宿に泊まってみよう
しかし、その後も、おっちゃんは旅の準備や魔物の事など結構な時間を取って、色々と教えてくれた。
多分、木田のおかげだと思う。
とうとう、依頼も受けた。
冒険者デビューだぜ。
意外とここまで時間がかかった気がするな。
今日はもう、日も暮れかけてるし、宿を探して飯食って寝るだけだな。
冒険者証 金貨2枚
ショートソード 金貨3枚
ハンマー 銀貨8枚
ダガー 銀貨2枚
革の服 金貨2枚×4
「ここ、すっごく安いみたい。食堂が付いて無いからかな?」
陽菜がそう言って選んだ宿は格安ではあったが、板の台に藁、その上に安そうな布が掛けてあるだけだった。
食事は少し良い場所まで行って、串肉とかを食べてみた。
さほど美味くないうえに、意外と高くついた。
食事を済ませて、宿に戻ってから、今後のことについて話し始めた。
「さて、今後のことについて話をしないと。戦闘になったときの役割分担とか、ちゃんと決めておかないと、いざという時動けないよ。」
「というか、この二人は何をするの?大体、こころは薬草もまだ取ってないから、何の役にも立たないよね。」
そう、前衛で武器を振るうのは、陽菜と美羽だ。
「そう言えば、アンタ、魔法って使えるんだよね。大体、何が使えるの?本当に使えるの?」
確かに、まだ一度も試したことが無い。
「『筋力強化』、『防御強化』、『精神力強化』だけ。試す?」
「『精神力強化』って、魔法使いがいなけりゃ、何の役にも立たないんじゃない?まぁ、良いけど。」
「ちょっと、外に出て、試してみましょう。」
陽菜に促されて、全員で中庭のような場所に出る。
「陽菜、素振りしてみてよ。」
陽菜と美羽が武器を持って素振りをし始める。
「優、魔法使ってみて。」
どうやって使うんだろう?
ステータスを表示させて、技能欄の『筋力強化』を見てみるが、『パーティー内の一人の筋力を上昇させる。』としか書いていない。
とりあえず、美羽に手のひらを向けて、魔法の名前を叫んでみる。
「筋力強化!」
美羽の身体がうっすらと光った気がする。
「あ、効いてるかも。」
そう言って、ハンマーを振っている姿をみると、先程までハンマーの重さに振り回されていたのが、安定している気がする。
それと、魔法を使ってから、何となく使い方が分かった気がする。
スキルが知識をくれているのだろうか?
どうも、一人に対して二つの付与魔法はかけれないらしい。
「筋力強化。」
試しに、もう一度美羽に筋力強化をかけてみるが、光が霧散したようだ。
「防御強化。」
今度は防御強化をかけてみるが、さっきと同じように、光が霧散する。
重ねがけができれば、めちゃくちゃ役に立つんだけどなぁ。
あと、声を出さないと、魔法が発動しないみたいだ。
魔法名を口にした途端、何か歯車が噛み合ったような感覚がある。
「何も変わらないわね。」
「重ねがけはダメみたい。」
「私には防御強化をかけてみてよ。」
「うん。防御強化。」
陽菜の身体に淡い光が現れる。
「何か、実感が湧かないな。」
ゴッ!
美羽が陽菜の肩にハンマーを降ろす。
「きゃっ!痛い!」
「どう?陽菜?」
「確かに思ってたよりは痛くなかったかも。」
まぁ、ちゃんと魔法は発動しているみたいだ。
「しかし、不思議ね、スキルって。ハンマーなんて使ったこと無かったけど、何故か使い方がわかる。」
「そうですね。私も同じです。」
三人がスキルの恩恵を感じていたが、こころは蚊帳の外だ。
こころは薬草使いだから、材料すら無い今は、どうしようも無いし、発動してないと、スキルの実感も無かったため、取り残されている。
ちょっと可哀想かも。
「ごめんね。こころさん。私達だけ盛り上がっちゃって。」
「さん、要らない。」
そこかよ。
「ごめん。つい、出ちゃって。」
陽菜が慌ててフォローしてるが、あんまり関係なくない?
「筋力強化。」
今度は、こころに筋力強化をかけてみる。
「何か変。」
まぁ、実戦じゃ、使わないだろうけど、防御強化だと実感が薄そうなので、何となくかけてみた。
効果は、約3分ぐらいか。
某巨体ヒーローみたいだな。
30分ほど練習しているうちに、急に恐ろしいほどの倦怠感に見舞われる。
そうか、これがかの有名な魔力枯渇か…
立つのも辛いぞ。
ちょっとお話して、仲良くなったりとか、いろいろ期待してたのに。
何とかベッドに辿り着けたが、そのまま気を失うように眠りについた。