馬車旅を楽しんでみよう
今晩は、王城で晩餐に招かれてから、翌朝早々に出立しする。
今晩に向けて、今日は風呂に入れるらしく、王城の風呂に案内されているところだ。
しかし、遥人より蓮と一緒の方が良かったな。
遥人にはずっと女子がつきまとっていて、話も碌にできないし。
そもそも、苦手なタイプだけど。
案内された場所に来たが、風呂というよりサウナだな。
遥人が先に入っていた。
「優くんの所は、今後はどうするんだい?」
「軍資金貰って、ちょっとレベル上げしてから、他のみんなは街で工房でも作んじゃないかな。魔族もあんまり来ないみたいだし。」
「力があるのにこの世界の人の役に立とうと思わないの?」
「ウチのメンバーは戦えない。ボクもだけど。」
「そんな事無いよ。しっかりレベルを上げれば強くなれる筈じゃないか。」
本人は良いジョブと、良い仲間に恵まれて不自由無いだろう。
そのうえ、頑張れば何とかできるって思ってるみたいだし。
いわゆるチーレム勇者を地でいく彼には、ボクの事なんて理解できないんだろうな。
反論するのも面倒なので、適当に相槌を打ちながら身体を洗い、さっさと部屋に戻る。
宿屋でもそうだったが、同じ部屋に入れられるのは、勘弁して欲しい。
満員電車で女性に触れないようにしないといけない時のような感覚か?
ボクだって思春期を迎えた男なんだぞ。
美羽は、ボクみたいなヘタレが何かするわけ無いなんて言っていやがったが。
そう言えば、宿屋に4人部屋がどこにでもあったよな。
パーティーはステータスウィンドウから設定できるようになっており、その人数は4人までとなっている。
集団に適用されるスキルや魔法はパーティーまでしか作用しないようになっているらしい。
パーティーとして認識される人数に合わせて作られてるんだろうな。
ん、遥人の部屋も同じように四人部屋だろうから、ムフフな展開が夜ごと繰り広げられてるのか…
いや、まだ今の時期だとドキドキ期か。
当たり障りなく謁見と晩餐を終える。
何度か転移者を迎え入れているのもあって、儀礼なども簡素化していたり、手際が良い。
ちなみに、こちらのパンティア王国に残るパーティーは偉く豪華な装備を貰っているようで、ボクらとの見栄えが全然違うが、陰険姫は何とも思っていないようだった。
ただ、美羽は部屋に戻ってからしきりに不公平を口にしていたが。
カレン連合王国に向かう船は午前中には準備を整え、出港した。
甲板で呆けている間に時間が経ち、カレン王国のあるブリューニ島に到着する。
岬の先端の断崖絶壁の上に巨大な城壁が設えられ、非常に守りが固そうに見える。
岬の先端の断崖の下にある城壁の内側が港になっているようで、城壁から帆船のマストが覗いている。
甲板にパーティーメンバーがハメリンさんに率いられて登ってくる。
何故か王子も同伴している。
確か、美羽にちょっかいをかけてたっけ。
恋愛禁止を言い始めたのは美羽だし、折角の玉の輿の機会だし、勝手にすればいいんじゃない。
「あれが、我がカレン連合王国の王都、ケアールドだ。不落を誇る堅固な城とともに、世界最大の海軍を擁しておる。」
岬の先に立つその城は船の舳先を思い起こさせる。
「正に不沈艦ですね。」
ただ、言いたかっただけです。はい。
「これは良い『不沈艦』とな。ユウだったかな?なかなか言い得ておるわ。」
岬から少し外れたところに、商船用の港が見え、断崖の上に賑やかそうに建物が密集している。
「向こうが貿易港で、商店が集まってるのですか?」
「左様で。ユウ様の仰るとおり、貿易街となっております。」
「そうだ、ユウ。世界最大の貿易港だ。世界中の品物が集まってきておる。ここで揃わぬ物は無い。」
ハメリンさんに続けて、王子が得意気に説明してくる。
ただのお国自慢だと思ってスルーしよう。
港は入り組んだ構造になっているため、タグボートでの入港となるが、意外と時間がかかった。
「地面も揺れてるみたい。」
青い顔をした美羽が呟く。
海は穏やかでそこまで揺れても無かった気もするが、個人差はあるだろう。
勝ち気な美羽をからかうと、後が怖いので、ここはスルーだ。
さて、今回のカレン連合王国での女王との謁見はパンティアの時のようにオマケではないため、真面目にしておかないと。
さて、カレンでは、風呂の習慣は無い。
パンティアでは慶事の際ぐらいは使っていたようだが、こちらでは本格的に無い。
結局、身体を濡らした布で拭くぐらいはさせてもらったが、着の身着のままで、謁見の間に向かう事になった。
なんか、会場にいる皆んなが臭いので諦めれた。
簡易な謁見だけで、王子が気に入った『不沈艦』の言い回しで軽い会話があっただけで、すぐに終わり、革袋に入れられた金貨を持たされただけで城から追い出された。
見送りはハメリンさんと衛兵だけで、少し済まなさそうな顔をしていた。
「みなさま、このような待遇で申し訳ありません。」
他の国との待遇差を知っているだけ、気まずいのだろう。
「代々、我が国に来られる使徒様たちは王室とは距離を取られる方が多うございまして。以前の使徒様が作られた冒険者ギルドが王室に近い商人ギルド、魔法ギルドと折り合いが悪うございまして。ただ、同職ギルドなら受け入れてくれるでしょう。」
「お気遣いありがとうございます。」
陽菜がリーダーとして、挨拶をして街に足を向けた。
「まずは、冒険者ギルドに向かいましょうか。」
リーダーは陽菜だが、仕切るのは結局、美羽のようだ。