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魔力枯渇を味わってみよう

「高いめの宿の方が良いよね。」

 通を歩きながら美羽が話し始めようとする。

「みんな、ちょっと待って。」

「なによ。」

「宿まで警戒しないと。」

「警戒?」

「うん。」

 宿までの陽菜が先頭、美羽に殿をお願いし、全員に防御強化をかけておく。

「もし、襲われそうになったら、足を狙ったら良いのよね。」

「了解です。今日は外で食べるのも避けた方がいいよね。あと、宿はセキュリティがしっかりしたところじゃないと。」

「臭くないベッドで寝たい。」

「痒くならないベッドがいい。」

 油断しているような気もするが、なんとか無事に宿にたどり着いた。

 今日は特別に結構値の張る宿にした。

 部屋はパーティー用の4人部屋で二段ベッドが二つある部屋だが一昨日泊まった宿よりかなりグレードは高い。

 おかげで薬草採取での稼ぎはほとんど消えたけど。

 食事のほうも小さいながらもソーセージがついており、それなりに充実している。

 パンがぼそぼそして固いのは許してやろうか。

「久しぶりにまともなご飯にありつけたー。」

 美羽もかなりうれしそうだ。

 黙々と頬張るこころも、声には出さないが、うれしそうである。


 食後は、女性陣待望の体を拭く湯と布を貸してくれる。

 それなりのお金を払えば、ちゃんとしたサービスは受けられるもんなんだな。

「優、覗くなよ。」

「ごめんね、優くん、少し我慢しててね。」

「覗き禁止。」

 シーツも少し前に洗った形跡があり、人形に汚れていたりはせず、嫌な臭いはしない、快適な部屋ではあったが、借りた部屋は一部屋であるため、体を拭く間、目隠しをされることになった。

 しかし、耳だけでも、意外にドキドキする。

 服を脱ぐ音や体を拭く音、ちょっと汗の匂いの混じった体臭に想像力を掻き立てられ、大変なことになっている。

 だが、無様な状態を晒すわけにもいかないので、背を向けて必死で我慢する。

 男ってつらいやら、情けないやら。

 女性陣が湯を捨てに行ってから、やっと体を拭くのにありつける。

「もう冷めてるよ。」

「まだ、暖かいから、いいじゃない。」

 そりゃそうだけどさ。

「ごめんね、優くん。」

 美羽の代わりに陽菜が誤ってくれた。

 暖かい季節は良いけど、これから寒くなると嫌だな。

 ここは雪が降るらしいし。

 それまでに、対策を考えておかないといけないな。

 部屋の隅っこで体を拭き終え、ベッドに潜る。

 やっぱり、中は藁だったが、シーツがきれいなだけでもかなりうれしい。

 羽毛が入っている布団がある宿だと、いくらかかるんだろうか。


 ベッドの上で体を起こして魔核を荷物から取り出す。

 濁っている紫のなかに、黒を基調とした筋が無作為に走って居る。

 大きさもビー玉ぐらいだろう。

 手に握って力を込めてみる。

 うーん、良く分からないな。

「優、何してる?」

 向かいの上段にいるこころが声をかけてくる。

「魔核を魔石にできないかと思って。」

 下の段の陽菜が気になったのか覗き込んできた。

「確か、魔力を入れるんだよね。」

「うん。」

「魔法を使うときみたいに魔力を出すのかな?」

 そういえば、魔法をかけるときは、どうしているんだろう?

「陽菜ちゃん、ちょっといい?」

「なに?」

「精神力強化。」

 身体の中の魔力の流れを意識しながら、陽菜に精神力強化の魔法をかけてみる。

 精神力強化にしたのは、筋力強化や防御強化だと、身体に影響がでるので、寝づらくなりそうと思っただけである。

 何か、ある気がするが、いまいち良く分からない。

 今度はベッドから降りて、美羽に精神力強化の魔法をかけてみる。

「美羽さん、精神力強化かけてみていい?」

「いいわよ、別に。」

「精神力強化。」

「なんか、変な感じね。」

 なんか、掴めそうな気がするんだけどな。

「こころさんも、良いかな?」

「うん。」

「精神力強化。」

 かざした手から、何か力が出ていくような感覚があるにはある。

 うーん。

 再び魔核を握ってみる。

 魔核に魔法をかけられないかと思ってみたが、どうもできないみたいだった。

 スキルで魔法が覚えられるのは便利だけど、何か基礎を飛ばして技術が身についているようなので、魔力というものがどんなものなのか、一切理解できていない。

 魔法を使った時の感覚を思い浮かべながら、魔核を握り締める。

 しばらく格闘してみたが、まだ感覚が掴めそうにない。

 そういや、冒険者ギルドの受付のおっちゃんは、魔力の操作ができるスキルが必要とか言ってたっけ?

 そうこうしている間に、少し時間が経ったので、再度魔法をかけて練習してみよう。

「陽菜ちゃん、精神力強化は切れた?」

「うん。でも、次は防御強化にして。なんか寝れなくなりそう。」

「うん。防御強化。」

 どうも、腹の底あたりから、力が流れているような気がする。

 何か、もう少しでコツを掴めそうだ。

「美羽さん、またいい?」

「私も防御強化にしといてよ。」

「了解。防御強化。」

 なんか、少し感覚が掴めてきたかも。

 なんだろう、力というか、何というか、言葉にし辛い感覚である。

 勝手に出て行くような感じもあるけど、これを自分の思い通りにコントロールしないといけないってことなんだろうな。

「こころさんも、防御強化でいい?」

「精神力強化。」

「うん、精神力強化。」

 何でこころは精神力強化なんだろう?

 自分にはかけられないので、感覚が良く分からないが。

 椅子は部屋には無いので陽菜のベッドにもたれかかって床に座り込んで魔核を握り締め、魔法をかけるときの感覚を思い出しながら力を込めてみる。

 3分ほど経った頃で、飽きたのか陽菜と美羽はベッドに潜りこんでいる。

 美羽のベッドからは寝息が聞こえる。

 こころは興味深そうにじっとボクを見ている。

 緊張するから、やめてほしい。

 陽菜に目をやると、横向きになって、目が閉じかけている。

 眼福なんだけど、集中力が削がれるな。

 壁に向かって何度か試してみる。

 そのうち、うっすらと魔核が光った。

「あっ!」

 ほんの少しだけだけど、できた気がする。

「もう、うるさいわね。」

 美羽が目を覚ましてしまったようだ。

「できそう。」

「もし、魔石を作れたんなら、かなりの値段で売れると思うよ。ゴブリンの魔核が結構取れたし。」

 陽菜だ。

 上手いこといけば、生活が楽になるかも。

「かんばるよ。」

 そういって、再び魔核を握り締める。

 1時間ぐらい飽きずに続けていると、少しだけコツを掴めてきた気がし始める。

 続けていくうちに、魔核がうつすらと光り始め、そのまま続けていくうちに、軽い頭痛とともに視界がぐるぐる回るようなひどい目眩がしてきた。

 その感覚に身を任せると、ボクはいつの間にか意識を手放していた。

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 同じ世界を舞台としたもう一つの物語、『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています。』を同時に掲載しています。
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