偉そうな町長にカマしてみよう
ガードニー島のサーンズベイという港町に来た。
着いたのは朝方だったため、日のあるうちにサイオールという町まで辿り着けそうだということなので、そのままサーンズベイを出て歩き始めた。
一度、昼食に休憩を挟んだが、5・6時間ぐらいで目的地のサイオールの町に着いた。
この町の町長が今回の依頼者で、街で話を聞くとすぐにその屋敷が見つかった。
門で陽菜が止まってから屋敷の前までそれなりに歩いたため、かなり広い敷地なんだろう。
開いた扉もかなりの質量がありそうだ。
ただ、質はそうでもない。
屋敷の中も広いのだろうが、石造りの床は凹凸だらけだ。
応接間らしい場所に通され、ソファで座って待っていると、二人の男が部屋に入ってくる。
一人はそこそこ高齢のようだ。
「はじめまして。冒険者ギルドから依頼を受けて来た、陽菜と優です。」
陽菜が自己紹介
「こんなガキに魔物が倒せるのか?」
「自己紹介ぐらいせんか。」
「爺ぃは黙ってろ。」
どうやら、老人は既にこの無礼な男に町長の座を譲っているようだ。
「こんなガキに金貨を25枚も払わないといけないのかよ。」
おいおい、依頼料を値切る積もりかよ。
「遺跡に住み着いた魔物を倒してくれるなら安いもんじゃ。騎士を呼べば、接待だけで同じだけはかかる。それに騎士団に話を持っていく領主への礼金も要るんじゃぞ。」
「分かってるよ!そんなこと!」
まぁ、彼らが言うように、冒険者ギルドに依頼するメリットはコスト面でしかない。
数百の魔物の群れでも出れば、領主や国は軍を出さないといけなくなるだろうが、このような小規模な討伐ではあまり動かない。
基本的に騎士団は王都や主要街道、若しくは領都の防衛しかしない。
しかし、大規模侵攻となれば、面子を立てる必要があるため、騎士団が出張る必要がある。
その騎士団を動かそうとするのであれば、しかるべきところから話を通し、一定の戦費を呼んだ側が賄うことになっている。
ボクらの目的はレベル上げであるため、依頼がなくとも魔物が大量に発生している場所であれば、訪れて討伐したいというのが本音ではあるが、冒険者ギルドから依頼を受けて来ている以上、そちらの面子も考えなければいけない。
それにお金は余裕があった方が良いに決まってる。
面倒なので、もう話をまとめにいこう。
「ボクらを信用できないのであれば結構ですよ。ただし、次の冒険者がいつ来るか分かりませんし、ボクらを理由もなく帰せば、今後来る冒険者もいなくなる可能性はありますけど。」
「金は要らんとでも言うのか?」
「要りますよそりゃ。でも、きっちりと決められた依頼料を貰わないことには冒険者ギルドとしての示しがつきませんから。これ以上愚図るのなら、ケアールドに戻って報告します。」
「悪かったよ。ただ、報酬を集めるのに少し時間がかかるんだよ。前金は成功報酬と一緒に渡すようにしたいんだが。」
小娘と盲目のガキじゃ、舐められるのも仕方ないか。
それと、この男の声が陽菜の方に向いているのも気になる。
少しカマしておかないと、後で面倒かも知れない。
それに腹が立つし。
「アンタ、そもそも大事なことを忘れてないか?」
陽菜に身体強化をかける。
「目の前にいるボクらは、魔物を倒すだけの戦闘能力があるってことを。」
「何だと!」
町長が立ち上がる。
「止めといた方が良いよ。女の子にぶん投げられるのは嫌だろ?」
粗野なしゃべり方から、少しは腕に自身があるように見えたので、挑発してみることにする。
依頼を受けるにしろ、断るにしろ、もうこの茶番は終わらせたい。
陽菜のステータスは既に一般的な成人男性を超えており、更に身体強化をした膂力は通常の人間では太刀打ちできないレベルになっている。
「確かめてみれば良い。」
町長は陽菜ではなく、ボクに向かってきたようだ。
それに反応して陽菜が町長を掴んで放り投げ、派手な音がする。
「じゃぁ、依頼は…」
「すまん。こちらが悪かった。依頼どおりの報酬は渡す。」
前町長が言いかけたボクを遮り、依頼をうける返事をし、革袋に入れた前金を陽菜に放ってよこした。
とりあえず、前金分の金貨5枚は確保できた。
どこまで報酬を準備するのか少し心配だが、大丈夫だろう。
どうせ村民から集めて払うのだろうから、腹は傷まないんだろうし。
宿の無いこの町で宿泊場所は町長の家の一室を借りるということになっていたが、少し気を使いそうだと思っていると、陽菜はもう諦めたようだ。
「納屋で構わないから、借りるわね。」
「ああ、どこでも好きに使ってくれ。」