『灰製造人ギルド』から新たな依頼を受けてみよう
翌朝、陽菜が先に目を覚ましており、その物音で目が覚める。
「まだ寝てても良かったのに。」
小声で話すところをみると、まだベイシアさんは寝ているのかと思ったところで、身じろぎが聞こえてくる。
ベイシアさんも目を覚ましたようだ。
「おはよう。」
ベイシアさんが身体を起こして、ボクらに挨拶する。
「そろそろ朝食の時間じゃない?」
時間が分からないので、陽菜に聞いてみる。
「まだもう少し時間はあるけど。」
「一時課の鐘はもう鳴った?」
こちらに来てからなかなか鐘を覚えることができなかったが、もうすっかり馴染んでしまっている。
「うん、少し前に。」
「みんな起きたんだったら、食堂に行こうかい?」
ベイシアさんに促され、3人で食堂に向かうことにする。
陽菜に手を引かれ、食堂に降りていくと、厨房から熱気が漏れていた。
「朝食はもう少しだよ。」
「はい。ここで待っても良いですか?」
「ああ、構わないよ。」
朝でもおかみさんの声は大きい。
二人とも朝食を摂ってから、歯磨きと洗顔をするタイプなので、朝食ができるまで食堂で待つことにする。
「しかし、昨夜はすごかったねぇ。」
「優くんの付与魔法のおかげでから。」
「山小屋で話をしてた件なんだけど、その付与魔法ってのはパーティー以外の人間にもかけれるんだよね?」
「パーティーでない方は直接触れる必要がありますけど。ちょっと鉈を抜いて柄に触れさせてくれますか?」
「なんで持ってる武器が鉈だって分かったんだい?」
鉈の柄をボクに近づけながらベイシアさんが聞く。
「腰から音が聞こえますけど、長くなくて厚いみたいだったので。」
答えを返しながら、ベイシアさんの鉈に聖属性を付与する。
「うわっ。陽菜ちゃんの剣みたいに光ってるよ。」
「光っている間は聖属性が付与されています。3分程度しかないので、実際に使う時には何度も付与する必要がありますね。」
「今日は二人とも夜までゆっくりしてな。私は領主に馬を借りて、アレンのところに報告に向かうよ。」
「そうですか、大変ですね。ボクらはこの宿で待ってます。」
朝食と身支度を終え、部屋に戻る。
ベイシアさんは荷物を持ってすぐに部屋をあとにしたので、二人きりだ。
「ねぇ、優くん。勢いで『灰製造人ギルド』の依頼も受けちゃったけど、どうしよう?」
「受けるって言っちゃったものは仕方ないだろうね。今考えると、本当にどんな活動をしているのか、情報を集めてからの方が良かったかな?」
「ごめんね優くん。勝手に決めちゃって。」
「決める方向で陽菜に水を向けたのはボクだよ。こっちこそごめん。」
今更ながら、ボクも陽菜と同じように不安にはなっている。
「話を聞く限りは、そんなに悪いことをするような人たちじゃないようだけど。ベイシアさんも良い人みたいだし。」
「一宿一飯の恩とでも思っておこうか。」
田舎町であるうえ、特産品もないため、店なども少なく、買い物に出かける気も起きず、始終宿で夜まで過ごした。
午後6時の終課の鐘が鳴る前にベイシアさんが帰ってきた。
「ただいま。何とか間に合ったね。」
今は冬なので、もう日も沈みかけの時間帯だろうか。
「お疲れ様です。申し訳ありませんが、私たちはゆっくり休ませてもらいました。」
「いやいや、昨日がんばったのはアンタたちだからね。気にするこったないよ。悪いけど、今から討ち漏らしの確認に行かないといけないけど、大丈夫かい?」
「はい、準備はもうできてます。」
言いながら陽菜がボクの手を取る。
廃城に着くと、今日は昨日の二人に加えて、男爵家の執事のトムも来ている。
今日はトムが場を取り仕切るようである。
「それでは、討ち漏らしがないか、確認に参りましょうか。」
魔石ランタンを灯して、昨日と同じように先頭の陽菜について、廃城に入ってゆく。
もう、廃城に怪しい気配も無く、アンデッドには遭遇しなかった。
廃城を一回りして、城門に戻る。
「アンデッド討伐を確認いたしました。報酬については、明日にお渡しいたしますので、九時課に男爵邸までお越しください。」
それだけ言うと、トムは衛兵を連れてそそくさと帰っていった。
「まぁ、愛想のないやつだね。私らも帰ろうか。」
九時課というと、午後3時ぐらいだな。
明日は報酬待ちで一日使ってしまうことになる。
時間も宿代ももったいないな。
小雨がパラついていたこともあり、結局、ダラダラと翌日の待ち合わせの時間まで宿で過ごすことになった。
ちょうど、出掛ける時間の少し前ぐらいから雨は止んだ。
「優くん、良かったねぇ。晴れ男なのかな?」
「何だい『晴れ男』ってのは?」
「私たちの故郷の言葉で、外出すると必ず晴れになる人のことです。」
「へぇ、でも、この国じゃ、大概は晴れだから、反対の方が有難がられるね。」
そう言えば、この国は雨が少ない。
島国なのに雨が少なく、川も多くないし、池というより沼みたいなのが多く、水の確保が非常に難しい。
話をしている間に男爵邸に着くと、トムが応接まで案内してくれる。
そこには、見たことのある顔、『灰製造人ギルド』のアレンがソファに座ってボクらを待ち受けていた。
「私どもからの報酬はこちらに。後はアレン様と打ち合わせをすると聞いておりますので、私は退席させていただきます。」
金貨が入っているだろう革袋を応接テーブルに置くと、トムは部屋を出ていった。
「やぁ、ベイシアから聞いたけど、廃城では大活躍だったみたいだね。」
「いえ、たまたま付与魔法を持っていたからですよ。」
「それだけじゃないと思うけど。」
アレンの声は陽菜の方に向かっていた。
「そうだね。陽菜さんは商人とはいえ、一端の剣士と言ってもいいくらいの実力がありますから。」
「そうみたいだね。それじゃ、早速、依頼の話をしようか。」
その掛け声とともに、部屋は緊張感を取り戻していった。