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怪しげな人たちからの依頼を受けてみよう

「誰だ!」

 森の中に居た男は、警戒しながらボクらに声をかけてきた。

「盗賊に追われてる!貴方も逃げてください!」

「盗賊か。」

 男は何故かそこから動かない。

「優くん!迎え討つしかないよ!」

 陽菜は、この動かない男も守ろうとしている。

 男が逃げようとしているのであれば、まだ、時間稼ぎをしても良いと思ったんだろうけど。

 この男のために陽菜が人を殺さないといけないなんて、腹が立つ。

「アンタ何してる!早く逃げろよ!」

 陽菜は踵を返し、剣を構えて辺りを伺っている。

 仕方がない。

 ボクも覚悟を決めて、仕込杖を抜いた。

「盲た少年と女か。君らか。善良な性に見えるな。」

 何を言っているのか分からないが、腹が立って、怒鳴ろうとしたとき、近くから多数の気配が動くのを感じた。

「この集団は…」

 目の前の男が、落ち着いてはいるが、よく通る低い声で追手のいる方向に向かって声を上げた。

「俺たちは『灰製造人ギルド』だ。」

 確か、ブリューニ島北部を含め、カレン連合王国では、泥炭が採れることから、炭焼きがあまりおらず、専ら灰製造を行う職人が森にいると聞いたことはある。

 灰は石鹸や火薬の触媒などに利用するらしい。

「灰製造人ごときが、何を偉そうに!」

 盗賊たちはだから何だというようは反応がほとんどだったが、リーダーのような男が下っ端たちを止めた。

「お前ら!もう止めだ!帰るぞ!」

「ライの兄貴!何を言ってるんっすか!」

「うるせぇ!死にたかったら俺が殺してやる!」

 盗賊たちは渋々リーダーに従って、退いていった。

「嬢ちゃん、口が開いてるぞ。」

 二人とも呆気にとられた表情をしていたらしい。

「こんな所で会うなんて驚きだが、俺たちがギルドでの依頼人だ。アンデッド退治の依頼を受けて来たんだろ?」

 集まり始めた灰製造人たちは20人近くになっていた。

 しかも、金属音から全員が何らかの武器を帯びているようである。

「あの。貴方たちは一体…」

 陽菜が素直に疑問を口にする。

 おかしい。

 この男の声や話し方からは教養が感じられる。

 本来、灰製造人は貧しい者が多い筈だし、街の人間は森での仕事をする人間を恐れたり嫌ったりすることが多いと聞いたことがある。

 また、持っている武器についても、先程、剣を鞘に収める音がしていた。

 剣なんてものを得物として持つ人種は限られる。

 そして、火を扱う、木を燃やす筈の彼らから、煙の染み付いた匂いがしないのだ。

「陽菜。彼の服装は?」

「普通?だけど?」

 明らかに彼らは言葉通りの『灰製造人』ではない。

 ここで問い質したとして、自分たちがどのように扱われるのか。

 とりあえず、この疑問は横に置いておこう。

「アンデッド退治の依頼を受けてケアールドから来た冒険者で、ボクが優、彼女が陽菜です。先程は危ないところを助けていただき、ありがとうございます。」

 ボクは最初に出会った男に向かって話しかける。

「気にしなくてもいい。アンデッド退治は特別なスキルがないと難しいから、君らが来てくれないと俺たちも困る。俺はアレン。『灰製造人ギルド』の親方の一人だ。」

 アレンより年上に聞こえる女性の声が後ろから聞こえてきた。

「アレン。この子たちがギルドの依頼を受けて来たんだろ。このまま、山小屋に連れて行ってもいいんじゃないかい?」

 別の男も会話に加わってくる。

 親方という肩書があるにも関わらず、彼を親方と呼ぶ人間はいないようだ。

「おい、大丈夫かよ?」

「灰の人も言っていたが、使徒なら、特にこの国の使徒なら、俺たちに敵対しないだろう。」

「本当かよ。」

「休める場所まで案内する。街道の荷は誰かに取りに行かせる。」

 そう言って、更に森の奥にボクらは案内された。



 鳥の声が聞こえ、朝を感じる。

 もう少しすれば、気温も上がってくるだろうか。

 昨晩に彼らのアジトのような場所にボクらは案内され、休むように言われた。

 そんなに広い建物でもなく、何人かが雑魚寝している中に放り込まれた。

 その中でかなり若い数人がアレンを『親方』と呼んでいた。

 派閥のせいか、年齢のせいかは不明であるが、彼はサブリーダー的な立ち位置にいるのだろう。

 雑魚寝をしている人数は15人程度。

 陽菜はボクに掴まるようにして寝ていた。

 ここにいる人間のうち、何人かは『灰製造人』と思しき匂いをさせているのもいた。

 しばらくすると周囲のあちこちで身じろぎが広がり、部屋から出るものも出始める。

 陽菜も周りの雰囲気につられて目を覚ました。

「おはよう。優くん。」

 部屋に居た人たちとは違った、しっかりとした足音が部屋に近づき、入ってくる。

「おはよう。優、陽菜。」

 アレンだ。

 その横には昨晩の女性もいるようだ。

「アレンさん。おはようございます。休む場所までいただいて、非常に助かりました。」

「気にしなくていい。朝食を摂りながら依頼について話をしたい。」

 そう言って、ボクらを別の部屋に案内する。

 石造りの建物で、どちらかというと、屋敷というよりも工房みたいな場所かも知れない。

 詳細は後で陽菜から聞こう。


 陽菜に誘導され、席に着く。

 朝食として、無醗酵の硬いパンとスープが用意されていた。

 匂いからすると、いんげん豆のスープか。

「君たちは『日本』から来た使徒なんだろ?」

 開口一番、アレンが聞いてくる。

 使徒自体が異世界から召喚されてくるというのは、皆知っていることではあるが、それが『日本』であることを知っている人間はそうはいない筈だ。

 『日本』のことを話すことは別に禁じられてはいないが。

「よくご存知で。」

「俺も灰の人から聞いた受け売りだよ。彼からは君らには『自由主義者』って説明すると分かると聞いていたのだが。」

「ええ。理解しました。その灰の人もボクたちと同じように使徒なんですよね。」

「似たようなものとは言っていたよ。彼は助言や助力はしてくれるが、我らの活動に参加している訳ではない。」

「それを今、ボクたちに教えるということは、どういう意味ですか?」

「固くならなくてもいい。口をつぐんでいてくれれば良い。『民主主義』を知る君たちが邪魔をするとは思えない。」

 日本人からすれば、封建制度の今の世の中よりも、自由主義や民主主義の世の中が良く見えることは確かだろうから、目的を知れば参加する気は無くとも、邪魔だてしない人間がほとんどだろう。

 また、パンティア王国やガルディア帝国では体制側に取り込まれているが、カレン連合王国では使徒は体制側から疎ましく思われている。

「確かに。了解しました。」

「さて、それじゃ、依頼の詳細を説明しよう。」

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
こちらもご覧ください。


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