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パンティア王都でも知り合いを作っておこう

「ほう。探知系スキルと鑑定系スキルの両方を持っておられますか。腕も悪くはないようですしな。」

 後方から声を掛けてくる男が居た。

「何か御用ですか?」

「こりゃ失礼。この辺りで商いをしております、ジャンと申します。少しお話をしたいのですが、お時間はよろしいでしょうか?」

 声の感じからすると、40代だとは思うんだけど、『魔力反響感知』だと顔の造形などの細かい部分までは捉えられないから、よく分からない。

 ステータス鑑定をすれば分かるんだけど、会話をしながら自然にはできないし、今はその必要もないと思うので止めておこう。

「ボクは優といいます。旅の途中だから、仕事のお誘いはお断りさせていただきたいのですけど。」

「いえいえ、そういう話ではありません。目は隠してらっしゃるもののその黒髪や顔立ちからすると、使徒様なのではございませんでしょうか?」

「ええ、そうですが。」

「カレンから来られたんでしょうか?」

「ええ。よく分かりましたね。」

「パンティアに来られた使徒様は今は北部にいらっしゃいますし、帝国の使徒様ともども、王室付ですから行商なんてしませんでしょうから。様子を見るに王城にはまだ登られていないようですね。」

「そうですが。」

「私の方から王城への先触れなどをさせていただきたいと思いまして。」

 さて、この男の狙いは何なんだろう?

「ボクらはあんまりパンティアの使徒とは仲良くないよ。」

「そうですか。そちらの人脈も魅力的なんですが、貴方たちに興味があるというのが本音ですかね。それに、先触れの役を受ければ、少しは王城に顔が売れますしね。元手もなく利がありますからね。そちらも要らぬ気も手間も省けますでしょうしね。」

 嘘を吐いてるような気配はないけど、真実に織り交ぜるというのも、騙すのに必要なものだからなぁ。

「話は変わるけど、主に取り扱ってるのは?」

「基本的に何でも取り扱ってますね。食料品もですね。」

 トリキアに寄るなら小麦が、ハルグラトに直接向かうのであれば毛織物がよく売れると陽菜が言っていたな。

「羊毛は?」

「この辺りですと、羊毛を買い入れて加工する職人がいますから、毛織物になりますかね。毛織物なら多くはありませんが、取り扱っていますね。」

「店の場所を教えてくれれば、相棒を寄越します。」

「分かりました。なら、店で待つ事にしましょう。」

 そう言って、懐から取り出した紙に何かを書きボクに渡してきた。

 受け取った紙をボクが懐に押し込むのを見ると男はこの場を離れていった。

 単純にリスクが低くて多くないけどリターンのある話だもんな。

 まぁ、早い者勝ちということでジャンさんにお願いしても良いかな。

 知らない街だし、話を聞ける人ができるのもありがたいし。



 お腹が減ってきたなと思う頃になって、ようやく陽菜が帰ってきた。

「陽菜さん、お疲れ様。どうだった?」

「商人ギルドなんだけど、誰かの紹介が無いと入れてくれないらしくて。ギルドに入ってないと足元を見られちゃうから…」

「そう、大変だったんだね。こっちは…」

 陽菜に荷物を狙ってきた輩とジャンさんの事を話す。

「これがそのジャンさんの店らしいよ。」

 ジャンさんの書いてくれた店の案内を書いた紙を陽菜に渡す。

「これって、結構大きな商会だよ。」

「話しぶりだと商会の店主みたいだったけど、独りでウロウロしてるなんて、あり得るのかな?」

「うーん。荷物は置いとかないといけないし…」

「ジャンさんは買い取っても良いような事を言ってたよ。持ってってみようか?」

「え!?本気で?」

「まぁ、嘘を吐いてる感じでもなかったし、駄目だったら戻ってきたら良いんじゃない?」

 どうせリヤカーを引くのはボクだしね。

「うん。分かった。」


 目立ってるな。

 ジャンさんの店は人通りの多いところにあるから、リヤカーを引いていってたんだけど、目立ってるよ。

 ボクは目に布を巻いてるんだけど、周りにはそれで盲目だということが一目で分かる。

 そして、陽菜が先導しているんだけど、周りには盲目の男にリヤカーを引かせる女というように見えてて、そんな囁きがあちこちから聞こえてくる。

 基本的に男尊女卑の封建社会だから、女の子がリードしていると余計に目立つんだよね。

「ジャンさんの店はどんなところなのかな?」

「王都で何代か続く商会らしいけど、代替わりしてから急に大きくなったところらしいよ。店も大きからさっきは寄ってないの。」

「それなりに有名な店なんだ。」

「そうみたい。」

「もう着くよ。」

 どうやら、正面の建物らしい。

 カレンとは違い、パンティアの王都だと2階建てまでしかない。

 建物は2階建てながらもかなり広く、店はかなりの客で賑わっている。

 活気がありそれなりに粗暴な言葉も聞こえてくる。

 大きな店舗に似合わず、裕福ではない層もそれなりの数がいるようだ。

「なるほど。ジャンさんのお店が大きくなった訳が分かったよ。」

「へぇ。どういうこと?」

「少しずつだろうけど、平民まで富が回り始めて平民相手の商売をするようになったからだと思う。通貨って単位が大きいから平民は頻繁に使ってないと思うんだけど、何かの工夫で平民たちが来やすいようにしているんだと思う。」

「どうしてそう思ったの?」

「取り扱う商品の種類が多いのと、ジャンさんの人柄かな?」

「ジャンさんの人柄は分からないけど、一つの銅貨で色々な物を合わせて買えるようにしてるみたいね。食料品から衣類まで取り揃えてる。」

「なるほどね。じゃぁ、この塩タラもここで売れるかも知れないね。」

「うん。でもちゃんと交渉できるかどうか。」

「確か、ハルグラトじゃ毛織物が売れるんだよね。」

「トリキアに寄らないってことだけど、もう決めちゃうの?」

「羊毛を仕入れてから王都で加工しているって言ってたから、ここで買うのが一番安そうだし…」

「ジャンさんのところで、塩タラを売ってそのまま毛織物を仕入れれば多少は勉強してくれそうって言いたんだよね。」

「うん。」

「上手く行けば良いんだけど。」

 陽菜と話をしていると、誰かがこちらに近づいてきている。

「あ。ジャンさんが来た。」

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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