大爆発に耐えてみましょう
巨大な何か近づいて来たのに気付く。
いや、近づいて来たんじゃない。
ぶっ飛んで来たんだ!
壮大な音を立てて、ボクの近くに落ちたそれは、『貪るモノ』の分体だった。
その分体を巨大な魔力が貫き、爆音と共に辺りを熱で焼く。
これはレーザーか!?
見つからないようにやり過ごそうと、熱に耐えながらその場で蹲って体を縮こまらせる。
今度は何かが近づいてきた。
『エルダーゴブリン』だった。
まだ蠢いていた分体にとどめを刺すべく、再び何かの魔法かスキルを発動させる。
クジュッ!
その音と共に『貪るモノ』の分体が消し去られたのが分かる。
「リーコ!分体は片付けたよ!」
その声は日本語だ。
また、新たな魔物がこちらに近づいてきた。
「ミイ!本当に良いの!?」
「もうメイもリーコも自由になって欲しいの。」
「ミイ!諦めないでよ!」
「メイはミイの片割れだから…」
一体何の話をしているのな分からないけど、彼女たちは元日本人なんだ。
「頼むよ。あと少しだけ時間を稼いで!」
「うん。」
そんな会話を隠れて聞きながら、『エルダーゴブリン』を鑑定したい誘惑に駆られるが、鑑定を使って気付かれたくもない。
ボクはこのまま隠れ続けることにした。
魔王級の魔物の彼女たちだけど、日本語を話すことと、名前から考えられるのは元日本人の女性だということなんだろう。
遠隔でステータス鑑定をした時に見た名前はカメリア、ヴァーニャ、イヴァナとこちらの国の名前だった筈だ。
いま呼び合っていた名前は転生前の、日本人だった頃の名前なんだと思う。
もしかすると、彼女らはボクらのように転移してきたのではなく、魔物としてこちらの世界に転生した存在なのかも知れない。
想像どおり日本人の転生者なら、彼女たちと仲良くできるかも知れない。
ただ、今は無理だ。
今は『蛙の女王』が『貪るモノ』を食い止めている状況だが、強化の付与魔法をかけることができない今の状況では、流れ弾一つで命を落とすようなものが飛び交っているのだ。
そのうえ、『エルダーゴブリン』は何かのスキルを使おうとしていて、どこからか莫大な量の魔力が供給されて、それがそのまま何処かに注ぎ込まれているようだ。
その注入先までは分からないけど、注ぎ込まれている魔力量はボクや木村と比較して何千倍というレベルだ。
そんな量の魔力を使うスキルの威力なんて考えたくもない。
ボクは体を隠しながら、少しづつ距離をとるため後退をしていった。
彼女らが段々近づいてくるのは、『蛙の女王』が『貪るモノ』に圧されているからだ。
気が付けば、ボクは砦から2kmぐらいまで後退していた。
彼女らとの距離も1kmぐらいとっているため、もう声は聞こえない。
不意に『蛙の女王』ヘケト カメリア、いやリーコと呼んだほうがいいのだろうか、彼女が距離を取り始め、入れ替わるようにエルダーゴブリンのメイが『貪るモノ』に近づいていくのに気付いた。
入れ替わったリーコはどんどん2人から離れてゆく。
リーコはボクと2人との距離よりも更に距離をとり離れてゆく。
ヤバいっ!
もっと距離を取らないと!
もう魔物たちに見つかってもいい。
防具に付与をかけ、全力で砦に向かってボクは走り出した。
ボクに気付いた魔物が追ってくるのに構わず砦に向かって走る。
目の前を塞ぐ魔物には身体を当てて進路をこじ開けて走る。
『蛙の女王』は2km以上離れているが、まだ距離を取ろうとしている。
砦にかなり近づいたところで、見張りをしているニコライに見つかった。
「大変だ!危ない!」
何がどう危ないのか分からないけど、ニコライに叫ぶ。
『蛙の女王』の動きが止まったため、『魔力反響感知』で様子をみる。
ビンゴだ。
強力な障壁を展開していた。
「来るぞ!」
ボクは地面に這いつくばる。
「優くーん!」
陽菜の叫び声が耳に入った次の瞬間、ボクは砦の中へ移動させられていた。
そう言えば、蓮さんたちの持ってたサルベージって魔道具で手元に連れ戻すことができるんだったっけ。
背後には砦にいた人たちが集まっていた。
「優!木村さんと町田に魔法の強化を!早く!」
必死の形相で蓮さんが叫んでいる。
ほとんど使ったことのないため、一瞬躊躇してしまう。
「属性は!?」
「俺に風を町田に光だ!」
精神力強化と属性強化を合わせてかけてゆく。
町田の物理障壁で城壁を支えるように、木村がその外側から障壁と城壁を守るように魔力障壁を張っている。
なかなかよく考えた構成だと思う。
ボクが戻るまでにこうなることを察知して準備を整えていたというのか?
一体誰がこの攻撃を予想したんだ?
次の瞬間、城壁の外側が目が眩むほど激しく光る。
フラッシュから2、3秒ほど経っただろうか、爆音と振動で体を揺さぶられる。