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少しだけ贅沢をしてみよう

 買った普段着用の服はベルトやリボンで調整するものが多いのもあって、あまり手直しが必要ないため、店で着て帰ることにする。

 王城に着ていく服については、最低でも2日はかかると言われた。

 もし、それより早くなるようなら、仮止めなどで調整してくれると言ってくれていた。

「陽菜さん。お金もまだあるし、装備の見直しとかはしておく?」

「うーん。宿に帰ってから考えようか。」

「そうだね。もう日も傾き始めてるみたいだし。」



 宿のエントランスに入ると何やら周囲から注目されている。

 いや、宿に戻るまでもだったかも。

 お嬢様らしい格好になっているだろうし、黒目、黒髪は珍しいだろうし、美雨に比べれば負けていたものの、それなりに可愛い。

 ちょっと陽菜には失礼かも知れないけど、少しふっくらしている方が受けるのかも知れない。

 それに今頃気付いたが、陽菜から化粧品の匂いがする。

「陽菜さん、もしかして化粧した?」

「うん。」

「ごめんね。陽菜さんの折角のおしゃれが分からなくて。」

「ううん。気にしないで。」

「多分、みんなが見てるの、陽菜さんが綺麗なんだろうなって思ってさ。見れなくて残念だな。」

「もう、何を言ってるのよ。」

 その声は少し照れが入っていた。

「優くんだって、カッコよくなってるよ。」

「そう?」

 自分で分からないのもあるけど、褒められるとどう反応して良いのか分からないな。

 鍵を受け取りに帳場に向かうと、受付の人から声を掛けてきた。

「お二人とも見違えるようです。」

 お世辞でも褒められるのは、やっぱり苦手だな。

 まぁ、ボクも良い服を着て来たしな。

 二人で照れながら体を拭く湯を頼んでから部屋に戻る。

 王室にサウナはあったものの、風呂の文化が無いのが寂しい。

 やっぱりお湯に浸かって綺麗にしたいよな。




 部屋に戻ってから先に陽菜が体を拭き始める。

 陽菜はボクの目が見えなくなってから、特に隠すことなく体を拭くようになった。

 一応、礼儀として背を向けるようにはしているけど、音と匂いは届いてくる。

 特に今日は化粧と服に焚き込めた香の匂いが混じって一段と艶めかしい。

 理性が飛んでしまいそうだ。

 少しだけ、少しだけなら良いかな?

 誘惑に負けて陽菜の身体を『魔力反響感知』で視てしまった。

 そのシルエットは出会った頃とは変わってしまっていた。

 以前はふくよかな体型だったけど、今は全体的に引き締まっている。

 しかも胸は引き締まるどころか成長してるかも。

 元々、長身なのもあって、もう、モデル、いや、グラビアアイドルみたいになっちゃってるかも。

 それを認識してしまうと、もう頭にも血が上ってきた。

 心臓がバクバクいっている。

 要らないことするんじゃなかったよ…

 今夜は寝れないかも…





 寝れない心配なんてするだけ無駄だったらしい。

 悶々としていたものの陽菜が体を拭き終わるまで意識は保たず、差し込む日の光で目が覚めた。

 でも、日差しは昼に差し掛かろうかというくらいだろう。

 2週間近くリヤカーを引きながら旅を続けていたんだ。

 そりゃ、疲れも溜まるか。

 キングサイズのベッドの反対側から陽菜の寝息が聞こえていた。

 そう言えば借りた部屋にはベッドが一つしか無いんだよな。

 本当に、明日からどうしようか?

 体を起こしたところで、部屋着に着替えされされているのに気付いた。

 どうやら陽菜が体まで拭いてくれていたみたいだ。

 そこまでされて目が覚めなかったって、よっぽど疲れてたんだな。

 とりあえず、用を足すため別室においてあるポットに向かおうと立ち上がると、お茶を出すための小さなテーブルに何かが布を被せられて置いてあった。

 布を取ると良い匂いが広がる。

 薄く切ったパンにソーセージ、チーズ、ザワークラウトなどを載せたものが用意されていた。

 昨晩は夕食も食べずに寝てしまったボクのお腹が空くのを見越して準備してくれていたのだ。

 ここまでされると有り難いを通り越して済まない気になってしまうんだけど…

 それに、陽菜は昨日は夕食をちゃんと摂ったのかな?

 一人で全部食べても良いのかな?

 基本的に朝食を食べる文化が無いから、ボクが一人で食べちゃったら陽菜の分が無くなるし、どうしようか迷う。

 迷っている間に、ベッドで陽菜が身じろぎする気配を感じた。

「んんっ。優くん、起きてたの?」

「うん。」

「優くん、昨日は夕食を食べてないから、軽く食べれるものをもらっておいたよ。」

「うん。ありがとう。一緒に食べようか?」

「ううん。優くんが食べてよ。わたしはちゃんと夕食食べたから。」

「少し多いし、朝ご飯食べたいでしょ?一緒に食べたほうが美味しいし。」

 街ではあまり朝食を摂らないことが多いけど、2人で野宿するときは必ず作るようにしていたので、朝食の習慣が全く無くなった訳ではないのだ。

「うん。」

 受付にお茶を頼み、届いてから2人で朝食を食べる。

 朝食に取っていてくれたのは、薄く切った黒パンにベーコン、ザワークラウトやピクルスが載ったものだ。

 金貨を出してまで泊まる宿だけあって、パンは黒いが柔らかかった。

「もう、こんな時間だし、今日はどうしよう?武器の手入れでも出しにいこうか?」

「うん、そうだね。でも、今日はそれだけにしない?」

「王城からお呼び出しがあるまですることもないし、慌てたって仕方ないしね。」

「それに、ちょっと早めに切り上げて、美味しいものでも食べにいかない?」

 そうだな、この世界に来てからここに来るまで、贅沢なんてしたことないし、おしゃれにも縁のない生活だったもんな。

「うん。そうしよう。」

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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