蓮たちを見送りましょう
打ち合わせが一旦終わって、休憩しているときに蓮さんがやってきた。
「おめでとう。優。」
「おめでとう、ですか?」
「ああ。当面の目標だった視力の回復は果たすことができただろう。これからどうする積りだ?」
「ええっと、集めた魔石を王都まで売りに運ぶのはさせてもらおうかと思ってますけど。」
「それ以降のことだ。」
「今はまだ考えられませんね。なんだか目標が無くなって、どうしたら良いのか分からないってのが本音ですけどね。」
「そういや、どうやってアレを倒したのか聞きたいんだが。」
「ああ、そのことですか。固有スキルを発動させたんです。そのスキルが、今まで使っていた付与魔法とスキルを材料に新しい付与魔法『スケールアップ』を作ったんです。」
「スキルをか?」
「『天の声』がどうするか聞いてきて、指示しただけなんですけどね。まぁ、ほとんど言われるままでしたけど。おかげで陽菜さんが『蛙の女王』を倒した経験値で得た『鷹の目』と『千里眼』のスキル以外はすべて無くなりました。まぁ、ほとんど使ってないものばかりでしたけど。」
「どんな能力なんだ?」
「身体的な能力を向上させるんですが、重ねがけができるんです。」
「重ねがけか。」
「ええ。」
「となると、魔力のある限り身体能力を上げ続けれるということか。」
「はい。付与魔法のステータス向上は1.2倍なんで、4回でだいたい2倍になります。そこまで陽菜さんのステータスを上げたんです。魔力の消費量が大きいんで、今回は魔力回復薬を飲んで、魔石を使ってなんとかギリギリでした。」
「ステータスが2倍か。」
「はい。『天の声』はボクが2倍じゃ上回れないから陽菜さんにって。」
「あの子のスキルにはおあつらえ向きだな。ん?というか『天の声』って会話できるのか?」
「普段はできないんで、固有スキルを使った時だけだと思います。」
「使い勝手が悪いスキルだと思ってたんがな。」
「ここで本当に役に立つとは思ってませんてましけど。」
「そういや、あの化物たちの話を聞いたんだよな。」
「はい。盗み聞きしてたんですけど、『蛙の女王』も『エルダーゴブリン』も日本語を話してた。ボクらと同じ世界から来た転生者だって。」
「転生者?」
「うん。死んでこの世界に生まれ変わったって。そう言えば、陽菜さんを誰かと間違って、怒り狂ってた。」
「一体誰と?」
「それは分かりませんでした。」
「そうか。」
「だけど、ちゃんと話ができれば、友好的な関係を築けたのかも知れません。」
「そうなのかもな。だが、聞いた限りの状況だと、戦わなければ陽菜ちゃんとお前だけじゃなく、俺たちも殺されてたかも知れん。」
「そうなんですが…」
蓮さんの言うとおり、あそこで彼女を倒せていなければ、ボクらは殺されていたんだろう。
「でも…」
「終わった事だ。今はこれからの事を考えろ。ここの領主との話し合いももうすぐだぞ。」
「はい。」
「俺たちはもう行く。もし、独りになるんなら帝国に来い。お前の力を役立てるポジションもあるし、軍以外の働き場所もある。」
「陽菜さんは?」
「お前と一緒だと扱いが難しい。主婦になるなら帝国には居れるだろう。そもそも帝国で女性の仕官は難しい。」
「ちゃんと陽菜さんと話をしてから決めます。」
「ああ。それじゃ、皆を呼んだら帰る。」
「はい。」
蓮さんは帰るためにパーティーを集めるために立ち上がり、人のいる方に向かう。
蓮さんはボクのことは気にかけてくれているが、陽菜を警戒している。
何かがあるのか、何かを知っているのか。
陽菜も陽菜でボクのことを気にかけてくれているけど、今後どうするのか。
何か目的があるような気もする。
そのために二人で強くなろうとしているように感じる時がある。
今まで、なんとなくそれを感じながら、ずっと避けてきていた。
ちゃんと陽菜と話をしないと。
陽菜に甘えてずるずる一緒に居るだけじゃ駄目だよな。
蓮さんたちを見送るために砦の残った壁に人が集まってきていた。
口々に感謝の言葉が投げかけられ、蓮さんたちは手を振って返していた。
ボクも蓮さんたちに手を振る。
手を振り返す蓮さんと目が合った瞬間、蓮さんたちを光が包む。
空に光の筋が伸びる。
真上ではない。
この光の筋は行き先まで伸びているのだろう。
不意に蓮さんたちが弾かれるように飛び出した。
光りに包まれたまま光のチューブの中を飛んでいく。
なるほど、文字通り飛んでいくんだな。
どれくらい加速するのかな?
目的地までどのぐらいかかるのか聞いていればよかった。