薬草採取をしてみよう
同じ世界を舞台にした、もう一人の主人公のお話『親父に巻き込まれて異世界に転移しましたが、何故か肉屋をやっています』を掲載します。
そのため、次回からは隔日で交互に更新となります。
そちらの方も是非、読んでやってください。
「あった。」
こころが、何か言っている。
「アガサ茸。」
こころがキノコを手にする。
何か、動きが止まっているけど、多分、待ちかねたスキルが発動したところなんだろう。
脳に直接、知識が流れ込んでくる微妙な感覚を今味わっているんだろうな。
不意にこころが辺りをウロウロし始める。
「こころ、どうしたの?」
「紫の小さい花。ある?」
陽菜はこころのしたいことを理解しているみたいだ。
「優くんが怪我したから、傷薬を作りたいのね。」
「うん。」
「紫色の小さな花ね。」
「うん。」
三人が辺りを見舞わしている。
そんなに大層にするほどの傷じゃないんだけど。
でも、三人ともボクのために何かをしてくれるって嬉しいよな。
あ。
ボクの目の前にあるじゃん。
「こころさん。これ?」
「ガジュル。」
こころが手で掘り返すと、太い根が現れる。
街に帰ったら、移植ゴテでも買わないといけないな。
「外傷に効く。」
乳鉢と乳棒を取り出し、水で薬草を濯いでから皮を剥き始める。
そして、先ほどのきのことともに擦り潰していく。
それを傷口に塗ってきた。
塗られてすぐに、何だか温かくなっている気がする。
「乾くまでそのまま。」
「ありがとう。」
こころが恥ずかしそうに肯いた。
「どう?効いてる?」
美羽が覗いてくる。
「痛みが引いた気がする。何だか暖かいよ。もう大丈夫。」
「傷塞いで化膿防ぐ。」
「もう少し、きのこを探してから、行きましょうか。」
何本かきのこを採ってから、街道に戻ろうとしている。
「毛皮を剥いでおく?」
ボクが聞くと、
「犬の?!私は嫌だって!」
とは言うものの、生活費を稼ぐためには必要だろう。
安いだろうけど、それでもお金にはなるからと冒険者ギルドの受付のおっちゃんが教えてくれたのだ。
この様子だと肉を食べるなんて言ったら、猛反対されるんだろうな。
「ボクがする。」
そう言って、教わったとおりに野犬の体にナイフを入れていく。
魚を捌くのと一緒だと思おう。
結構な時間がかかったが、3匹目ぐらいになると、それなりに慣れてきた。
もう3時間以上は経っていると言われたので、作業を諦めて街道に戻ることにした。
街道に戻ってから、急ぎ足でセイルの村に辿り着く。
まだ、何とか日は暮れてない。
村人に尋ね回って、村長の家に行く。
「おや、これは可愛いパーティーじゃな。」
木田のシャツのお陰で、女の子には見られていないみたいだ、と思いたい。
今日は客間に泊めてくれるうえ、晩飯まで振る舞ってくれるとの事だ。
少し良かったかな。
まぁ、こんな田舎に宿は無いけど。
「村長さん。野犬のなんですが、買い取ってくれる場所を教えて欲しいんですが。」
「ああ。どこまで下処理してる?」
「剥いだだけ。脂も取っていません。」
「それならジムんところだな。ワシが案内するよ。」
村長自らの案内で、ジムの家にいく。
粗末な小屋には、獣皮が干してあったりする。
「狩人のジムじゃ。」
「村長。何だ?」
「獣皮を買って欲しいらしい。」
「これです。」
ボクが獣皮を渡すと、少しだけ驚いた顔をする。
「野犬か。処理は下手だが、傷が無いのもあるな?」
ボクらを見渡すと、美羽に目を留めた。
「ああ、ハンマーか。村長、この子達が?」
「討伐依頼で来てくれたんじゃ。」
何かジムが言いたそうだったが、すぐに取引になった。
やはり、陽菜のスキルは役に立つ。
全部で銀貨8枚とそれなりの値段ですんなりと話をまとめていく。
こんな売買は言い値からの交渉が基本だから、ボクやこころだと、随分と苦労しただろうな。
村長の家の客間でナイフを研ぐ。
野犬の解体で付いた脂でもう何も切れない状態になっている。
ついでに陽菜の剣も手を入れておく。
初めての刃物研ぎはなかなか難航していた。
気が付くと、刃の側面に研ぎを失敗する傷が付いて不格好になっているが、何とか切れ味は最低限戻ったようだ。
美羽のハンマーは手入れが要らないのは良かった。
ソファーが二つしかないので、女子を優先しようとするが、美羽がボクにソファーを使うように言う。
「こころさんの薬でもう傷が治りそうだし、女の子優先で。」
噛まれた場所を美羽に見せると、傷はもうすっかり塞がっている。
不思議なもんだ。
「見てよ。こころの薬でもう傷が塞がりそう。」
「薬効だけじゃなく、魔力の効果もあるから。ジョブのおかげ。」
結局、美羽とこころが一緒に寝て、陽菜が一人で寝ることになった。
そろそろ、夕食の匂いが漂ってきた。
「優くん、ちょっとシャツ脱いで。」
「え?」
不覚にもちょっとドキッとしてしまったぞ。
「破れたところを繕ってあげる。」
いや、女子力高いな。
なかなかの手際で夕食に呼ばれるまでにシャツを繕い終える。
固くて黒いパン、豆と肉の煮込みが出て来る。
パンは机に直置き。
煮込みは木の器に入っている。
ただ、スプーンとスープの器以外の食器は無く、パンはテーブルに直置きだ。
村長の一家が揃い、息子と嫁、それに孫が二人とともに挨拶だけすると、村長とボクらだけが取り残された。
テーブルもそんなに広くないので、先に食えということらしい。
村長の食べ方を見ながら、煮込みの汁にパンを浸したりしながら食べる。
他のみんなも同じようにしていた。
再び客間に戻って寝る支度をしていく。
蝋燭は無く、獣油の入った燭台しか照明は無く、金がかかるのは認識していたので、遠慮して早く寝ることにした。
何とはなしに、陽菜のソファーに凭れて眠った。