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『灰製造人ギルド』のことを聞いてみよう

 冒険者ギルドに依頼した、廃城のアンデッド討伐依頼については、『灰製造人ギルド』から出されたものではなく、領主である男爵からの依頼であった。

 男爵としてこの廃城自体も活用したいとは考えていたらしいのだが、あまり知られていないゴーストタウンがこの近くにあり、そこを灰製造人ギルドの拠点にするために、アンデッド討伐のできる人間を呼びたかったらしい。

 教会の僧侶や神官であれば、神聖魔法を使用できるが、王朝との繋がりも深いため、そちらに頼ることはできなかったのだ。

 そのため、冒険者ギルドに依頼を出し、来たのがボクらと言うわけだ。

「あとは報酬なんだが、廃城の倍ぐらいまでしか出せないんだが…」

「廃城の分だけでも、少なくはないのですが、危険度とかかる日数にもよりますが。」

 報酬の交渉に関しては、陽菜に出てもらおうか。

 陽菜を肘で小突く。

 依頼書では廃城に出現する魔物はレイス約20体を中心にスケルトンが同程度となっていた。

 それで成功報酬は金貨20枚だ。

 通常の魔物と違い、聖属性が無ければ倒せないことを考えると妥当な金額なんだろうか。

「廃城の魔物の数は冒険者ギルドの依頼書どおりですか?」

 ここから陽菜が交渉に入り出す。

「ああ。間違いない。そこで信用を失っては元も子もない。」

「分かりました。では、ゴーストタウンの状況はどうなっていますか?」

「ゴーストタウン、リーズの街にはレイスを始め、様々なアンデッドが200体近い。」

「リッチのような強力な魔物の存在は確認されていますか?」

「いや、正体までは掴めていないが、かなりの数のコープスがいる。上位の死体を操る魔物がいる可能性が高い。」

「コープスとはどんな魔物ですか?」

「何者かに使役された死体のことだ。」

「話を聞くだけでは、相当困難な依頼ですね。私たちだけでは不可能です。」

「そう言えば、君たちのジョブを聞いてなかったな。」

 陽菜は断りたがっているようだが、少し話を聞いてみるか。

「ボクが付与魔法師で、陽菜が商人です。」

「君が聖属性魔法を使えるのか?」

「いいえ、付与魔法で武器に聖属性を付与します。」

「で、戦うのは、そちらのお嬢さんというわけか。」

 話しながら何となく作戦がまとまってきた。

「はい。パーティーメンバー以外は触れないといけませんし、効果も3分程度しかないので、廃城はボクらでなければ難しいでしょう。」

「うむ。」

「リーズの街であれば、隊列を組みながら侵攻することができるんじゃないですか。皆さん、それなりに武装をしているようですし、騎士や兵士を経験された方が多いようですから。」

「何故そう思う?」

「話し方も歩き方もですかね。剣なんて高価な物の音がたくさん聞こえますし。」

「そうか。」

「ボクらの目的は、レベルアップをすることです。廃城はボクらだけでさせていただいて、リーズはボクらを中心に貴方たちと一緒に掃討する。」

 また陽菜を肘で小突く。

「それなら、最初に言っていただいたとおり、ゴーストタウンの攻略は廃城の倍で大丈夫です。ただし、参加する全員に使うための回復薬などの必要なものの手配はそちらでお願いします。」

 回復薬は1本金貨10枚程度する高級品だ。

 それを自前で用意するとすぐに赤字に転落する。

 皆で使う前提であれば、参加する人間からは不平も出ないし、身銭を切って買った回復薬を他の人間に使わないで恨みを買うこともない。

 その日はその後、昼前まで作戦会議に費やした。


 昼から出発し、廃城のあるリリーラムの近くの村まで移動する。

 通常、急げばリリーラムまで何とか辿り着けるぐらいの距離らしいが、ボクを連れてでは難しい。

 アレンの側近らしきベイシアという女性が案内兼監視として同行している。

 まぁ、作戦でそれなりの投資をすることになるため、逃げられれば大損害ということを考えれば、当然だろう。

「アンタたちは連れ合いってことで良いんだよね?」

 恐らく、泊まる場所を気にしてのことだろう。

 寂れた村のため、宿もないため、誰かの家に泊めてもらわないといけない。

「ベイシアさんが大丈夫なら、3人一緒でも大丈夫ですよ。」

 陽菜がそう答える。

 まぁ、今の2人の関係を問い質されても、困るし。

「じゃぁ、そうさせてもらうよ。」

「いろいろとお話もしたかったので、お願いします。」

 暗い中、同じ女性として、陽菜がベイシアさんと身の上話をし、『灰製造人ギルド』のことも少し聞き出せた。

 ベイシアさんはブリューニ島北部の貧しい村の生まれで、泥炭地がほとんどを占めるため、農地は少ない。

 ある年、大寒波に襲われた。

 売り物である泥炭には手を付けることは許されず、大雪のため馬車が動かせなくなり、食料は入ってこないうえ、泥炭を売りにも行けなくなる。

 彼女の夫は同じ泥炭の切り出し夫を集め、何とか担いで売りに行くよう領主に談判したが、許されなかった。

 不正をされそうというのがその理由だった。

 彼女の夫は領主に食い下がったことを理由に見せしめに殺され、彼女の子どもたちは、飢えと寒さで体調を崩して亡くなった。

 田舎では女性ひとりで生きていけるような環境ではなく、仕方なく街に出て体を売って暮らしていたらしい。

 その時に『灰製造人ギルド』のことを知り、仲間に加わったとのことだ。

 『灰製造人ギルド』は王政下の束縛を脱し、市民に経済や政治活動の自由を実現させることを目的にしている。

 武力行使も厭わないといったやや急進的な考え方をしている側面もあるが、基本的には貧しい者や賤しいとされる人たちを助ける活動もちゃんとしているらしい。

 眠れないかと思っていたが、二人の話し声を聞きながらすぐに眠ってしまった。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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