アンデッドを倒してみよう
翌朝早くから出発し、昼過ぎにリリーラムに到着したボクらは宿で遅い昼を摂ってから、ベイシアさんと一緒に正式な依頼主である男爵の館に向かう。
執事らしき男に依頼を受注したことを話し、依頼の詳細についての説明を受ける。
今回は、見届け人として、討伐時に男爵の衛兵2人を同行させ、討ち漏らしの確認のため、次の日の夜にも廃城へ見届け人と一緒に入るとのことだった。
特別な情報もなく、すぐに面談を終えた。
ベイシアさんとは、廃城の様子を見てくるといって、男爵邸の前で別れ、陽菜と2人で廃城に向かう。
廃城は男爵の館から街を挟んで向かい側に建っており、宿は廃城とのちょうど中間ぐらいにあった。
レイスなどは、夜にならなければ出てこないことが多いが、スケルトンなら暗ければ出現する。
聖属性付与の効果を確かめるためだ。
陽菜の勢いに負けてここまで来たが、実際にはまだ使ったことは無いのだ。
「陽菜さん、すごい気配がする。もう、廃城に着いた?」
「よく分かったね。私も気味悪いよ。」
見えないため、おどろおどろしい雰囲気を感じることができないが、明らかに気配というか、威圧感のような侵入者に対する敵意が向けられている。
『手順』スキルを使い、身体強化と武器に聖属性を防具には防御力強化を付与していく。
レイス相手なら防具にも聖属性を付与するところだが、まだ日の高い今はスケルトンだけが相手となるため、防御力強化の方が良い。
「剣がうっすら光ってる。これなら、効果の確認が残ってるかすぐに分かるね。」
陽菜がそう言いながら剣を構える。
何というか、アンデッドは物凄い気配を発しており、その居場所が把握できてしまう。
アンデッド故のものなのだろうか。
気配の方向を探り続けていると、『種族:スケルトン』の表示が目に入る。
そのステータス表示は左前方から正面に向かってきている。
「陽菜さん。左からスケルトンが曲がってくる。」
「了解!」
ステータス表示が近づいてくるにつれ、硬いものが擦れ合う音が聞こえてくる。
「いくよ!」
ガツッ!
陽菜がスケルトンを斬る音が聞こえてくる。
斬るというより、叩き割っている音だが。
最初の想定どおり、一撃でスケルトンが行動不能になったようで、崩れ落ちる音がするとともに、ステータス鑑定で体力が無くなったことが確認できた。
「陽菜さんの言ったとおりだね。」
「そうでしょ。余裕があるうちにいろいろ試してみるね。」
そう言いながら、陽菜は次のターゲットに向かう。
ガッ!
今度はやや細い部分を狙ったようだ。
「やっぱりか。」
「手か足を狙った?」
「うん。やっぱり末端だと、消滅はしないね。背骨とかを狙わないと駄目みたい。」
「って言うか、陽菜さん。めっちゃ強くなってない?」
「そうねぇ。剣術スキルのレベルが4まで上がったからかな。」
陽菜の剣術スキルはレベルが上がるだけではなく、基礎スキルである細剣術が派生し取得もしている。
ただ、魔物相手では攻撃の幅が狭まってしまうため、細剣術は使用していない。
「剣術スキルをカンストしたらどうなるんだろう?」
「カンスト?」
「レベルを上げきったらってこと。」
「新たに『剣聖』っていうスキルになるんだって。ただ、レベル4から先はなかなか上がらないみたい。冒険者ギルドで聞いてみたんだけど、この国でも数人しかいないらしいよ。」
「陽菜さん。次が来たよ。」
「次は頭だけ狙ってみるね。」
陽菜は10体程度のスケルトンを倒したが、一方的だったこともあり、さほど疲労は感じさせない。
様々な条件でスケルトンを攻撃してみた。
聖属性を付与しなければ、頭が背骨をかなり砕かないと戦闘不能にはならない。
また、手足などの末端部分については、欠けはするものの、時間をおけば再び組み合わさって回復する。
一方、聖属性を付与すれば、頭、背骨に攻撃が達せば、一撃で倒すことができる。
手足などの場合は、回復しなくなる。
陽菜の仕入れた情報通りの威力だった。
スケルトンは報告では20体程度いるとのことだったが、日中は一定の活動はするものの、夜間ほど活動的ではないためか、城を一回りしてみたが、それ以上の数は現れなかった。
まだ、日は高いが一旦宿に戻って休むことにした。
「優くん。レベルは上がった?」
「ううん。まぁ、スケルトンも10体ぐらいしかいなかったし、レベルも18にもなれば、なかなか上がらないものだしね。」
「なんか20まで上がれば、良いスキルが手に入るかもね。」
「うん。」
気が付けば2人ともウトウトしており、日が落ちてぐんと部屋が冷えてきていた。
廊下の足音で目が覚める。
「陽菜さん。ベイシアさんが来たよ。」
「うんっ…」
陽菜が背筋を伸ばしているようで、骨が鳴る音も聞こえている。
ノックの後、ベイシアさんが呼び掛けてきた。
「入っていいかい?」
「ええ、どうぞ。」
陽菜が応えると、ベイシアさんが入ってきた。
「もう日が暮れるよ。そろそろ準備をしないと。」
「はい。」
ボクらは身支度をすると部屋を出た。
廃城に着くと、既に男爵の衛兵が到着していた。
ステータス鑑定によると、ヘンリーとセドリックだ。
「こんばんは。私、陽菜とこちらが優です。今日は宜しくお願いします。」
「あ、ああ。」
陽菜に声をかけられた衛兵たちは、少し戸惑った返事をする。
説明は聞いていたようだが、実際にボクらを見て不安になっているようなので、彼らに声をかけておく。
「戦うのは陽菜さんだけですけど、安心して後で見ててください。」
陽菜が先頭に立ち、ボクがランタンを持って照らしながら廃城に入ってゆく。
それなりに資金も貯まっていたため、ランタンについては、ケアールドで魔石ランタンに買い換えており、それに火を灯した。
「ほう。」
本体もかなりの高級品になるのだが、使用する魔石のコストが非常にかかる、高級装備の代表格である。
それを使う姿を見て、一端の冒険者だと思ったのだろう。
魔石はボクが作るので、ボクらにとって維持コストはタダみたいなものだが。
衛兵たちは念のため松明をくべているようで、臭いと音がしていた。