魔石を売る相談をしましょう
カリブさんの助け舟で王城を抜け出たボクらは急いでジャンさんの店に向かう。
店先に立っていたジャンさんの娘さんが、応接に通してくれた。
そんなに間を置かずにジャンさんがやってくる。
「ハルグラトの事は聞いていましたが、こんなに早く戻ってくるとは思いませんでした。」
「ええ、往きは飛翔魔法陣を使わさせてもらいましたから。」
「いえ、そういう事ではなく、魔物の大発生が無ければ、もっと長くいる筈だったでしょうからね。ただ、私としては、思ったより、魔石の需要が高まりましたので、有り難いのですが。」
「ご明察です。大発生で倒した分の魔石があります。これを売りに出して欲しいんです。」
そう言いながら、魔石の詰まった袋を差し出す。
「さすがは、魔物の大発生ですな。」
「いえ、とりあえず持てる分だけです。大型の魔石を中心に持ってきたんです。」
「大型の?一体どれぐらい?」
「大型の魔石が35個、中型の魔石は20個、小型の魔石は212個です。大型は全て持ってきましたが、小型以外は時間が掛かりそうだったので。」
「それで残りは?」
「ハルグラトに置いてきたのは、中型の魔石が180個、魔核は75個、小型の魔石は270個で魔核が421個です。」
陽菜が代わりに答えてくれる。
商人のスキルで在庫管理ができるから、すぐ把握できるらしい。
「なんと、1,000を超える魔物を倒したということですか。」
さすが、計算が早いな。
実際は蓮さんたちと、ボクらが王都に来るために使った魔石もあるからもっと多いけど。
「時間が掛かっても構いません。売り上げについては、ハルグラドの復興財団を作りますんで、そこに入れて欲しいんです。」
「復興財団ですか。」
「ハルグラトは今回の魔物の大発生で、壊滅的な被害を受けました。一応、ボクが代表ということになりますが、姫殿下と男爵も巻き込んで、復興財団を設立して、街を復興させたいんです。」
「壊滅的な被害ですか。そんなに酷いんですか?」
「ええ。強大な魔物の攻撃で街は跡形もなく吹き飛ばされ、残った建物は一握りで、それらもいつ崩れるか分かりません。」
「なんと…」
陽菜に目配せしてから、続きを話す。
「その魔物の攻撃で、恐ろしい病にかかる人が続出します。それは誰も治すことのできない不治の病です。伝染することはありませんが、多くの人を死に追いやるでしょう。」
「その病の事を知るのは?」
「パンティアの王家の一部だけです。」
「病の事を差し置いても、被害は想定を大きく超えておるようですな。」
「ええ。」
「私どもでも、ハルグラトの報せを聞いてから日用品などの持ち込みも準備していましたが、状況はかなり悪いようですな。」
「恐らく。産業も壊滅的ですから。」
「それで、魔石を見せつけながら、私どもを囲おうという訳ですか。」
「短期的にはそうなるかも知れませんし、半分は人助けにはなりますが、損はさせない積りです。」
「まぁ、その話、幾つか条件はありますが、乗らせていただきましょうか。」
それで、ボクと陽菜はジャンさんの用意してくれた御者付きの荷馬車に揺られて、王都を目指していた。
大型の4頭引きの巨大な馬車が2台に食料と日用品、それに大工道具を中心に積み込まれている。
2頭でも十分らしいのだが、初回の食料と物資の不足を見込んで速さが出ることと、負担を軽くして、長距離を走れるようにしてくれたのだ。
陽菜は御者台の所に、ボクは荷台に乗せられている。
荷馬車で揺られてるのは、魔核を魔石に変える作業を道中でするためでもある。
ジャンさんは前回会った際に依頼した魔核集めもちゃんとしていて、200個の魔核を渡されたのだ。
酷く疲れてはいるものの、作業に集中してるのもあって、あまり馬車の揺れは気になってはいないんだけど、陽菜の疲れた顔を見てると、馬車の疲れもかなり大きいんだと思う。
揺れるし、度々止まるし、快適とは程遠い。
しかし、時間はあった。
「約束どおり陽菜さんの事、聞かせてくれるよね。」
「多分、嫌われるで済まないと思う。だけど、最後まで聞いて欲しい。」
「うん。」
随分と長い時間話を聞いた。
ハルグラトに近づくにつれ、荷馬車を狙う魔物は増えたが、新たなスキルを覚えたボクらには、なんの障害にもならなかった。
到着は馬を増やし、負担を減らした甲斐もあり、10日でハルグラドへ到着することとなった。
陽菜が何か大きな秘密を抱えているとは思ってはいたが、抱えた闇は思っていたよりも大きなものだった。
この世界の真実を知り、自出を知ったボクは、ハルグラドへ着くまでの10日間のほとんどの時間はグルグルと回る思考の渦に囚われ続けていた。
吐きそうなぐらい気分は悪かったし、道中の記憶がほとんどない。
だけど、前に進まなきゃ、その一心だけでなんとか乗り切ろうと試みることにした。