聖属性付与のテストをしてみよう
陽菜を先頭にして、城の中を進んでゆく。
事前に下見をしていたのもあり、内部の構造はそこそこ把握できている。
少し早いが、陽菜に『手順』スキルで構築したアンデッド用強化を施す。
あちこちにアンデッドらしき気配が漂っており、そのうちの一つがこちらに向かってきている。
「陽菜さん。多分、レイスだ。変な位置から壁も関係なくまっすぐこっちに向かってくるのがいる。」
「多分って?ステータス鑑定じゃないの?」
「何か気配がするから。」
そう言っている間にレイスらしき気配はステータス鑑定の範囲に入る。
「来たよ。レイスが。右側の壁から。」
「見えた!」
陽菜が剣を振る音と同時に、何か空気が抜けたような音がする。
その音に追いつくように、鼓膜ではなく心に直接響くような断末魔が聞こえてきた。
ステータス鑑定の表示はキレイに消えている。
ちゃんとレイスを倒せたようだ。
「一振りだったね。何か少しだけ手応えがあった気がする。倒せたのかな?」
「大丈夫。ステータス鑑定もキレイに消えたよ。」
低位のレイスだからか、ほとんど手応えが無かったみたいだが、高位のものだとどうなるのだろう?
「調べたとおりだったけど、充分過ぎる威力よね。」
衛兵たちは呆気にとられているのか、感嘆しか発していない。
「陽菜さん、進もうか。向こうの広間、いや、食堂だったかな?そこにたくさんの気配があるよ。」
「了解!」
陽菜のテンションの上がった声が辺りに木霊した。
そんなに大きな城でもないうえ、夜間は向こうからどんどんとやってきてくれるので、あっという間に廃城のアンデッドは片付いた。
レイスが18体、スケルトンが9体だった。
スケルトンが少ないのは、昼間に調子に乗って倒しすぎたからだろう。
廃城に入ってから、まだ2時間も経っていないだろう。
「アンデッドの討伐は終わりましたよ。」
陽菜が衛兵たちに声をかける。
「もうか。いや、かなりの数は倒してたよな…」
半ば呟くように衛兵の一人が言った。
「聖属性が使えればこんなものですよ。本来、広範囲の浄化魔法でも使えれば一瞬で終わるようなことですから。」
広範囲の浄化魔法なんて本当にあるのか知らないが、納得させるために適当に言っておく。
「そうなんだ…」
スケルトンは一般的に聖属性が使えなければ、攻撃して弱体化したところを聖水などを使って浄化をしなければならないらしい。
レイスだと、護符などが無ければ、ダメージを与えることもできず、魔法や精神攻撃に苦しめられるらしい。
因みに、精神攻撃や憑依などを受けてしまったら、効くかどうかは分からないが、身体自体に聖属性付与をしようと思っていたが、今回はそんな事を心配する必要もないくらい、すんなりと片付いてしまった。
レイスが攻撃に移るには、視認できないといけないみたいなのだが、入り組んだ城内であるため、『ステータス鑑定』で事前に感知し、姿を現したと同時に攻撃していたため、レイスか攻撃をすること自体目にしていない。
スケルトンだと、物理的に移動をしてくるので、そう上手くは行かなかったが、そもそもスピードがないため、ほとんど先手を取れたため、こちらも苦労なく倒すことができた。
「それでは、討ち漏らしの確認のため、また明日お願いしますね。」
ボクはまだ思考停止している衛兵たちに声をかけて、今日の仕事を打ち切った。
ベイシアさんは領主に相談があるとのことで、宿には二人で帰ってきた。
「おや?今日は仕事に行かなかったのかい?」
宿に戻ると、おかみさんが怪訝な様子で声をかけてくる。
「あ、もう終わりましたよ。あとは明日に討ち漏らしがいないか確認するだけです。」
「本当かい?」
「ええ。」
「ありがとう。本当なら、これで夜も安心してお客を呼べるようになるね。」
「やっぱりレイスも一撃だったね。」
陽菜は上機嫌だ。
「優くんはレベルは上がらなかったの?」
「ううん。今日は上がらなかったよ。陽菜さんは?」
「19に上がったけど、スキルとかは無かったよ。」
数としてはそれなりに倒したのだが、やはりレベルが上がりにくくなっている。
最近、気が付いたのだが、魔法自体はレベルに関係なく習得しているようである。
新たなスキルの習得は、レベルアップにより取得し、取得したスキルは使用した回数によって習熟度が高まり、そのスキルのレベルが上がっている。
普段から使いっぱなしの『ステータス鑑定』スキルは、戦闘中でなくともレベルが上がっているからだ。
レベルが上がるに連れて表示される情報の詳しさが増して来ている。
魔法については、魔力量との兼ね合いもあるのだろうか?
ただ、ボクの付与魔法はどれもそこまで魔力を消費するものではないので、あまり実感はない。
まるでゲームのような親切設計だといつも思ってしまう。
考えごとから意識を引き戻してみると、陽菜の寝息が聞こえている。
いくら楽な戦闘だったとしても、命のやり取りだ。
疲れないはずはない。
「お疲れ様。今日もありがとう。」
聞いてはいないだろうが、陽菜に労いの言葉をかける。
ボク自身はまだ眠気は無かったため、レイスが落とした魔核を握ってみる。
スケルトンには魔核は無かったが、レイスは稀に魔核を落としてくれた。
ただ、レイスの落とす魔核には、若干ながらも魔力が含まれていたため、完全な魔石にするため、このまま魔力を注いでも大丈夫か少し心配だ。
まだ、これまでに手に入れた魔核があったため、先にそれらを魔石に変える作業をしばらくしていると、廊下から足音が聞こえる。
ベイシアさんの足音だ。
「おかえりなさい。」
「あら、まだ起きてたの?」
「いや、もう少ししたら寝ますよ。」
「そう。起こしたと思っちゃったよ。私ももう寝るわ。」
「はい。おやすみなさい。」
そうは言ったものの、ベイシアさんの寝息はしばらく聞こえなかった。