報酬を取りに行こう
「んんっ。」
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「あ、優。起きたの?」
向かいから美羽の声が聞こえる。
陽菜の上段で寝るはずだったが、陽菜が寝るはずの下段で寝ていた。
こころが答えを教えてくれる。
「優、昨日倒れた。」
あ、そうか。
魔石を作ろうとして、何故か気を失ったんだっけ?
軽い頭痛と酷いめまいを起こしてたような気がするけど、昨晩の記憶が微妙に曖昧だ。
これが、有名な魔力枯渇か?
戦闘時は効果が切れるまで次の魔法が使えないから、魔力が無くなるまで使い切るような心配なんて無縁だったから、警戒もしていなかったな。
「昨日は大変だったのよ。陽菜がベッドまで運んでくれたんだから、お礼ぐらい言っときなさいよ。」
いや、陽菜だけでは無理だったんじゃないかな?
「美羽さんも手伝ってくれた?」
「まぁ、そうだけど。」
「ありがとう。」
少し照れている美羽の表情にドキッとしてしまう。
扉が開き、陽菜が部屋の外から戻ってきている。
「陽菜ちゃん。昨日はごめんなさい。心配かけて。」
「別に気にしなくてもいいよ。」
「それより、身体は大丈夫?」
「何ともない。」
ステータスを開いて確認したら、今はもう満タンになっていた。
「それよりも、優くん。成功してたよ。魔石。」
陽菜がベッドの上のバッグから、昨夜は魔核だったものを取り出す。
雛の手の上には薄い紫色のビー玉が乗っていた。
「これが、魔石か。」
ターコイズの黒い筋のような柄の部分は残ったままになっている。
「たしか、高く売れるのよね。」
「うん。たぶん、金貨一枚ぐらい。」
「えっ!もしそうなら、お金には苦労しなくなるよね。」
「でも、優くんがまた昨日みたいに倒れるのも困るよ。」
「起きてから、どこも体調は悪くないから、たぶん平気だと思う。」
「でも、一日一つが限界ってところか。でも、いい宿には泊まれるようになるわよね。」
美羽の顔が緩んでいる。
「それより昨日の問題片付けないと。」
こころが冷静に話を切り上げようとしている。
たしかに、こころの言うとおり、セイルの村の件を片付けないとおちおち安心して買い物もできないな。
「優くんも大丈夫みたいだし、もうすぐ三時課の鐘が鳴る時間だし、出る準備はしましょうか。」
そうだ、三時課が何時になるのか聞くのを忘れてたな。
いい加減、知らないままだと恥ずかしいし。
「三時課って、何時ぐらい?」
「朝の9時だよ。だいたい3時間おきに鐘が鳴るよ。」
「二時課だと正午?」
「正午は六時課よ。時課の方も3ずつ増えると思ったら分かりやすいかも。」
こころは覚えていたようだが、美羽は真剣に聞いている。
「ありがとう。さすがは陽菜ちゃん。」
「あまり待たせるのも良くないし、急いででましょうか。」
慌てて身支度を整えて宿を後にする。
ちょうど宿から出るときに、三時課の鐘が聞こえてきた。
この宿からだと、冒険者ギルドまで人通りが少ないところを通らなくていいので、昨日みたいに防御魔法まではかけないことにした。
警戒は怠らないけどね。
冒険者ギルドと同じ中~上流階級の家や店が多い区画にある宿からなので、ものの数分で冒険者ギルドに到着した。
「失礼します。」
陽菜を先頭に冒険者ギルドに入っていく。
冒険者ギルドの受付のおっちゃんが出迎えてくれた。
そういえば、まだ他にも受付の人はいてたよな。
「よくきたな。テツオは2階で待ってるよ。一緒に上がるか。」
「初っ端から、面倒なことに巻き込まれたみたいね。無事で戻ってきてくれて、うれしいわ。」
フランさんが声を掛けてくれる。
木田の嫁なんだろうか?
こういうことって、どのタイミングで聞けばいいんだろうか。
要らないことを考えている間に、おっちゃんを先頭に奥に入っていくのに遅れそうになる。
2階の執務室らしい一室に木田がボクらを迎え入れてくれた。
「よう。後輩諸君。初日から大変だったようだな。」
「言ってた数より多いゴブリンだったし、そのうえ、あいつら私たちを口封じに殺そうとしてたのよ。」
部屋に入ったとたん、美羽が怒りに任せてまくしたてる。
「気持ちは分からんでもないが、落ち着け。」
勧められてとりあえず全員がソファーに座る。
そんなに広くないので、となりのこころと密着することになった。
女の子って暖かくてやわらかいんだ。
ちょっと煩悩に負けそうになっているあいだに、話が進み始めている。
「とりあえず、報酬うんぬんより、私たちの安全の確保からお願いしたいところなんですが。同じようなケースが今まであったと思いますが、どのような対策をしてきたんですか。」
「ああ、君の言うとおり、今までにも似たようなケースはあった。基本的な対策としては、同職ギルドからの経済制裁措置か罰金を課すことになっている。経済制裁措置だと、基本的には薬草、野菜、肉類になるが、それなりの痛手になる。身の安全で言うと、何らかの措置がとられた時点で君らを狙う意味が無くなるから大丈夫だろう。」
「だろうって、本当に大丈夫なの?」
「ああ、それは俺も保障してやるよ。そんなことすりゃ、冒険者ギルドと全面戦争だ。ウチだってなめられたまま終わらせるわけにはいかねぇからな。面子ってモンがある。」
おっちゃんはそう言い切った。