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固有スキルを使ってみよう

 肉屋側で優たちが出会った転生者の物語に入ります。

 一段落着くまでこちらの更新は一休みさせていただきます。

 麻痺煙幕で動きの鈍ったゴブリンとトロールをボクと陽菜が一方的に斬ってゆく。

 陽菜はトロールをメインに、ボクは陽菜のサポートをしながら、群がるゴブリンに斬り掛かっていく。

 もう、それぞれゴブリンもトロールもそれぞれ10体程度は倒したと思われる。

 まだ、陽菜の筋力強化の効果は残っているようだが、二人とも息を切らして大きく肩で息をしている。

 しかも、最初の方に倒したゴブリンやトロールより明らかに強くなってきており、陽菜もトロールを倒すのに、何度も斬り付けていた。

 ボクが相手をするゴブリンも、ガードが固く、手こずるようになってきている。

 後ろを見ると、こころも手にナイフを握り、警戒しながら、ボクらの後を付いてきている。

「陽菜ちゃん、向こうを突っ切るよ!」 

 手薄そうな所を見つけ、そちらに駆け出したその時、声が聞こえた。



「お前ら、お使いもちゃんとできないのかよ!このノータリンどもが!」

 声の方を向くと、ちょうど煙幕の切れ目から、トロールたちが担ぐ輿が見えており、その中から一匹の魔物が身体を乗り出している。

「何だ、ガキじゃねぇか。ガキ相手にいいようにされやがって!」

「王よ申し訳無い!」

 側近っぽい豪奢な鎧を着けた体格の良いゴブリンが、輿の男に向かって頭を下げているのが見える。

 ボクは輿に乗る王と呼ばれる魔物と目が合った。

 体格は恐らくトロールよりは小さいが、普通の人間よりは大きく、その皮膚は人間に近い色をしているが、質感はやや硬そうである。

 表情は豊かそうで、魔物ではあるが、どこか人間臭さを感じる風体である。

 右目に眼帯を着けているため、片目ではあるが。

 その眼は昏い光を宿しているように見え、その眼光だけで身が竦む。

「日本人じゃねぇかよ!」

「なんで『日本人』を知ってるんだ?」

 思わず漏れた呟きに、陽菜とこころが目を見張る。

「俺も『日本人』だったからに決まってんだろ。」

 その言葉に、ボクらは驚いた。

 ボクらのような転移者の他に、転生者がいたとは。

 しかも、魔族に生まれ変わっているとは。

「生まれ変わっても前世の記憶がそのままだらから、やっぱ、日本人が一番だな。ザウナー。あのガキは要らんから、さっさと片付けて来い。アレを使うと女まで殺っちまうからな。特にあのちっこい方は傷も付けるなよ。」

 大柄なゴブリンは命令を受け、手振りだけで周囲のゴブリンとトロールを指揮しながら近づいてきた。

「女どもは生かして捕らえろ。王への貢物だ。」

 二人への筋力強化が切れていることに気付き、かけ直す。

 ボクと陽菜には武器強化、こころには防具強化を重ねてかける。

「ほう。強化魔法か。」

 既に煙幕は薄くなっていて、逃げるタイミングを逸していた。

 しかも、島一つ侵略するだけの魔物を従えるだけの実力者である。

 どんな抵抗も意味をなさないだろう。

「アンタも元日本人なら、何とか仲良くやれないかな?」

 ボクは必死で交渉に入る。

「俺は付与魔術師。アンタの仲間になれば、戦力の強化をする事ができる。陽菜は商人、こころは薬草使いだから、俺たち全員、アンタの軍の強化に十分役に立つと思う。」

「へぇ。だけど要らねぇ。」

「人間の俺たちがいるなら、今後、国との交渉とか役に立つ。」

「人間だろうが、魔物だろうが、信用はしねぇ。力で蹂躙するだけだ。特に賢しい男のガキなんて要らねぇよ。」

 何か、有用な情報で釣れないか?

「何年ぐらい前にこっちに来たの?」

「殺せ。」

 視界の隅にに片手で巨大な戦斧を振り上げたトロールが見えた。

 もう、回避は不能だと思った時、戦斧はあらぬ方向に逸れていった。

 陽菜がトロールの腕を斬り落としたのだ。

「優くん!」

 男に背を向け、陽菜のもとに走りだす。

「優!」

 追いつくとこころが、火の着いた花火のような物をボクに渡してくる。

 それを輿に向けて投げ、手薄そうなところに向かって駆け出す。

 男はそれを警戒して盾を取り出し、身体を隠す。

 他の魔物たちはあまり気にせずボクらを追ってくる。

 数秒後、閃光とともに破裂音が響く。

 しかし、それで倒れた者は見当たらない。

 魔物たちが最後尾のこころに追いつきそうになった時、急に魔物たちの動きが鈍り、倒れてゆく。

 それでも、逃げ切れる可能性は限りなく低い。

 何か、何か打開策は?

 ボクは初めて、自分の固有スキル『献饌』に目を向けた。

 まだどんなスキルなのか試した事もないが、イチかバチか起動してみる。

 後ろでは、輿の男の怒号が聞こえている。

「舐めやがって!ガキ相手にいいようにやられやがって!」

「王よ!ここではご容赦を!」

「うるせぇよ!」

 ゾクリと悪寒が走る。

 目の前どころか周囲の魔物が何かに怯えてほうぼうの体で逃げ始める。

「もう、死体でも良いわ。」

 気が付くと、輿の男はボクらを追い抜いて、眼前に居た。

 急に手足の力が抜け、意識が朦朧としてくる。

 眼帯を外したその右目は昏く赤い光を宿していた。

 ただの眼光ではない。

 魔眼か?

 これは、命を、生命力を吸い取っているのか?

 陽菜もこころもその場に崩れ落ちる。

 目の前が真っ白になる。

 貧血の時とそう変わらない感覚で、意識が薄れていく。

 ボクは膝頭を押さえて何とか倒れ込まないよう耐える。

献饌けんせんの供物は等価です。何を捧げますか?》

「どうなるんだ!」

《何かを捧げ、対価を得ます。》

 一瞬、スキルを起動したことを忘れていたが、天の声が聞こえたことで思い出した。

「眼だ。眼を。奴の魔眼を!できるか!?」

《了解しました。》

「ぁぁぁあ!何だ!」

 男の叫びが聞こえる。

 ガッ!

 ドサッ!

「硬いっ!斬れない!」

「このアマぁぁぁ!」

 陽菜と男の声がする。

「優くん!優くん?!」

「陽菜ちゃん!」

 ボクは朦朧とした意識のまま、陽菜の声のする方向に向かうが、何かに躓いて転んでしまう。

「こころも、急いで!今なら逃げられる!」

 意識が朦朧として、貧血の時のように目の前が真っ白になって、その後だったから、なかなか気が付かなかったのだ。

「優くん?」

「ボク、目が、目が見えてない!」

 陽菜はボクの手を取って走りだした。

 固有スキル『献饌けんせん』を使った時の天の声を思い出す。

「アイツも?」

「うん。魔物はみんな逃げ出した。今なら逃げられる。」

 ボクは、ただ、陽菜に手を引かれ、暗闇の旅路を歩むことになった。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
こちらもご覧ください。


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