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決死の抵抗をしてみよう

 森の奥から足音がし始める。

 足音は複数。

 それもかなりの数に感じられる。

 その足音も似通ってはいながらも人間の物とは思えない重さを感じる。

 同時に2人が息を呑むのを感じた。

 3人とも小川の岸辺に生えた灌木に身体を屈めて身を潜めながら様子を伺っている。

 森の切れ間に姿を見せたのは、前屈みで歩く巨人だった。

 その手にはハルバードやメイスといった武器が握られているが、それらはかなり荒い造りをしているだけでなく巨大だった。

 恐らくトロールだ。

 聞いた話によると、灰褐色の肌をした3メートルを超える人型の魔物で、知能は高くないものの、その力は凄まじく、その肌も硬くて生半可な攻撃では剣も弾いてしまうらしい。

 1体討伐するには、この国での騎士一隊程度が必要らしい。

 一隊の編成は騎兵と2、3の歩兵と2、3の弓兵、それに小姓の8人、スキルの都合もあり2パーティーで編成されているのが一般的だ。

 星明りしか無いため、色までは分からないが、多分、トロールだろう。

 軽く20匹以上はいるだろうか。

 そのトロールの間を縫うようにゴブリンたちがウロウロしている。

 ただ、そのゴブリンたちも、ただのゴブリンには見えない。

 それなりの装備で武装しており、その目には若干ながらも知性が宿り、規律を持った行動をしているように見える。

 百鬼夜行というよりは、行軍と言う方が相応しい。

 絶体絶命のピンチという言葉が頭を過る。

 2人話しかけたいが、気付かれるのが怖くて、声を出すのもできない。

 絶望が足音を伴って近づいてくるようだ。

 ギシリ、ギシリと、足音の中に木で組まれたものが軋む音も混じっている。

 その音のする方に目をやると、トロールたちが輿のような物を担いでいる。

 輿を担がず、周辺を警戒しているトロールは、前屈みにならず背を伸ばして歩き、こちらは敏そうなゴブリンとは比べ物にならないくらい、それも人とそう変わらないぐらい、瞳に知性と意思を感じる。

 それだけではなく、圧倒的な存在感を放っている。

 気が付くと、若干ながらも輿の速度が落ちた気がする。

 陽菜が何かを感じたようで、小声ながらもとうとう声を出した。

「囲もうとしてる。」

 それを聞いたこころは、手元に準備した薬や道具の中から、よく分からない色の着いた紙を取り出し、口に含むのを見せてから、ボクと陽菜に渡した。

「敵の数は?」

「分からないぐらい多いよ。」

「優、コレ、全部出して。」

 こころがボクに背を向けて行李から取り出すように指示したのは、新しく開発した麻痺煙幕だ。

 錬金術師から買い取った硝酸カリウムで作成した発煙筒に即効性のある麻痺毒を含ませたものだ。

「全部?」

「命あってのもの物種。」

 使用した材料は硝酸カリウムを含めてかなり高価な物がふんだんに使われている。

 出し惜しみしているような余裕は無いんだろうけど、惜しいと思う気持ちと、ここで使い切って逃げ切れるのかという不安もあるのだ。

「優くん。」

 陽菜もここで使い切るべきと思っているようだ。

 こころの行李から発煙筒を取り出し、各自に2本ずつ渡す。

 ちなみに、先程口に含んだ物は、この麻痺毒の解毒剤を紙に染ませたものである。

 迷っていた間に敵は近づいてきており、10メートルぐらい先から草の揺れる音が聞こえてくる。

「今すぐ着けて、投げて!」

 ボクは合図し、続けて陽菜に武器強化と筋力強化を、こころに防具強化と身体強化をかけ、自分のダガーに武器強化をかける。

 一体のゴブリンがボクらに向かって飛びかかってくる。

 何故か腰の獲物を抜いていない。

 それは、陽菜に空中で胴を薙がれ、煙の中に消えてゆく。

「ボクと陽菜さんで前に出る。こころさんはボクらの後を付いてきて!」

 煙の濃い方向に向かって陽菜が駆け出す。

 煙が流れているということは、風下になる。

 臭いで追ってくるゴブリン対策としては、良い判断だと思う。

 即効性の麻痺煙幕は、トロールの遅い動きを更に鈍くしているようで、ボクらには全く追いつけない。

「トロールは陽菜、お願い。ゴブリンはボクがやる!」

 付与魔法で強化を受けた陽菜はトロールでさえも手傷を負わせている。

 ボクは目の前にいるゴブリンに向かってダガーを構えて向かってゆく。

 肌の色が違う気がする。

 ただのゴブリンではないのだろう。

 暗くて正しい色は分からないが。

 鈍る身体に鞭打ち、ようやく腰の獲物を抜いた一匹に向かって体当りしながら腹にダガーを突き立てる。

 ヤクザアタックだ。

 倒れるとともに、抜けたダガーを振り上げながら、逆手に持ち替え、その後にいたゴブリンの盾に倒れ掛かるように身体をぶつけ、体勢を崩した隙きに首元にダガーを突き立てた。

 汚い色をした血がボクにかかるがそれも気にしている暇はない。

 陽菜が対峙するトロールに死角から近づき、膝の裏にダガーを突き立てる。

 それに応じて陽菜がトロールに止めを刺す。

 目の前が開けた。

 ボクと陽菜は開けた場所を目指して駆けてゆく。

 不意に後方から悲鳴が聞こえた。

 こころがうつ伏せに倒れ、その背中にゴブリンがのしかかっていた。

 ボクは投擲用のナイフを投げるものの、当たらない。

 必死にこころに駆け寄る。

 このゴブリンも腰に得物を下げているものの、抜こうとはしていない。

 ボクらを捕まえようと、いや、女を捕まえようとしているのだろう。

 そのゴブリンの背後にトロールの姿も見える。

 陽菜が筋力強化の効果でボクを追い抜かして、ゴブリンに一太刀入れる。

 ボクは遅れて接敵し、左手でゴブリンの持つ盾を右側に引いて体勢を崩したところで首を掻く。

 既に薬が効き始めているのか、敵の動きはひどく鈍い。

 陽菜の前に出て、斧を持つゴブリンに対峙する。

 その隙きに陽菜はトロールの側面に回り、剣で足を薙ぎ払う。

 このままいけば、何とか逃げ切れるかも知れない。

 そんな期待を持たせる快進撃はあと少しだけ続く。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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