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魔物の大群を見つけてしまいました

 本日4度目の遭遇戦を終え、野営の準備を始めていた。

 体力的にも精神的にも限界が近かったのと、陽菜が矢傷を負ったため治療の必要があった。

 また、戦闘にも時間を取られてしまい、日が暮れる前までに次の街まで進むのも難しくなっていたからだ。

 今日の頻度で魔物に遭遇するのであれば、野営もかなり危険だが、夜道を歩くことに比べれば相当マシな筈だ。

 二人組で交替しながら見張りをする。

 見張りを終え、浅い眠りについていたところを、陽菜に起こされた。

「優くん。たくさんの魔物の気配がする。」

「怖い。」

 横で美羽が身体を起こす音がする。

「陽菜ちゃん、様子を探れる?」

「やってみる。」

「感覚強化!」

 陽菜に付与魔法をかける。

 これで五感が強化され、夜目も利くようになる。

「優くん、ちょっと登るから手を貸して。」

 陽菜を近くの木に押し上げると、回りを探り始めた。

 この辺りの森はブナだろうか、おどろおどろしい造形をしたものが多い。

 軽く暗い森に恐怖を覚える。

「50、いや100匹近くゴブリンが居るわ。トロールも混じってる。それだけの数がみんな南に向かってる。まるで、軍隊…」

 陽菜の声が絶望を帯びていた。

「先ずは逃げないと!」

 野営の道具の片付けもそこそこに大事な荷物だけを担いで森の中を駆け始めだ。

 皆に筋力強化をかけながら

「優くん!このままあの軍隊を行かせれば、街に被害が!」

「大丈夫だよ。ウィズポートには軍もいるし。」

「途中の村が…」

 こころが足を止めてしまう。

「私たちに何か出来るって言うのよ!」

「でも…」

 戻ってきた美羽がこころに掴みかかる。

「知らせるだけでも…」

「無理よ!相手は夜行性のゴブリンで、しかも街道を歩いてる。私たちはもう森の中で迷子になってるのよ!無駄死にするだけしゃない!」

 美羽の言っている事は正しいと思う。

 しかも、野営道具もほとんど置いて逃げてきており、逃げる以外に体制を整える術は無い。

 しかし、行軍の遅いゴブリン達の群れなら、身体が不自由な人以外は逃げ果せることができそうなのも確かだ。

 ただ、昼間は行軍速度が落ちるとはいえ、魔物の進軍は止まらない。

 ボクらが追い越して村人を避難させることのできる確率は低い。

 とは言うものの、助けられるかも知れない人を見殺しにできるような教育は受けていない。

 日本は平和だったのだ。

 ボクはみんなの顔を見回して尋ねる。

「まず、こんなに暗い中、迷わず村に行くのは難しい。夜は魔物の行軍は止まらないから、間に合わないかも知れない。それに行軍に出くわしてしまったら、ボクらは終わりだ。」

 ひと呼吸置いてからボクは続ける。

「分の悪い賭けでしかないけど、一人でも助かる命があるなら、僕は行きたいと思う。みんなはどう?」

「行きたい。」

 こころはすぐに答えた。

「私は反対。無駄死にする可能性が高いなら、奴らを倒すための戦力に加わる方が結果として全体の被害が少なくなるわ。」

 冷静に考えれば、美羽の言葉の方が正しいと思う。

 ボクとこころが迷っているのは、感情の問題だけなのだ。

 陽菜はまだ迷っている。

「いま、村の人を見殺しにすれば、一生後悔するかも知れない。」

 ボクは後押しの言葉を繋いだ。

「後悔はしたくない。」

 陽菜がボソリと呟いた。

「私は絶対に行かない。自分の判断が間違ってるとは思わないわ。」


 美羽はボクらに背を向けて座っていた。

 自然と彼女をここに置いていくことになってしまった。

「美羽ちゃん、ごめんね。美羽ちゃんは悪くないから。」

 陽菜の言葉を最後にボクら3人はその場を後にした。

 陽菜とこころに筋力強化をかけながら、夜の森を駆けてゆく。

 地図、一枚だけ持ち出した敷物と水と回復薬1本は美羽に渡してきた。

 どうすることが一番正しかったのだろう。

 そんな迷いを吹っ切るように、筋力強化をかけた二人の後を追っていく。

 筋力強化でスタミナ自体が増えるわけではないが、手を使わなければならないような悪路では、大きな効果を発揮しており、気を抜くと二人に離されそうだ。

 道は陽菜に任せている。

 たとえ、道を誤って助けるために間に合わなくても、遭難したとしても、陽菜の責任にはしない。

 それは、走り出す前に話し合った。

 とは言うものの、陽菜の顔には不安が貼り付いている。

 そりゃ、初めて来る森を深夜に駆けるのだ。

 そのうえ魔物の軍勢に出会ってしまう可能性もある。

「優くん、次は筋力強化じゃなくて、感覚強化でお願い。」

「うん。」

 もう少し経てば、今かけている筋力強化が解ける。

「こころさんはまだ走れそう?」

「頑張る。」

 こころは言い出した責任を感じているのもあるのか、頑なになっている感じがする。

 そうは言っても走り続けなければ、魔物の軍勢の先には行けない。

 心配しながらも、こころに鞭を打つように走らせる。

 陽菜が跳び越えた小川の存在に気が付かず、ボクは嵌まり込んだ。

 後から続くこころは慎重に渡ろうとしたが、足を滑らせる。

「水、飲も。」

 こころも疲れがピークに達したようだ。

「少しだけ休みましょう。」

 陽菜のその声で3人の気が緩んだ。

 ボクとこころはすぐに小川の水を手で掬って口に運ぶ。

 暗い中では綺麗かどうかは分からないが、それでもその水で喉を潤し、少しの間だけ座り込んで休んだ。

「優くん、筋力強化が切れたみたい。」

「うん。次は感覚強化で良いよね。」

 立ち上がって陽菜の方を向いた時、森の奥から落ち葉を踏みしめる音が聞こえる。

 言わずとも3人とも息を潜めて身を屈めて、音のする方を伺う。

 音を立てないように注意しながら、這って陽菜に近づいていく。

 こころも同じように近づいてくる。

「囲まれた時の準備はした方がいい?」

 こころが聞いてくる。

「うん。頼む。少なかったら僕と陽菜だけで行くから。」

 そう言って、ボクは腰に下げダガーを取り出した。

 少しでも攻撃力を上げるために、前に使っていたものより、少し長く刃渡りが25cmほどあるものに換えていた。

 スキルは無くとも、練習はしてきた。

 ゴブリン程度なら、何とかできる筈だ。

 ボクらはその場でじっと息を潜め何者かの接近を待った。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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