少しばかりの希望に縋ってみよう
ボクを見捨てず手を引いてくれ、更に新たな希望を見つけてくれた陽菜には頭が上がらない。
細々とした依頼を受け、少しづつ今の状態でも旅慣れてきた。
気が付けば、陽菜と2人の生活も半年を超え、本格的は冬も目前といった季節になっていた。
今はカレン連合王国の中の少し小さな島である、セジル島に来ている。
人口5,000人程度の島ではあるが、錫と銅が採れる鉱山の島だ。
住んでいる住民のほとんどは、鉱夫であり、稀に出現する魔物への対策として、冒険者を雇っていた。
その冒険者の交代のタイミングでこの島に来た。
ギルドから報酬が出るようなものではなく、依頼主である坑道の持ち主が依頼期間に報酬を出してくれるものだ。
食事については鉱夫たちと一緒に飯場で振る舞われ、鉱夫たちと同じ宿舎を借りられる。
倒した魔物の数や強さに応じて、依頼主が決めた報酬が払われることになっている。
まぁ、依頼主としてもあまり経費をかけなくても良いし、僕らとしても生活費を使わなくても良いこともあり、この依頼に飛びついた。
1日1件から2件ではあるが、毎日のように魔物討伐の依頼があり、レベルアップしたいボクからすれば、無理もせず、時間を無駄にもせず、また、坑道が主戦場となるため、遠くまで歩くこともなく、ボクたちからすると、理想の環境であった。
終始、陽菜に矢面に立ってもらい、ボクは灯りを持っているだけだったが。
この坑道では、主に土竜と蜘蛛の魔物が発生し、まれに巨大な蛇の魔物が現れる。
毒は無いため、まだ、安全だ。
魔術師には敵わないものの、陽菜の剣に風や火属性を付与することで、危機的な状況に陥ることはなかった。
こちらに来てからたったの2か月でレベルが15に届こうとしている。
最初の、まだ4人でパーティーを組んた時の目標のレベルだ。
15まではパーティーとしてレベルを上げていこうと約束したんだった。
そして、その時が来た。
坑道に巣くう、巨大蜘蛛を陽菜が倒した時、レベルアップのアナウンスが聞こえた。
《レベルが15に上がりました。》
陽菜も同時にレベルが上がったようで、ボクの方を見てくる。
急いでステータスをチェックする。
スキル欄に『ステータス鑑定』の文字が見えた。
「覚えた!『ステータス鑑定』だ!」
『ステータス鑑定』スキルを起動すると、頭の中に陽菜のステータスが表示される。
名前:桜田 陽菜
レベル:15
性別:女
職業:商人
種族:人間
▼ステータス詳細を表示させますか?
鑑定された内容は、その人物がいるあたりの距離感を持って表示されていた。
ステータスを表示できる範囲は、10から15メートルぐらいだろうか。
視覚の代わりにはなり得ない、ほんの些細なサポートぐらいではあるが、少しだけホッとした。
不意に陽菜のステータス表示が近づいてくる。
陽菜の足音と匂いですぐそこまで近づいてきているのが分かった。
「何とか、一歩進んだね。」
陽菜の手は柔らかく温かかった。
新たに覚えたスキルの中に『手順化』というものがあった。
付与魔法の基礎スキルが初級から中級になった際に習得したものだ。
これは、魔法の発動をマクロのように登録できるというものだった。
確かに付与魔法を使うボクにとっては非常にありがたいスキルで、登録しておいた手順を実行すると自動的に順を追って魔法を発動してくれる。
例えば「通常戦闘準備」と登録しておいた手順を実行すると、身体強化、武器強化、防御弱体化と順を追って実行してくれる。
昔のような4人パーティーなら、相当役に立っただろうけど。
レベル12で覚えた弱体化魔法も非常に役立っている。
強化魔法との相乗効果で、この鉱山で陽菜独りで倒せない魔物はいなくなった。
この島に来てから3か月ぐらいは経った頃、もう坑道に現れる魔物も少なくなってきていた。
ボクらのレベルもレベル18までは上がったが、このところ頭打ちになってきている。
今日の魔物討伐の報告をするため、この坑道の監督のところに来ていた。
「嬢ちゃんら、辞めたいって言ってたけど、これからどうするんだ?」
年の割には甲高い声で、落ち着きのない話し方をする男だ。
「もう、資金もそれなりに貯まりましたし、私たちの目的はレベルアップなので、そろそろ別の場所に行こうかと思っています。」
「そりゃ、残念だな。鉱夫とも仲良くしてくれて、トラブルも少なかったし、仕事はちゃんとしてくれてたから、良かったんだがな。」
まぁ、基本的に男ばかりが缶詰にされている職場だ。
当初は陽菜に男たちが絶え間なく言い寄ってきていたが、ずっとボクが離れないことと、強化を受けた陽菜の力があったため、一週間もすれば、みな諦めてくれたのだ。
それからは、鉱夫たちとも仲良くやっていけていた。
どちらかどいうと、鉱夫は見下されることが多い職業だったみたいだが、ボクらにそんな知識も無かったのも良かったのかも知れない。
「しっかし、恐ろしい速さでレベルが上がってるんだな。前に来た奴らはレベル12から15に上がるのに、1年弱ぐらいはかかってたぞ。そもそも何でそんなレベルアップに拘るんだ?」
確かに他の人間と比べると、レベルアップが早いようだ。
2人パーティーなのも関係しているのかも知れない。
「優くん、この子の視覚の代わりになるスキルを得るためです。」
「そっか、そう言われちゃ、なかなか引き止められねぇな。」
「長い間、お世話になりました。」