アンデッドの街攻略の作戦を考えてみよう
簡単な朝食を摂ってから、朝から作戦会議に入る。
ボクが壇上のような場所に上げられて、作戦の説明をする。
そして、付与魔法をみんなの前で実演してみる。
2列に並ばせて、ボクの左右に先頭がくる。
「両手で魔法が使えるのか?」
そんな声が聞こえてくる。
まぁ、同じ魔法だけだし、触った物にかけるだけだから、簡単な気もするんだけど。
攻撃魔法とかだったら、難しいんだろうけど。
「まぁ、大丈夫です。」
左右の手に押し当てられた柄に聖属性を付与していく。
「おっ、すごいな。」
そのまま、次の2人が前に進み出て、また聖属性の付与をする。
3回ほどしてみると、納得したような雰囲気になっていた。
「これならいけそうだ。」
そんな声がそこここで聞こえる。
今、ここにいるのは20人くらいだろうか。
まだ『灰製造人ギルド』の人が集まり、40人ぐらいになるらしい。
日が暮れ始める頃には、騒々しくたくさんの人が走り回っていた。
「おう、ボウズ!準備はできてるか?」
「いつでも大丈夫ですよ。」
「乗りな。」
作戦でボクが乗る予定の車に乗せていってくれるらしい。
荷物も随分と載っているようだが。
松脂の臭いがすごい。
松明をたくさん積んでいるようなので、松脂に触ってベトベトにならないように気を付けないと。
車に揺られて30分程でリーズの街に着いた。
「さて、もう日も落ちてきた。さっさと準備を始めるぞ!」
アレンの言葉で慌ただしく準備が進められていく。
松明の燃える臭いが辺りに立ち込めている。
周りの準備の音が一瞬止む。
「ジョンの親方だ。」
「あの横に居るのは?」
そんな声が聞こえてくる。
「ジョンの親方。よくおいで下さいました。」
ジョンの親方というのは、アレンよりも明らかに目上なんだろう。
「そちらの方は?」
「ああ、ワシはアシヤっちゅうんモンや。」
訛ったイントネーションの声がする。
やや高いながらも30代ぐらいの男のものだろうか。
そのイントネーションは関西弁のように聞こえる。
それよりも、ボクは見えないことに驚いた。
その男にステータス鑑定が効いていないのだ。
「彼の事はこっちでは皆『灰の人』と呼んでるよ。」
「『アッシャー』ですか。」
「我らのシンボルでもある『灰』と彼の特徴を捉えて誰かがそう呼び始めたんだよ。」
ロマンスグレーの髪、グレーの外套が『灰』、そして芦屋が発音しにくさから『灰の人』になったってことか。
おや?
もしかして、カレンの言葉って、英語に似てるのかな?
「お初にお目にかかります。我ら『灰製造人ギルド』の恩人であります貴方とお会いでき、光栄に思います。」
「ただの知識の受け売りをしただけやから、感謝なんてせんでエエよ。ああ、似とるなぁ。その子らとワシの祖父は同郷やったんかも知れんなぁ。」
恐らくアレンがボクとアッシャーの風貌を見比べたのだろうか。
不意に足音が近づいてくる。
『初めまして。優くんやったな。』
薄く辛うじて男のものと思われる手がボクの手を掴む。
明らかな日本語だが、関西の訛りのある言葉で男が話しかけてくる。
『ステータス鑑定に映らんやろ。でも、その事は連れの女の子にも言わんといてくれ。また今度会うときにでも詳しく話したる。』
「ウチの故郷に伝わる異国の言葉はやっぱり使徒の故郷の言葉やったみたいやな。ワシの知識も言葉と一緒に代々伝わってきたモンなんや。」
説明するように少し大きな声でアレンとジョンに説明する。
「ワシが着とる外套は灰色なんや。銀糸やら魔獣の毛やらで織られてて、魔法とか力を散らす効果があって便利やからずっとこれを着けてたら、いつの間にか『アッシャー』なんて呼ばれてたんや。いわゆるトレードマークってやつやな。」
「アレン、優。この『アッシャー』様が、今回の作戦に参加することになった。アレンはサポートを頼む。」
「いや、アンデッドとの戦闘ですよ?貴方にそんな危険な真似をさせる訳にはいかないんではないですか?」
「安心しぃ。腕っぷしには自信あるからな。」
「どうしても言うのでしたら…」
「ほな、決まりやな。」
荷車の上でじっと待っていると、ステータス鑑定には映らないが足音が近づいてくる。
その後にはジョンとアレンも遅れてついてきている。
『確か、陽菜ちゃんやったっけ?』
荷車の横にいた陽菜が応える。
『はい。本当に日本語を話してるんですね。』
『君ら使徒には通訳みたいなスキルがあるみたいやから、意識してないんかも知らんけど、この世界は日本語やない【メフト語】が公用語で、カレンはカレンの言葉で話をしとるんや。』
『もしかして、こちらに来てから覚えたんですか?』
『故郷の村に伝わってたモンやで。まぁ、この辺で言うたら神官みたいな人間か興味がある人間しか覚えてないわ。』
『その故郷とは、この世界の事ですか?』
『この世界って何の事や?魔境に近い辺境の小さな村やけどな。色々あって詳しい事は話されへんけどな。』
一旦会話を切り、周りを窺ったようだ。
『ちょっと今回の作戦のことを話すから、メフト語に戻すわな。』
ジョンとアレンにも分かる言葉に戻して話を続ける。
「君らは優くんの失った視覚をスキルで補うために、レベルを上げたいらしいとは聞いてるんやけど、間違いないよな。」
「はい。」
「もしかして、ここに魔族がいてるんやったら、ワシに譲って欲しいんや。」
譲るも何も、ここにはスケルトン、レイス、レヴァナントしか確認できていないと聞いている。
「レヴァナントが居るっちゅうことは、ネクロマンサーが居るっちゅうことや。」
「もしかして、レヴァナントは自然発生しないんですか?」
「無いことはないけど、稀なんや。特にこれだけの数が居るのは不自然なんや。」
「別にボクらに断る必要もないですよ。それに強敵を率先して引き受けてくれるなんて、有り難いんですが。」
「経験値ですよね。」
陽菜が何かに気付いたようだ。
「せや。君らの目的を聞いてるから心苦しいんやけど。」
「それで、捕まえて何をする積もりなんですか?」
アレンの驚きが漏れ聞こえているが、ジョンの方は特に動揺もしていないようで、事前に聞かされていたのかも知れない。
「それは聞かんといて欲しいな。ちゃんと、魔法を無効化する拘束具もあるし、大丈夫や。」
少しだけ沈黙の後、
「構わんな?」
「陽菜さん、構わないかな?」
「優くんが良ければ。」
「ごめんな。優くん。」
「別に謝るような事でもないですよ。」
「さて、日も完全に落ちきった。アシャー殿はアレンと共に優の周りで待機してもらうことにする。」
ジョンはそう仕切ると、後方に向かって歩き出した。
「ほな頼むで。」
「では、参りましょうか。」
アレンか大きく息を吸い込む。
「さぁ!職人たちよ!」
周りの党員に呼び掛ける。
「我らの敵は魔物ではないが、この戦いに勝てば、我々は新たな拠点を手に入れる事になる。そうなれば、我らの理想の実現にも一歩近づく!これは、我らの理想のための戦いの一つだ!」
アレンが剣を抜く音が聞こえる。
「行くぞ!」
「おう!」
『灰製造人』たちの鬨の声が廃墟に木霊した。