
涙が頬を流れていたのに気付く。
「優くんを優くんとして、愛してるから。信じて欲しい。」
暗すぎて細かな表情まで読み取れない。
目はいつの間にか瞑ってしまっていたけど。
まるで、こうすべきと身体が覚えていたみたいに、ボクは唇を近づける。
初めての唇の感覚に驚きとともにうれしさを感じる。
唇ってこんなに柔らかいものだったんだ。
そんな感想を持ったのもつかの間で、ボクは陽菜の肌の暖かさにボクは溺れていった。