陽菜の告白(2)
私はこの世界にあったシステムの改変から手を付けた。
この世界でシステムは殺生をすると、殺した側が殺した側の今まで蓄えてきた命の力を奪え、それを蓄えられるように改変した。
復讐をして手を下した命に作り直したシステムの試用兼使用法を広める役割を負ってもらう。
このシステムを維持するためには、システムを理解して運用できる人材が必要になるから、ついでにその役割を果たしてもらう。
最大の目的は、殺し合いを続けるとこによって、力の奪い合いをさせて蓄えさせることと、通常は世界全体に散っている筈の力を集約し、私に還元させるため。
ただ、新しく作ったシステムは、スキルやステータスを利用するために、脳に専用の器官が必要になるの。
だから、ベースになる種族として、亜人を入植させることにした。
繁殖をさせるため、個体の能力は高くした。
人間はもともと持ち込まれていた人種がいたけど、新しく作ったシステムには対応していなかった。
そこで、新たに調製したシステム対応人種に強い力を持たせて王侯貴族として送り込むとともに、差別を植え付ける。
そして、亜人と戦争を繰り返させ、極限状態にすれば、個体として劣る旧人種は自然と減っていく。
そう考えて、何度も人間と亜人を戦争に導いた。
それを助長するために、システムにお互いを憎み合うような仕組みも組み込んだ。
目論見通り、システムに対応していない旧人種を滅ぼした。
そして、最後の仕上げとして、集まった力を更に集中させるために、『転移者』と『転生者』を呼び出すシステムを考え、そのテストケースと、復讐を行うために、私をいじめた人間たちに手を下し、転生者としてこの世界へ取り込むことにしたの。
彼女ら陸上部が大会のために移動するバスに事故を起こし、彼女らを殺した。
殺した彼女らは、この世界で更に苦しんでもらうために転生させた。
スキルの使い方を普及させ、新たなスキルを作り出し、魂の力を集めて、最後に私に刈り取られるために。
刈り取る役は私が想いを寄せていた、加治屋くんにすることにした。
殺したのかって?
そう、その時、私はどうかしてたの。
私を想わない彼の方がおかしいと思った。
新しくこっちでやり直すべきだって。
本気で思ってた。
それに、その時はそうしないと、こっちに連れて来れなかったから。
ただ、そのまま連れてきては、また、御幣島さんの所に行くだけだと思った。
彼の記憶を奪い、他の女への興味を抱かさないよう、真っ白な頃からずっと手許に置いておきたい。
そう思ったの。
今なら馬鹿げたことをしたと思うんだけど、私は彼を処女受胎して、産んで、自分好みの男の子に育てることにした。
『ルース』と名づけられた彼は素直で正義感のある良い子に育った。
ただ、上手くはいかなかった。
記憶を無くした筈の彼だけど、再び御幣島さんに惹かれた。
ああ、御幣島さんも命を奪ってこちらの世界に引き込んで、魔族として転生させた。
御幣島さんは魔族の王になり、人間から魔族を守ろうとしてた。
その御幣島さんに惹かれ、彼は共に魔族と人間との融和を唱え始めた。
私にとって、それは絶対に避けなければならない。
彼を説得しようとしたけど駄目だった。
その頃には、命を奪って魂を引き込むという方法だけじゃなくて、元の世界にいた人間たちを複製してこちらで再現するという方法をとれるようになった。
私と優くん以外の使徒はそうして創り出したの。
その方法で呼び出した『使徒』で、継続的に私の意向を汲んで動かせる戦力を確保することにした。
そうして創り出した使徒に御幣島さんとルースを殺させた。
そもそも、元の世界で大きな力を行使できるのは、私が発生した学校とその周辺のみ。
だから、使徒は学校の生徒や卒業生がほとんどなんだけどね。
記憶までコピーして、新たにクローンとして生み出された使徒は、容れ物の肉体にある記憶は元の世界の物だけど、そこに入れる霊魂はこの世界の物になる。
だからか、精神的に不安定な人が多かったよ。
使徒の記憶を消しているのは、精神的な不安をを少しでも和らげるため。
バス事故でこちらに連れてきた大半は与えた力に溺れて、人間も魔物も狩りまくってくれたから、心置きなくルースの力になってもらったよ。
芽郁、未唯、凛依子の3人だけど、未唯に仕込んだスキル、『捕食者』は新たなスキルの成長を促すために、捕食した相手の記憶も奪うことができるようにしたの。
結果、未唯は捕食してきた人々の記憶を受け入れられず、精神を壊した。
芽郁は双子の未唯を見捨てられず、付きっきりになった。
狂い、苦しむ片割れを守るため、一生を費やさせるため、私は人間たちに、封印という手段を与えた。
思惑通り、彼女らはこの500年間、苦しんでくれた。
多分、今回の件は誰かが私を始末するために未唯の封印を解いたんだと思う。
何が起こったか解ってたけど、私はもう終わりにしたいと思ってたの。
生き残るために、この世界を無茶苦茶にした、その罪悪感から逃れたかったの。
でも、優くんは私を助けてくれた。
優くんの事なんだけどね。
私は、私のことだけを愛してくれる人が欲しくて、優くんを創った。
加治屋くんのような人が梅田くんのように私を好きになってくれたら良かったのに。
そういう軽い気持ちから、優くんを創ってしまったの。
加治屋くんは藤堂くんの従兄弟だったの。
それから、梅田くんの少し華奢なところが出たからかな。
だから、最初に会った時、藤堂くんは自分の妹と間違えたの。
似ちゃう筈だよね。
優くんを創り始めた時には、既に長い時間が経ってた。
それに、優くんを産み出すのに意外に時間がかかってしまった。
その、長い時間が私の心を変えたの。
薄れゆく憎悪は後悔に変わり、自分の行為を恥じ、自己嫌悪に陥っていく。
この世界に来る前と変わらないよね。
せめて、私の気まぐれで生み出された優くんはこの世界で生きていけるようにしていきたい。
そう思った。
優くんのジョブとスキル付与魔法は、優くんに手を汚させたくないからだったんだよ。
でも、私やみんなを助けるためには、それも厭わなかった。
成長していく優くんは、すごく良い子に育ってくれたね。
私のこの身体は、オリジナルなの。
チカラと融合した私は、当初の目的の一つ、信仰を集め、この世界で神になることには成功した。
でも、人間『陽菜』だった部分は、自己嫌悪に塗れ、壊れかけてた。
この世界で神となった私にとって、それは不要な部分だった。
だから、このこの部分を切り捨てようと思った。
苦しみを生み出すだけだらから。
誰かに終わらせてほしかった。
本当は芽郁か凛依子にしてほしかったんだけどな。
優くんの手だけは汚させたくなかったな。
でも、私(本体)も私の目的に気付いたと思う。
もし、私(分体)を失っても消滅するようなことはないけど、女神としての半身を失うことになるから、大きく力を削がれる。
これからは、私(分体)を守ろうとしてくると思う。