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少しだけ勇気を出してみよう

 陽菜に手を引かれ、ボクは街に、ケアールドの街に戻ってきていた。

 相変わらず、失くした光は戻ってきていない。

 日常生活も陽菜の介助無しでは何も出来なくなってしまった。

 この中世の世界で目が見えないことは、ほとんど死んでいるのと変わらないだろう。

 あれから1か月、陽菜が繋ぎ止めてくれていただけだ。

 命と引き換えだったとはいえ、結局死期を延ばしたに過ぎない。

 ありがたいとは思うが、怖い。

 もし、陽菜が負担に思うようになって、嫌気がさして、そうなった時が、怖い。

 それに陽菜の負担になり、陽菜の自由を奪う、そんな存在になるのも、怖い。



「優くん。朝ごはんがきたよ。」

 座ったテーブルに手を這わせ、食器の位置を確認する。

 匂いからすると、スープとパンがある筈だ。

 スプーンを掴む前に、熱くなった木の器が手に当たり、スープが溢れて手にかかる。

「あっ。優くん、大丈夫?熱かったよね。」

 そう言って、陽菜がボクの手を拭いてくれる。

 こころはギルドで見つけた薬草使いの求人を見て、この国を出た。

 パンティア王国の北東にあるノヴェルという国で、魔物の活動が活発になっており、領土の一部を奪われてしまったらしく、巻き返しを図るため軍備拡張を行う一環で回復薬を作ることのできる人材の募集を行っていたのだ。

 それも既に3週間前の話だ。

 美羽もこの街に戻ってきている筈だが、ボクらとは顔を合わせてはいない。


「食べ終わったら、依頼を見てくるね。」

「もう、依頼なんていいだろ。」

「ボクのことは放っておいてくれよ!」

「大丈夫だよ。無理はしないし。」

 あらゆる世話を陽菜はしてくれていた。

 魔眼を封じるために、自分の光をスキルで差し出した事を陽菜に話してしまったのだ。

「陽菜さんがボクの目のことに責任を感じることは無いよ。みんなが自分の責任で動いたんだから。」

 ボクは机に立掛けた杖を取り、宿を飛び出そうとしたが、陽菜に腕を取られ止められる。

「大丈夫だから。優くんは大丈夫だから。」

「何の根拠があって、どう大丈夫なんだよ。陽菜さんに頼ってばっかりで。目が見えてた時からずっとだよ。もう、陽菜さんの負担にはなりたくないんだよ。」

「ほんの少しの間だけだよ。それに優くんにも頼って欲しい。今までいっぱい助けて貰ったもん。」

 そんな事はない。

 今まで、自分だけでは何もできなくて、美羽と陽菜が前に立って戦ってきた。

 自分はいつもみんなの後にいただけだ。

「そんな事は…」

「そんな事あるから。みんな頼りにしてたんだから。本当よ。」


 宿の一室に閉じこもる日々が続く。

 宿賃だけは、今まで貯めていた魔核を魔石に変えて売ることで凌いでいた。

 美羽やこころには悪いが、もうボクが生きていくには、これしか無い。

 宿を出て、何処か借りた方が安くつくが、食事の世話を考えると、宿にいた方が良いんだろうが、魔核を全て魔石にしてから換金したなら、独りなら1年ぐらいはもつだろうか。

 半分は陽菜に渡すとして、それまでに今後どうやって生きていく方法を見つけないといけない。

 宿から一歩も出ず、魔核を魔石に変える作業をしていくが、前とは違って1日に10個まで魔石に変えることができるようになっており、5日目には手持ちの魔核42個を全て魔石に変えることができた。



 魔核を全て魔石に変えた日の夕食時に魔石の詰まった革袋を陽菜の前に置いた。

 どう言ったら、説明したら良いか分からなくなったのだ。

「優くん、これは?」

「魔石。」

 陽菜はため息をついた。

 何とか言葉を振り絞ってみる。

「半分ずつ。」

「これは、換金してパーティーのお金として管理することにします。」

「陽菜さんも、もう自由に生きていないと。」

「なら、私の自由にさせてもらうから。ちょうど、図書館の入館料も必要だったし、使わせてもらいます。」

「図書館?」

「うん。ちょっと調べたいことがあって。」

「うん。」

 その日の会話はそれだけで終わった。



 ある日、陽菜が駆け足で宿に戻ってきた。

 部屋に着いても、まだ少し息が上がっている。

「優くん!分かったよ!」

 こちらの世界には様々なスキルが存在し、視覚の代替ができるものがないか、王立図書館で付与魔法師のジョブについて、調べてくれていたらしい。

 付与魔法師自体が非常にレアなジョブであるため、付与魔法師について書かれた文献が少なく、2日もかかったが、レベルアップにより、『ステータス鑑定』や『魔力反響感知』、『鷹の目』のスキルを覚える事が分かっとのことだ。

 敵の情報を早く知り、対策を取ることが、付与魔法師を活用するために必要だからだろう。

 確かにこれらのスキルを得られれば、視覚の代わりになりそうな気がする。



 その晩、夕食後にあの日のことを陽菜に訊いた。

 ケアールドに戻ってきてから、ボクが光を失ってからのことを訊いてなかったのだ。

 怖かったのもある。

 聞いてしまうと、美羽がどうなったのか考えてしまうから。

「美羽はいま、どこで何をしているのかは分からない。ただ、美羽をウィズポートの港で見かけたって人はいたよ。」

 少しだけホッとした。

 ホッとしたというより罪悪感が軽くなっただけだけど。

 あの王と呼ばれていた魔物について、途中で出会った冒険者に伝え、それはギルドまで伝えられたらしいのだが、結局、あの魔物は再び現れなかったらしい。

 その情報が伝えられてから、主要な街で北部は冒険者を中心に、南部は王国軍を中心として街の防衛を固めた。

 ゴブリンとトロールを中心とした魔物の群れが散発的に街を襲ってきていたが、無事に片付いたらしい。

 各街では一度か二度の襲撃のみで、一週間後には、もう魔物の襲撃はなくなったとのことだ。

 ちなみに、情報提供の報酬はしっかり貰うことができ、美羽がいないため、三等分してこころにはちゃんと渡したとのことだ。



 結局、ボクは陽菜と冒険を続ける事になった。

 スキルによる視覚代替の可能性を見つけてくれたこともあるが、まだ、自分一人で生きていける自信もなく、優しくしてくれる陽菜からボクが離れられなかっただけだ。

 劣等感のような、罪悪感のような感覚を抱きながらも、引いてくれる陽菜の手の温もりに安心してしまう。

 だからといって、陽菜との距離を詰めるようなこともできなかった。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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