依頼主に状況を確認してみよう
冒険者ギルドの受付のおっちゃんに教えてもらったのだが、魔物には魔核と呼ばれる魔力を司る器官があるらしい。
心臓と併存しているか、心臓の代わりに魔核だけがある場合があるらしいが、ゴブリンは心臓の脇に魔核があるとことだ。
外見は黒紫に黒い筋が入り、紫のターコイズといったところか。
因みに、この魔核の魔力含有量が高くなると、透明度が増して宝石みたいになるらしい。
そこまで魔力が溜まったものは魔石と呼ばれる。
後から魔力を注いで溜める事もできるらしく、何にせよ金になりそうなので、回収しておく。
全部で倒したゴブリンは42体。
さて、村長をどうやって問い詰めようか。
こころの毒の煙とスキルが無かったら、かなり危険だっただろう。
「陽菜さん。ちょうと打ち合わせしようか。」
村長の隠れていた場所に4人で向かう。
村長の前に陽菜が立つ。
「あの、村長さん。冒険者ギルドの依頼と随分と違いましたね。それに、後の村人は何なんでしょうか?説明していただけますか?」
横で美羽がハンマーを肩に担ぎ、睨みをきかせている。
「さて、後の村人が武器を持っているのは、討ち漏らしたゴブリンを警戒するためですよね。」
「ボクらは使徒でパーティーには薬草使いもいる。正直に話した方が身のため、いや、村のためだね。」
ボクは少しヤバそうな笑顔を作って、紫の汁を垂らしたナイフを手に村長に話しかける。
「すまん。仕方が無かったんじゃ。」
村長の言うには、領主の税の取り立てが厳しく、騎士団なりの救援を頼めば、その対価を税として強いられる。
それも、高額な税を。
冒険者ギルドでも、騎士団なりが必要な規模のものだと、同じように高額な料金がかかるだけでなく、そんな難易度の高い依頼はなかなか受けられるまで時間がかかる。
それで、仕方無く、虚偽の依頼を出したらしい。
「今、依頼の完了札は持っていますか?」
「いや、家に忘れてきた。」
「嘘ですね。それは。」
陽菜のスキルで嘘は分かる。
ただ、この状態で完了札を渡す気がないってことは、金で示談等は考えていないということかも知れない。
子供4人で、これ以上の交渉をするのも、難しいだろう。
「みんな、逃げる。これ以上、交渉は無理だ。ギルドに介入してもらう。」
村人達が少しづつ近付いてきていて、もう猶予はない。
全員に筋力強化をかけ、逃走を図る。
筋力強化の効果はなかななのもので、必死に走ってやっと二人に付いていけるぐらいだ。
こころは筋力強化をかけて、ボクと一緒ぐらいだけど。
前方に人影が見える。
その男は弓を持って立っていた。
狩人のジムだ。
「邪魔するなら、容赦しない!」
ナイフを取り出して構える。
矢とかナイフで叩き落とせたりするんだろうか?
避けるのはできそうだけど。
「心配して来たが、その様子だと大丈夫そうだな。」
「アンタは?」
「こんな子供を生贄にするなんて、寝覚めが悪い。逃げられたら、逃がそうかと思ってな。何とかゴブリンから逃げて来れたか。」
まあ、積極的に助ける気は無いが、良心が満足するだけのことはしてやるかってところか。
「ギルド長は知り合い。それだけ伝えておいて。行こうみんな。」
ボクはそれだけ言って、駆け出した。
相当焦るだろうな。
でも、街まで帰れば、強硬手段にも出れないだろう。
情報も常識も足りていない今のボクらじゃ、ろくな交渉はできない。
大人だって、頼られれば悪い気はしないだろうし。
ずっと、筋力強化を切れればかけるを繰り返し、街道を走り続ける。
「もう、魔力が切れそうだよ。」
「ちょっと休みましょう。」
美羽もかなり疲れた顔をしているが、こころが一番ヤバそうだ。
ボクの方は、強化も無しで走り続けだし。
村全体で馬車は2台、そのうち1台はロバだった。
その中で狩人のジムが乗り気でないなら、ボクらを街道で襲撃するだけの戦力は無いだろうし、心配しなくてもいいかな。
日が暮れる前に何とかケアーズに辿り着く。
「とりあえず、ギルドの受付に行こう。」
冒険者ギルドの『職安』窓口に向かう。
魔物の討伐情報はここでしか確認できない。
事情を説明し、冒険者カードに記録されたゴブリンの討伐数を確認してもらう。
「お前ら、よく無事だったな。これだけの数なら、普通は10人前後で動く規模だからな。」
10人というのは安全マージン含めてだろうケド。
それに、今回は地形も有利に働いたし。
平地だったら、一目散に逃げてたよ。
「よくあるの?こんな事。」
とりあえず、おっちゃんに聞いてみる。
「いや、こんな事すりゃ、俺たちだけじゃなく、同職ギルドの連中も敵に回すことになるからな。」
「取引禁止とか?」
「ああ、そうだ。」
「しかし、たった二日でレベルを5まで上げた奴らは初めて見たよ。」
いや、好きこのんでやった訳じゃないんだけど。
あ、そうだ。
ついでに聞いておきたいことがあるのを思い出した。
「魔核に魔力を入れるのって、どうするの?」
「手から直接、魔力を注入するらしい。俺は魔法が使えないからよく分からないんだが、魔力の操作か何かのスキルが必要らしい。」
結局、よく分からないってことか。
ちょっと、寝る前にでも試してみるか。
「ちょっと!口封じに追っかけて来た奴らとか、どうするのよ?」
美羽が心配そうに聞く。
「追ってきたとしても、この街じゃ、何もできんよ。」
ボクらを安心させるようにおっちゃんが言う。
街中でボクらを狙うようなことはできないだろうし、冒険者ギルドまで辿り着いた時点で、ボクらの勝ちだろう。
これ以上、立場を悪くすることもしないだろう。
「それでも、今日はもう遅いから、宿に入るまでは、油断するなよ。」
あら、やっぱり物騒な世の中なのね。
返り討ちにできるもしても、陽菜や美羽に人殺しなんてさせたくないしな。
「明日はこっち来ればいい?」
ボクが考えている間に、美羽がおっちゃんに聞く。
「いや、本部だな。三時課の鐘が鳴ってから来てくれ。」
「了解。」
ってか、三時課の鐘の鳴るのは何時頃だったっけ?
まだちゃんと覚えてない。
後で陽菜に聞こうっと。
「そうだ。薬草採取の依頼のほうはどうだった?そっちはすぐにでも買取するぞ。」
「あ、忘れてた。」
薬草を銀貨に換金してから、窓口を後にした。