魔物と戦ってみよう
恐ろしいぐらい、ぱっちり目が覚める。
今日からこころの薬を充実させるために、薬草採取の依頼を受けて回る予定だったよな。
鎧戸からは朝日が入り込んできているので、既に夜明けなのだろう。
握りしめた魔核はちゃんと魔石に変わっていたものの、若干透明度が足りないようだが、魔石に必要な魔力量はだいたい分かった。
ふと、こころと目が合う。
「おはよう。」
「おはよう。」
その声を聞いて、ボクの下からゴソゴソと陽菜が這い出してくる。
「おはよう。二人とも。優くんは大丈夫?」
「うん。」
返事をしながら、陽菜に魔石を渡す。
「すごい。ちゃんとできてるね。」
「いまいちの出来なんだよ。」
「そうなの?」
「透明度が低い。」
「言われてみれば、そうかも。でも、大丈夫だよ。きっと。」
別にそんなことに気を使わなくてもいいんだけど。
「いま、何時ぐらいなのかな?」
「二時課はまだ。6時少し前。」
こころが教えてくれるが、いつから起きてたんだろうか。
陽菜が美羽を起こしてみんなで身支度を始める。
「朝ごはんを食べないのは何だか気合が入らないよねー。」
美羽が言う。
身分の低い肉体労働者しか朝食をとる習慣がないため、屋台で売っているのは、何だかよくわからないものが煮込まれたものか、肉串ぐらいしかないので、結局食指を動かされないのだ。
ボクは朝から肉でも大丈夫なんだけど。
仕方なく、朝食を食べたい場合は、携行食である黒くて丸くて平べったい乾パンみたいに硬いものしかない。
口の中の水分をあるだけ持っていかれるので、これも朝から食べる気にはならない。
きれいな水は水売りから買うしかないが、ビールみたいなエールとそう値段は変わらない。
ついもったいないので昼食まで我慢してしまうのである。
「冷たくておいしい水が飲みたいよね。炭酸とまでは贅沢言わないケド。」
陽菜がつい口に出してしまう。
湖沼が多く水自体はあるものの、濁っているものがほとんどなうえ、多少きれいなものでもそのままでは飲水に使えないので、飲み物といえばお茶を沸かすか酒類になる。
更に冷たくて綺麗と条件を付ければかなりの贅沢品になる。
「それは言わないでよ。飲みたくなっちゃうから。」
特に暑い季節の今なら、一番の贅沢かも知れない。
しゃべりながら歩いている間に、冒険者ギルドの窓口に着く。
早速、薬草採取の依頼を漁ってゆく。
薬草採取の依頼であれば、採取可能な場所も書かれてあるものも多いので、初心者のボクらでも迷うこともないし、場所を確認することができるので、近くの依頼を選ぶこともできる。
西側の海岸近くでの採取依頼が4件ほどあったので、陽菜がこころに確認したあと、懐に入れたあと、受付にいるベンに声をかける。
「ねぇ、ベンさん。もう私たち、大丈夫かな?」
「おお、嬢ちゃんらか。たぶんもう大丈夫だろう。依頼書を持ってくってことは、薬草採取の依頼か?」
「はい。薬草使いのこころさんがいるから、ある程度集めておきたいんです。」
「そうだな。薬草の採取がジョブの強化につながるしな。どの辺りに行くんだ?」
「今日は西の海岸辺りに行こうと思ってるんですが、何か気をつけないといけないこととかありますか?」
「そうだな。蟹の魔物が出る。まぁ、そっちの嬢ちゃんはハンマーを持ってるから、そう苦戦はしないだろう。それとたまに洞窟がゴブリンの巣穴になってることがあるからそれに気をつけるぐらいだな。」
「分かりました。ありがとうございます。」
一番近い薬草採取ポイントまで地図だと1時間程度歩く距離だ。
しかし、荷物も多いボクらの歩みは遅く、2時間近くかかってしまった。
「もう、お腹も空いたし、休憩したいなー。」
美羽が休憩したがっているが、みんな一緒だ。
「美羽ちゃん、あともう少しで薬草の生えている場所に着くから休憩はそこでいい?」
「あとちょっとって、どれぐらい?」
視界の果てに海岸線が見えてきていた。
「あの海岸線まで。」
「やだよー。遠いよー。」
ぶつくさ言いながらも、何とか海岸線まで歩き、そこで休憩に入る。
まだ昼食には早い時間だ。
口の付いた革袋から少しづつみんなに水を回していく。
海岸を蟹がこっちにむかって歩いてくる。
横歩きじゃないし、茶色いな。
と言うか、デカい?
「美羽、アレ?」
「きゃー!気持ち悪い!」
そりゃそうだ。
大型犬ほどもある蟹に可愛さを期待するのは無理だ。
あの、ウニウニ動かす口元の気持ち悪さと言ったら…
さて、ここで気を取り直して、みんなに動いてもらおうか。
「蟹は一匹です。陽菜ちゃんが先頭に立って、突きを主体にして、足止めしてください。美羽さんがトドメをお願いします。こころさんは、ボクの横で待機してください。」
言ったあとから、美羽に筋力強化、陽菜に防御強化をかける。
陽菜が言われたとおり、足止めに徹し、美羽が蟹の脳天、目の間にハンマーを振り下ろす。
一瞬で勝負は着いた。
今度は、複数出てきたときの対策を練らないと駄目だな。
あのハサミに挟まれたら、一発で大怪我しそうだ。
長くて太い木の枝を探し、ボクが持っておく。
「優くん、2匹以上いたら、どうしたらいいの?」
「ボクが陽菜ちゃんを誘導する。駄目ならボクが相手する。」
「優、それで大丈夫なの?」
「信じてくれないと成り立たない。」
「私は信じるよ。優くん。」
「まぁ、陽菜に免じて言うことを聞いてやるとするか。」
さて、ここで信頼を得て、戦闘に耐えるパーティーに仕立て上げないと、ボクらパーティーは戦闘行為なんて今後できなくなるんだろう。
強敵に初めて立ち向かう今日が、これからパーティーを続けられるか否かの分かれ目だろうな。