少し遠出をしてみよう
「ベンさん、レッドウィッチまでどうやっていけばいいんですか?」
「レッドウィッチは地方の名前だ。行くのはバーレムって街だ。どうやってって、歩くんだろ?」
「いや、船とか乗合馬車とかはありますか?」
「何だ?その乗合馬車ってのは?」
「沢山の人を乗せてお金を取って街と街を走る馬車なんですが。」
「そんなの聞いたことも無いな。それにあったとしても、こんな田舎にゃ行かねぇよ。」
「そうですか。」
「地図を貸してみな。」
陽菜がカウンターに地図を広げる。
「ここがバーレムで、歩くと2日はかかる。ちょうと真ん中ぐらいにオームフォードという街があるからそこで1泊すると良い。」
「馬車を借りて行けないですか?」
「嬢ちゃんら、馬の世話はできるのか?」
そういえば、神殿からパンティアまで、乗せてもらうだけだったが、御者がかいがいしく世話をやいていたのを思い出した。
陽菜も同じことを思い出したらしい。
そもそも、世話の仕方が分からない。
「無理です。」
「ただでさえ借りるのは高いのに、御者を雇ってとなると、相当な金がかかるぞ?」
「諦めます。」
ベンの言う通り1泊して進むことにし、食料などの荷物は最小限にして、オームフォードを目指す。
街道を進んでいるのもあって、魔物や野犬に出くわさず、無事に進んでいく。
日暮れ前には街に着いて宿に入る。
いつもどおりの、四人部屋だ。
カレン王国では、北に向かうほど田舎になる。
オームフォードでもそれなりに寂れた感があった。
飯は固いパンとスープだけだ。
この国の食事は野菜はよく煮込まれた感はあるが、テーブルには塩が置いてあり、自分で調整しろというのが特徴だ。
島国なので塩が安価なのもあるのかな?
日課の魔石作製をして、そのまま眠る。
だいたい、それがなければ、ドキドキして寝られない。
パーティーの中から誰か一人を選ぶなんてできないし、ハーレムなんて漫画の中の世界だな。
実際に誰かと恋愛関係になったら、パーティーは瓦解しそうな気がする。
朝は早めに出て、バーレムを目指してあるき始める。
地図を確かめながら近づいたと思った頃、街道に、小さな魔物がいるのが見える。
「なに、このカエル。気持ち悪い。」
美羽がハンマーで叩き潰す。
「ちょっと、美羽。問答無用?」
陽菜が呆れたように言う。
魔核は採れなさそうなので、放っておくことにする。
「ウォーターリーパーでしょ。ベンの言う通りなら、あとで嫌ほど見れるわよ。」
また進むと、街道脇にウォーターリーパーがいるのが見える。
地上にいる分には、足が無いので、ビタン、ビタンと跳ねて近づいてくるのだ。
確かにこれは気持ち悪い。
生意気に足に噛み付こうとしてくるし。
またボクは木の枝を拾ってきて、ウォーターリーパーを突き刺していく。
陽菜が剣を使おうとするが、ボクはそれを止めた。
剣は使っただけ消耗するのだから、枝で済むなら使わない手はない。
メンテナンスは銀貨数枚で済むけど、時間が勿体無い。
ただ、群れに遭遇したなら、また状況は違うけど。
今日はこころと陽菜も同じように木の枝でウォーターリーパーを潰しながら街道を進んでいく。
ちなみに、一体はナイフで解体して魔核を探してみたけど、小さくて見つけるのも大変なうえ、魔力蓄積量も大したこと無いので回収はしないことにした。
バーレムの街に着くと、まず、レッドウィッチ女男爵の屋敷を探す。
田舎町てそこまでの活気はないものの、綺麗な町並みが続いている。
間から草や苔の緑が覗く石畳の道の両側に石造りの三角屋根が建ち並んでいる。
なんだか、おとぎ話の世界みたいだ。
「綺麗な街ですね。」
陽菜は正直に感想を漏らす。
そういえば、カレン王国にはパンティアみたいに城下町に城壁は無い。
日本と同じように陸続きに国境が無いせいだろうか。
しかし、キラキラと目を輝かせるみんなを見てると、こちらまで少し嬉しくなるな。
つい、みんなに見惚れてしまう。
道行く人を捕まえて女男爵の屋敷の場所を聞いて向かう。
泊まらせてくれるかどうかは分からないけど、依頼者には面通しする必要はあるのだ。
町外れの緑の丘の上に簡易な木の柵に囲まれた四角い屋敷があった。
特に装飾も無い、三階建の四角い建物だ。
中央部分の屋根に若干三角が乗っているが、全体としては四角い。
1階の一部だけ窓にアーチが見えるが、それ以外の窓は四角い。
入口の扉も、その両側にある庭までもが四角い。
「なんか、四角いわね。」
「レッドウィッチ女男爵は質素倹約を好む方なんじゃないでしょうか?」
緑の絨毯の上に、ちょこんと箱を置いたような屋敷に衛兵なども見えないし、屋敷の柵は門もなく開け広げだ。