舐められないように頑張ってみよう
「これで、坂道は終わりっ!」
丘の上から見下ろすと、パンティアの王都が一望できる場所に着いた。
パンティアの王都は巨大な城壁に囲まれた都市だ。
カレンの王都ケアールドは高低差があるうえに密集して入り組んでおり、摩天楼などの大都会を思い起こさせる。
それに対してパンティアは広く大きく整然としている雰囲気があるらしい。
王城を中心に5つの城壁で円形に囲われており、それぞれの城壁は相当な高さがあるらしい。
らしいとばかりなるのは、『魔力反響感知』で感知できるのはせいぜい1km程度が限界であり、すべて陽菜の感想だからだ。
結局、何のトラブルも無くパンティアの王都まで辿り着くことができた。
ただ、リヤカーを引きながらということもあって、11日もかかってしまったけど。
リヤカーをボクが引き、周囲の警戒を陽菜がするという役割分担だったため、かなり疲労が蓄積しているような気がする。
「優くん。本当にありがとうね。」
「まぁ、『魔力反響感知』のおかげで足手まといにならなくて本当に良かったよ。」
目が見えなくなってから、陽菜の足手まといにしかならなかったことを考えると、随分と気持ちが楽になった。
巨大な城門があるが、開放されているだけでなく、衛兵などの姿もなく出入りは自由なようだ。
「まずは、王城へ連絡を入れないといけないけど、どうしたらいいの?」
「今日のところは、衛兵さんとかを探して連絡方法を聞き出すまでね。優くんも疲れてるだろうし、宿を探して早めに休もうね。」
「うん。積荷はいつ売りに行くの?」
「早い方が楽なんだけど、慌てて損をするのも嫌なのよね。商人が泊まるような宿もあるからお金を出せば預かってくれるはずだけど。」
「でもなぁ。」
道中、街で宿をとったことがあったけど、積荷を狙ってくる奴も結構いて、結局荷物の番をする羽目になってたんだよな。
初めて王都に来るボクらが信用できるような宿を探すのも難しいような気がする。
この世界には信用できない人もたくさんいるし、積荷は塩タラ、つまり食料だというのもあり、スラム街のある王都じゃ安心できない気がするんだよな。
「塩タラじゃぁ、お腹を空かせた子どもからも狙われそうじゃない?」
「うーん。優くんにまた頑張ってもらわないといけないけど、着いたらすぐ売りに行く?」
「まだ午前中だし、そのほうがいいよ。売れてから宿を探そうよ。」
王都の巨大な城門を抜け、メインストリートから同じように荷を運び込んでいる荷馬車などが並んでいる一角を見つけ、その隅にリヤカーを落ち着ける。
「ボクが見張っているから、陽菜さん、お願いね。」
「うん。優くんも気を付けてね。」
入る前にした打ち合わせでは、まず、商人ギルドに顔を出し、そこから売り先を探すと言っていた。
カレンとは違って、パンティアでは商人ギルドとは悪い仲ではないので、加入することもできると言っていた。
小一時間ぐらい経ったろうか。
リヤカーの荷台の後ろを空けて座っていると、遠くで様子をうかがっていた男がこちらに近づいてくるのに気がついた。
「おい。ここに荷車を置くなら場所代が必要なんだ。お前、一人で見張りか?」
「場所代なんて必要ないだろ。向こうの荷馬車もそんなもの払ってなかったぞ。」
声を掛けてきた男がナイフを取り出し無造作にボクに近づいてくる。
おそらく盲目のボクに刃物を見せびらかせても見えないので、近づいて刃物を身体に当てて脅そうとでも思っているのだろう。
仕込杖でナイフを持つ手を叩き落とす。
「んがぁ!」
そりゃ痛いよね。
仕込杖には鉄の棒が芯に入っているから、それなりの重さはあるし、付与魔法師とはいえ既にレベルアップで常人を超える身体能力を手にしているのだ。
折れるまではいってないようには手加減したけど。
「何をしやがる!」
後ろに立っていた仲間がナイフを抜いて近づいてくる。
リヤカーの前方で見張りをしていた男も、仲間の悲鳴を聞きつけて慌ててこちらに回ってくる。
「人にナイフを向けてるんだ。当然だろ。」
「こいつ!見えてやがるのか!?」
大きく踏み込んで、後ろに立っていた男を打ち据える。
近くまで迫ってきていた見張りの男には、太ももをフルスイングすると、その場でうずくまる。
見張りの男もすぐには立てないと思う。
最初に倒した男をうつ伏せにひっくり返して、肩の辺りを踏みつけて、動きを取れなくする。
懐からナイフを取り出して、炎属性を付与して首筋に近づける。
「次見かけたら分かってるだろうな。アルメン。」
襟元に火が着き、必死になって暴れ始めたので、男を離してやる。
これぐらい脅しとかないと、また仲間を連れてやってくるんだよね。
陽菜と2人になってからはこういった連中に絡まれるのが多くなったんだけど、最近は手慣れてきたな。
しかし、『ステータス鑑定』を使うと名前も分かってしまうから、使える人間の前で悪いことはできないな。