ゴブリンを倒してみよう
翌朝、日の出とともに目を覚ましたが、皆が起きるまで待つことにする。
女の子が三人もいると、やはりドキドキするもんだ。
向かいのソファーで寝るこころの胸元につい目がいってしまうし、陽菜の匂いとかも気になってしまう。
それに、美羽の寝顔は綺麗なだけでなく昼間と違って少し優しそうに見える。
そのうち、みんなが起きてきた。
ルース聖教の影響で基本的に朝食は忌避されているため、朝食は諦める。
とは言うものの、田舎や肉体労働者は普通に食べていたりするんだけど。
ボクは朝ご飯は米派でがっつり食べる方なので残念だ。
今に呼ばれ村長と打ち合わせをした結果、ゴブリンの巣まで村長が案内してくれるとのことだ。
丘の麓に泉があり、そこから水を汲んで使っているのだが、その丘にゴブリンが巣を作ってしまったらしい。
このままでは女子どもが襲われる危険があるとのことで討伐依頼を出したとのことだ。
村から10分程度歩いた低い丘の断崖に洞窟が見え、ゴブリンらしき人影が見える。
緑灰色の皮膚を持つ10歳前後の子供の背丈のそれは、膨れた腹をしており、足は細く短いものの腕は長く太い。
「餓鬼みたいだな。」
その姿を見てつい感想をこぼしてしまう。
「そうね。こっちはちょっと筋肉質だけどね。」
一糸纏わぬ者も居れば、獣皮を腰に巻く者、得物もバラバラだ。
「あの、彼らって私たちと交渉というか話とかできたりするんですか?」
陽菜が村長に聞く。
「人間と会話をするというのは聞いたことはない。女が居れば手に入れるために、必死になって襲ってくる。捕まえて、子を孕ますためだ。」
ちょっと待て。
ウチのパーティーって、女の子ばっかりじゃねえか。
こころがボクの背中でビクビクしている。
「じゃ、正面から突っ込みますかねー。ブッ込みに行きますかー。」
美羽が無駄にヤル気を出している。
まあ、人型の魔物を殺しに行くのに尻込みしないのは、なんて思ってみたが、表情を見ると何だかやけっぱちじゃないの?
まあ、空元気でも、無いよりマシだ。
「美羽、ちょっと深呼吸して、落ち着きましょう。昨日の作戦どおり、まずは火を起こしておきましょう。」
今回、洞窟内に巣があるとのことなので、長い武器は使えなくなる恐れがあった。
こころの発案で、煙で燻り出すということになり、事前に薬草等は集めていた。
「この『ツチル』の毒草の毒は少量なら虫除けにも使う揮発性。粘膜から吸収、痛みと痺れ。」
「催涙弾みたいなもの?」
こころさんに聞いてみる。
「ん。」
更に馬糞の堆肥のアンモニアも追加する。
いい感じに湿気てるから、よく煙が出るだろう。
卑怯もなにも、ゲームじゃないからな。
リアルなんだよ。
使える手は余す所なく使い切る。
「今日は『憂鬱』のスキル、試してみて。」
名前の感じから敵の弱体化をしてくれるスキルだと見込んでいるのであるが、使ってみないことには分からない。
「うん。」
「美羽さん、陽菜ちゃんは、強化が切れたのに気がついたら、左手を挙げて合図してね。」
今は、三体のゴブリンが洞窟の入口にいる。
見張りみたいなものだろうか。
燻り出して迎え討つとしても、囲まれて退路が塞がれることは避けておきたい。
簡単なトラップでも準備できれば良いんだが、ボクらにはそんな知識も技術もない。
逃走ルートの目星はつけておいて、依頼完遂の確認のため村長が隠れている場所を避けることだけ気を付けておけば良いか。
「行きましょう!」
陽菜がボクを振り返る。
「防御強化!筋力強化!」
先陣を切る二人に強化魔法をかける。
「サッサと片付けよー!」
「筋力強化!こころさん、行こう。」
こころと燻り出しの火を焚くための枝や村で貰った藁などを担いで、遅れて近付いていく。
昨日の野犬の件があったからか、二人とも意外と落ち着いて、一体ずつ倒している。
残った一体が警戒の声を上げ始めたところで、陽菜の剣が首を捉えて止める。
ボクとこころで洞窟の入口に藁の上に木の枝、堆肥、薬草を重ねて置いてから、火を付けると、もうもうと煙が上がる。
燻り出しされ、咳き込み、顔中を汁塗れにしたゴブリンたちは待ち構えていた二人にどんどん倒されてゆく。
かなり毒が効いてるのか、2人の攻撃を躱そうとしている者はほとんどおらず、されるがままに倒されている。
「筋力強化!」
合図があったので、美羽に2回目の筋力強化をかけ、かけた時間が同じなので、陽菜にも防御強化をかける。
あれ、二人とも奮闘し過ぎてない?
既に10体近く二人で仕留めてるんじゃない?
確か、10体ぐらいって聞いてたのに。
30体にもなれば、領主が動くって聞いてたんだけど。
まだ、メスや子供が出てきてない。
こりゃ、騙されたな。
何のために?
「陽菜!美羽さん!まだまだいそう!気を抜かないで!」
防御強化をかけていた陽菜の方は、息があがってきている。
ボクはナイフを抜き、陽菜の方に歩み寄る。
「こころさんは、そこから近づかないで、逃げたのがいたら、スキルを試してみて!」
3体が一斉に飛び出てくる。
端の一体は美羽が振ったハンマーの餌食になったが、飛び掛かられた陽菜は剣で受けたが、体勢を崩す。
ボクは慌てて駆け寄り、陽菜に向かう一体の首元にナイフを突き立てる。
「陽菜ちゃん、まだ来る。こころさんは任せて!」
こころに真っ直ぐ向っていくゴブリンにすぐに追いついて、首元に切りつける。
浅かったが、ゴブリンは転倒したため、背中を踏みつけて首元にナイフを突き立てる。
《レベルが3に上がりました。》
ボクって付与魔法師だったよな。
もしかして、スキルが無くても、普通に鍛えれば、肉弾戦できる?
「優くん!できた!『憂鬱』!」
こころの視線の先にいるゴブリンたちは、目から覇気が消え、周りの様子をうかがっている。
この様子だと、想像どおり敵の弱体化みたいだ。
「複数は大丈夫?」
「うん。」
「付いてきて。」
こころの手を引いて洞窟の入口に戻る。
「二人とも!こっちに敵を流して!」
先に、こころのスキルが使えた場合のプランも伝えている。
「優!本当に大丈夫?」
「うん!」
美羽と陽菜が入口正面から脇に避け、ボクの方にゴブリン達を誘導する。
先頭のゴブリンの腹に蹴りを入れて逃さない。
「こころさん!」
『憂鬱!』
ボク達が囲んでいるゴブリンの集団は20体ぐらいか。
その中に女子供も混じっている。
毒の煙に燻され、涙と鼻水だらけの顔から更に生気が抜ける。
美羽と陽菜に筋力強化をかけたあとは、蹂躙だった。