新たな目的地に行ってみよう
ベイシアさんに、ケアールドに戻る意向を伝えると、すんなりと了承してくれ、ベイシアさんが約束の報酬を持ってきてくれた。
「外から来たアンタたちを巻き込むのはどうかと思ってるんだよ。遅くなると、また面倒に巻き込まれるだろうから、さっさと行きな。」
「はい。」
「でも、今回みたいにアンデッドが出てきたら、依頼するかもね。」
「その時は、またご協力します。」
ボクらは『山小屋』を逃げるように離れ、ケアールドを目指して歩き出した。
アンデッド討伐からケアールドに戻り、2日ほど休んでいた。
リリーラムからではなく、少し近い『灰製造人ギルド』の拠点からではあったが、片道6日の道のりで、しかも帰りともなると、かなりの疲労が溜まっていた。
しかも、何だかお互いに意識してしまうような事もあって、ほとんど言葉を交わさずに過ごしている。
一度意識してしまうと、なかなか元には戻らない。
しかも、ボクの場合、失敗して陽菜に捨てられれば、そこで人生が詰んでしまう。
目の見えないボクを助けてくれるから、といった打算は絶対に否定できないし、どう考えてもボクの立場は弱い。
大袈裟ではなく、人生がかかってる。
そう思うと、進むのも戻るのもどちらも怖すぎる。
それに自分の気持ちだって、整理もできていない。
元々、パーティーメンバーの中では容姿は他の二人には劣っても、充分可愛いし、一番一緒にいたいとは思うのは陽菜だった。
こちらの世界に来た不安と年頃の男としての異性への興味も大きい。
そう思うと、今、心にある『好き』という気持ちは純粋な好きという気持ちだけではないのだと思う。
冒険者ギルドで依頼を探しに向かうが、今年は雪が早く降り始めたらしい。
しかも、降り始めから大雪で、既に北側からの情報が途絶え始め、依頼も来なくなっているとのことだ。
雪深くなったことで、馬車が使えなくなったため、人足代わりと、今年の不作により飢えて商人を襲う野盗が増えたことによる治安の悪化があり、商人の運搬随行、護衛依頼は数もかなり増えていた。
それに反して、討伐系の依頼は近場のものしかなく、また、討伐対象もゴブリンや野犬程度のものしか出ていなかった。
しかし、戦闘の勘が鈍るのも怖いため、それらを幾つか受けてはいたものの、あまり経験値の足しにはならなかった。
ボクの鈍足も手伝って依頼料だけでは赤字にしかならなかったが、幸い魔核はそれなりに集まったため、魔石の収入も含めると、それなりに余裕がある程度には儲かった。
そうこうしている間に、再び春が巡ってきたが、ボクらの関係は、微妙な距離を保ったままだった。
まだコートが手放せない季節ではあったが、陽菜が旅支度をするように言ってきた。
冒険者ギルドで良い依頼を見つけたらしい。
「次は何処に向かうの?」
旅支度をしながら陽菜に聞いてみる。
「次は、遺跡に住み着いた魔物の討伐。」
「遺跡って?」
「ガードニー遺跡っていうところ。」
「どんな所なの?」
「古代の人間の集落跡なんだけど、洞窟を利用したものと石積みの家があるの。石器時代らしいけど。そこに魔物が住み着いたらしいの。」
「どこの島?」
「ガードニー。島の名前がそのまま遺跡の名前になったみたい。」
「どんな魔物が出るの?」
「バグベアっていう魔物。ゴブリンの一種みたい。毛むくじゃららしいよ。」
「強さと数が気になるんだけど、その辺りは正確そう?」
「うーん。最近数が増えつつあるみたいで、最新の報告だと40匹ぐらいって。」
船を乗り継ぎ、ボクらはガードニー島に到着した。
意外と揺れる船の中、甲板に上がっても景色を見られる訳でもないため、じっと船室にこもっていた。
食事は持ち込んだ干し肉と固くなったパンだが、それも陽菜が用意してくれていた。
連絡船であるため、水も食料も基本的には自分で持ち込まなければならない。
船から買うこともできるが、法外な値段をふっかけられるということを先に聞いていたので、陽菜がちゃんと準備してくれたのだ。
じっと船に揺られ、今までのことを思い返す。
結局、陽菜が全ての手配をして、ボクは手を引かれているだけだ。
ヒモでも家事ぐらいは手伝ったり、もう少しマシじゃないだろうか?
何で陽菜はここまでしてくれるのだろうか?
ボクより2つ年上だけども、陽菜から見たボクは子供みたいなものだろうし、陽菜がボクに惚れているなどと自惚れたくもない。
心当たりは、陽菜とこころがあの魔物から助けるために、この目を犠牲にしたことを後ろ暗く思っていることぐらいか。
頑張って、早く目の代わりになるスキルを手に入れて、陽菜を開放してあげたいとは思うが、それすらも陽菜の手を借りるどころか、陽菜に頑張ってもらわないといけない。
盲目のヒーロー、座頭市のようにこのま戦う力があれば良かったのに。