殲滅に向けて頑張りましょう
木村の魔法の熱がボクの近くまで漂ってくる。
蓮さんたちが飛び出すために、城壁周辺を炎の魔法で攻撃したからだろう。
そう言えば基本的にどんな属性の魔法でも使えるけど、火属性が一番相性が良いと言っていたな。
ボクと陽菜は殲滅戦が多いから広範囲の攻撃魔法は羨ましいな。
集まる人たちに付与をしている間にまた陽菜が戻ってきた。
「どう?魔物は減ってきた感じはある?」
「数は少しだけ減った気はするけど、その分強くなってきてる気がする。交代の間、他のみんなが心配。疲れも出てきてるし。」
もう少し頑張れば蓮さんたちの成果も出てくると期待して、もうひと踏ん張りしてみようか。
「そう言えば、新しいスキルの使い心地はどう?」
今回の戦闘の中で取得した新たなスキル、『剣舞』について聞いてみる。
「藤堂さんから借りたこの剣と相性も良いよ。一撃で大きな魔物を倒すことはできないけど、手数が増えるし、移動しながら攻撃できるから、今覚えれて本当に助かったよ。」
「蓮さんたちの様子はどうかな?」
「うーん。私は見てないけど、ニコライさんなら。」
「ああ。さすがは帝国の使徒だぜ。魔法使いも凄いが、剣士の方もどデカい魔物をバッサバッサ斬っていってるぜ。」
すぐ横に居たのかよ。
付与に気を取られて周りの様子を伺う間がないからいちいち驚いてしまうな。
「ニコライさん、こっちの被害は?」
「重症が2人、死人が5人、軽症は坊やの魔法ですぐに治るから数えねぇ。重症の奴も帝国の使徒が治してるみたいだから、大丈夫かもな。」
「死者が多いのは?」
「貪り食われるからな。」
「そうなんだ。」
「こんだけの数の魔物相手にたったこれだけの被害だ。坊やのおかげだ。」
「でも、まだ終わってない。」
今で5人も死者が出たのだ。
戦いは長引き、疲れは蓄積されてゆく。
まだ数で言えば半分も減らせていない。
蓮さんたちが来てくれたとは言うものの楽観できない材料も多いのだ。
「大丈夫。任せといて。それじゃ、そろそろ行ってくるね。」
「それじゃぁ、任せる。」
「うん。任された。」
また、状況がわからないまま待つ時間が始まる。
どんどん魔石は消費されていくのが不安を掻き立てる。
「もう、少し付与のペースを落としても大丈夫だな。」
不意に耳元でニコライの声が聞こえる。
「いてたんですか。」
「ああ。状況が分からんから、不安だろう?ヒナちゃんは新しいスキルとやらで、すごいことになってるぞ。」
「すごいこと?」
「『剣舞』とかいうので魔物の群れに飛び込んで滅多切りだわ。ここにきて、大型の魔獣が多いのもあるけど、大型のほうが剣で捉えやすいからな。今までの何倍ものスピードで敵を倒していってる。もう少ししたら城門までたどり着いて外に飛び出るかもな。」
「帝国の使徒もかなりの勢いで倒していってるから、もう何回かヒナちゃんが出れば片付くかも知れないな。」
「そんなにですか…」
陽菜も蓮さんたちも常識を超えた戦力になりつつあるのか。
あれだけの人数でこの魔物の群れに対応できるだけの戦力となるのなら、各国が手放さないというのも分かるな。
しかし、それが分かっているだろうにカレンは何故、使徒と距離を置きたがるのか?
今考えても仕方ないな。
「少し余裕ができるんなら、また周りの状況を見てもいい?」
「魔石の余裕も考えてくれればな。」
「この周囲だけにするから大丈夫。」
再び城壁の足場に向かう。
木村はもう休憩に入っており、足場のところにはいなかった。
『魔力反響感知』で砦周辺の状況を探る。
陽菜は城門近くに達しており、まだ城門に向かって歩き続けているが、その歩く間に周囲の魔物の反応が消えて行っている。
この分だと、今回付与した1回分だけで、100体近くの魔物を倒しているんじゃないだろうか。
蓮さんと町田は大型を蓮さんが狙い、そこから漏れるのを町田が片付けていっているようで、こちらも僅かの間にかなりの数の魔物を倒している。
もう、2回ぐらいの付与、あと40分ぐらいで周囲の魔物を殲滅できるかもしれない。
この砦から離れた魔物たちはこちらに近づいてくる様子もない。
生き残れる。
光明が見えてきた。
魔石も充分足りる。
「お。状況は良いみたいだな。」
「ええ、陽菜さんの新しいスキルも、蓮さんたちの活躍も想像以上です。これならなんとかなるかも知れない。」
「なんとかなるぐらいか?」
「まだ不確定要素がないこともないから。」
「不確定要素?」
「魔物の楽園の主がどう動くか。」
「分からんことをいつまでもウジウジ考えてたって仕方ないだろ。」
「今は出来ることをすべきってことですか。」
「まぁな。今はあいつらに任せておこうや。」