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石鹸の匂いは悶々とします

「やったわね!もうレベル10まで上がったわ!」

 美羽は嬉しそうに報告してくる。

「わたしも、レベル10になりました。」

「レベル10。回復薬作れる。」

「えー!ホントに?あのゲームとかで出るポーションみたいなの?」

「うん。」

 みんな、こころのレベルアップで更にエキサイトしている。

 そういうボクもレベル10になっていた。

「レベルが上がるたびにおっさんの声を聞くのももう飽きたよ。」

「えっ?」

 3人が不思議そうな顔をして見返してくる。

「わたしは若い女の人の声よ?」

「わたしのは若い男の人の声です。」

「こころも若い女性の声。」

 どうやら、それぞれ天の声が違うらしい。

 どうせなら、若い女性の声がよかったんだけど。

「優、新しい魔法覚えた?」

 こころが聞いてくる。

 意外と興味があるみたいだ。

「レベル10で属性付与を覚えたよ。一時的に武器に炎の属性とかを与えるやつ。」

「そんなの覚えたって、弱点が分からなきゃ役に立たないわね。」

「うーん、もしかしたら、鑑定とか、弱点発見とかそんなスキルがあるのかも。陽菜ちゃんは鑑定とか覚えたりしない?」

「わたしもまだ鑑定は覚えれてないよ。もう少しレベルが上がってからかな?」

 商人なら鑑定スキルがあるはずだ。

 もし、ボクが鑑定スキルを手にしなくても、陽菜が覚えればそれでいいだろう。

 でも、覚えるのがレベル15だったとしたら、あまり意味が無いかも知れない。

 ボク以外は一定のレベルまで上がれば、充分に生活していけるだけのスキルを手に入れられる。

 目安はレベル15だといわれていたが、実際、そこまでレベルが上がれば、パーティーを解散したいとみんなが言い出すかも知れない。

 美羽はああみえて結構現実的だし、こころは戦闘には向いていない。

 陽菜が『鑑定』スキルを手に入れれば、いっぱしの商人としてやっていける気がする。

 そうなったとき、ボクだけは行き場が無くなる。

 戦闘スキルが無いうえ、自分自身に強化魔法をかけることもできないため、ボク一人で戦闘なんでできないのだ。

 同じ様な付与術師でも道具に対して付与ができるスキルなら、美羽と同じようにレベルが一定まで上がれば職人として生きていけたのにな。

 本当にどうすればいいんだろうか。

「さて、さっさとアンジェラ婆さんのところに行きましょうか。」

 美羽に促され、アンジェラ婆さんの屋敷に向かう。

 ささやかながら、労いの宴を催してくれるらしい。


 屋敷の1階にある広間で宴が始まっていた。

 料理は基本的に大降りのがテーブルの上に乗っているだけで、肉は自分のナイフで切っていくらしい。

 酒も振舞われている。

「飲まないの?」

 年長のこころに聞いてみる。

「弱いからダメ。」

「美羽さんと陽菜ちゃんは?こっちじゃ15歳なら大人扱いでしょ。」

「わたし、飲んだことないし。」

「わたしも怖いな。」

 結局、ウチのパーティーのメンバーは誰も酒には手をつけなかった。


 アンジェラ婆さんがボクたちを見つけて近づいてくる。

「あんたたち、こんなところにいたのかい。」

 不意にこころの手をとって上に挙げる。

「あんたたち、よく聞きな!今日、誰も怪我もしないでこんなに早く片付けられたのは、このこのおかげだよ!」

 よくやった!など、口々にこころを褒める声が聞こえる。

 こころは顔を真っ赤にして俯いている。

「あんた、もっと自分に自信を持ちな!」

 アンジェラ婆さんはこころの背中をバンと叩いて、グラスを持ったまままた人ごみにまぎれていった。

「そうだよ、アンジェラ婆さんの言うとおりだよ。」

 美羽が元気付けていると、昨日、硝酸カリウムを分けてくれた錬金術師がこころに近づいてくる。

「凄かったよ。薬だって使い方が良ければ、あんなことができるんだな。教えてもらった煙幕も期待できそうだし。」

 こころは黙って頷いている。

 男が言っているのは、発煙筒を応用した麻痺煙幕だ。

 硝酸カリウムから発煙筒を作るやり方を実演しながら教えてもらった代わりに速効性の麻痺毒の作り方を教えてあげたのだ。

「本当にありがとうな。」

 そう言って、錬金術師は自分のパーティーに戻っていった。

「ね。こころはすごいんだよ。」

 美羽の言葉にこころは顔を赤くして頷いた。


 宴を抜けて部屋でくつろいでいると、アンジェラ婆さんが直々に部屋に呼び出しにきた。

「さて!お待ちかねの風呂だよ。ニホンジンってのはみんな大好きなんだろ?」

「やったー!」

 美羽は飛び跳ねて喜んでいる。

 屋敷の離れに風呂が置かれており、ちゃんと男女は別れていた。

 男風呂の湯は既に垢が浮きまくっており、心休まる状態ではなかったが、久しぶりの湯船はさすがに嬉しかった。

 部屋にもとってしばらくすると、3人が戻ってくる。

 しかも、いい匂いをさせて。

「石鹸あった?」

「うん。えっ、もしかして、男湯には無かったの?」

「うん。」

 石鹸だけじゃなくて、なんか花のようないい匂いもする。

「お湯にアロマオイルを入れてもらったわ。」

 男湯には石鹸すらなく、垢だらけの湯船だったのに。

 こんなにいい匂いを撒き散らされると悶々とするしかないから、今日のところはさっさと魔石を作って倒れるように寝ることにしよう。


 翌朝、女子たちはアンジェラ婆さんと裸の付き合いのおかげか、すごく仲が良くなっており、朝食にまで呼ばれることとなった。

 まったく事情の分からないボクは、置いてきぼりをくらった感がある。

 にこやかに別れを告げ、ボクらはケアールドを目指して歩き出した。


 来た時と同じようにオームフォードで1泊してから、次の日の昼前にケアールドに着いた。

 早速、冒険者ギルドの窓口に向う。

 今回は討伐数での報酬なので、ギルドから支給される。

 既に手持ちの現金は魔石を売った分があるので多少は余裕があるが、懐が暖かい方が良い。

「ベン。来たよー。」

 美羽が馴れ馴れしく声をかける。

「おっ。嬢ちゃんらか。随分と早かったんだな。」

「まぁね。お婆さんから伝言。たまには顔出しなバカ孫ってさ。」

 あれ。ボクはそんな話聞いてないな。

「なんだい、えらい婆さんと仲良くなったんだな。」

「まぁね。」

「早速、報酬の確認でもしようか。」

「うん、お願い。」

 そう言って、美羽が冒険者証をベンに渡す。

「なんじゃこりゃ。討伐数421って本当かよ。」

「今年は特に多かったって言ってたけど、こころの麻痺毒のお陰で楽に倒せたし。」

「お、優も100超えてるな。」

「動かないからフォークで刺しまくった。」

 あれが元気だったら、もっと手こずってたとは思う。

「なるほどな。一番怖いのはそっちの小さい姉ちゃんかも知れんなぁ。」

「あの。今回は金貨でお願いします。」

「ああ、分かったよ。」

「そういや、もうレベル10になったんだな。恐ろしい早さだな。でも、ここからレベル15までは結構大変だぞ。」

「そうなの?」

「ああ。一気に上がりにくくなるからな。」

「明日来るんなら、レベル上げに向いてる依頼でも見繕っておこうか?」

「はい。お願いします。」

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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