先輩からお話を聞いてみよう
「そう言えば、ケータはまるで神が冒険者ギルドを作ってほしそうだって言ってたな。」
「へぇ、どうしてですか?」
ちょっと気になる発言だったので、聞き返してしまう。
「ライブラリが揃い過ぎてるとか何とか。ギルドカードとか討伐数とか、この世界の何とかレコードにアクセスできたって言ってたな。ボクには何の事かよく分からんが。」
「冒険者ギルドの設立は神の意図って事ですか。」
「さあな。ボクは信心深くないし、カレン王国しか無いってのもあるから、どうなんだろうな。」
「そんな事より、そっちの子。確か、鍛冶師のジョブ持ちだったな。」
「はい。」
木田が美羽を見る。
「ギルドに入るには、誰かの弟子になって、見習いから実績を積まないといけない。ボクが師匠になってやろう。」
「本当ですか!」
「ギルドの連中も使徒が来れば珍しい技術を見れたりするから、期待してると思う。だが、先ずはレベル上げをして、基本スキルを取得する必要もあるし、基礎体力も必要だからな。職安の連中宛に紹介状を書いてやる。」
「ありがとうございます!」
頑張ってちょっと可愛く言ってみたんだと思う。
普段はそんな顔しないもん。
でも、それなりの効果はあったみたいだ。
「あのぅ、私は商人のジョブなんですが、商人ギルドとは対立してるんですよね。」
「諦めろ。特に使徒は嫌われてるからな。近づかない方が身のためだ。コツコツ自分で精進してくれ。」
そう言うと思った。
商人って、何か役に立つスキルなんて必要あるのか?
「あっ、『鑑定』!」
つい、声に出てしまったか。
「お、よく知ってるな。」
知ってるというか、アイテムボックスと並ぶ定番だな。
「もしかして、『アイテムボックス』もゲットできる?」
「そんなスキルがあるらしいとは聞いたことはあるが、実際に習得したという話は聞いたことがないな。」
しかし、陽菜の成長に期待できるかも知れないな。
もう、自分が強くなるのは諦めた。
ボクがパーティーを強化して、みんなに頑張ってもらえばいいさ。
「そう言えば、受付の女の子に不用心な格好と言われたんですが、そんなに場違いですか?」
「まぁ、金持ちの田舎モンって格好だな。ただ、日本から来たばかりだと、この辺の安物の服は着心地が悪いだろうから、何か羽織るだとか目立たないようには気を付けな。」
「はい。」
「それと、優くん。その格好はなんとかしないと、いけないな。」
「はい。」
いつまでも、こんな格好でうろうろしたくはない。
「そういえば、このスーツに反応していたな。ちょうど、替えのシャツがあるから、一枚分けてあげよう。」
よし。
とりあえず、ピンクのパーカー風ワンピース(本当は男物チュニック)を卒業だ。
さきほど木田を呼んでくれた女性を呼びつける。
「フラン。替えのシャツを一枚取ってきてくれないか。その間に、この子達の紹介状を書くから。」
「はいよ。」
木田は、フランから便箋を受け取ると、
「そっちの、ちっこいお姉ちゃんは、薬草使いだったよな。ただ、錬金術師には知り合いがいるんで、紹介できるんだが、薬草使いのジョブはなかなか珍しくて、どんなスキルを覚えるのか分からないから、今は紹介できない。しばらくは我慢しててくれ。」
「はい。」
さて、ここまで、ボクのジョブには全く触れてないな。
陽菜が聞いてくれないかな。
陽菜に視線を送ると、諦めた目で、木田に質問してくれる。
「優くんは、付与魔術師なんですが、そういったものや関連するようなギルドはないんですか?」
「無いな。そもそも、付与魔法師なんてジョブ自体初耳だよ。付与魔法自体は様々なジョブが覚えるものだけど、それ専門ってのはな。どう成長するのか、全く想像がつかないな。」
いいよ。もう、諦める。
いろいろ。
そうこうしている間に、フランさんが戻ってくる。
その腕には一枚の白いシャツが掛けられている。
やったぜ。
木田さんには、しっかり感謝しないとな。
フランさんからシャツを手渡される。
「ありがとうございます!」
ついテンションが上がってしまい、大きな声がでてしまう。
「フラン、済まないが、いや、シーリングまでは要らないか。あ、優くん、ここで着替えてもいいぞ。」
フランさんの表情が気になるが、下着も着てるし、ここで着替えさせてもらおう。
とりあえず、シャツを羽織って、ボタンを閉め始めると、何だか微妙な空気が流れているのに気がつく。
木田がニヤついている?
「『彼シャツ』可愛い。」
こころ、何て言った?
「クックック。な、可愛いだろ。」
木田が指差して笑ってやがる。
おのれ、はめやがったか!
さすがに、今回は怒ったぞ。
「ちょっとそれはエロいわ。」
くそっ、美羽め!
「余計危なくないですか、コレ。」
陽菜まで…
おもむろに木田がジャケットを脱ぎ始める。
ちょっと、何する積もりだ。
「さて、冗談はここまでだよ。ベストを着ければ、落ち着くだろ。」
そう言って、脱ぎたてホカホカのベストをボクに渡してくる。
女の子の脱ぎたてならうれしいが、おっさんの脱ぎたてなんて本来ならお断りするところだが、今回は折れるしかない。
生暖かい黒のベストを着ると、随分落ち着いた印象になった。
下はまだスパッツなので、シャツは出すしかないため、まだ甘ったるい印象があるが、ピンクのパーカーよりは、相当マシにはなっただろう。
ズボンは自分で手に入れよう。
「見ず知らずの私たちのために、ここまでしてくださって、ありがとうございます。」
陽菜が深々と頭を下げる。
ボクらも慌てて頭を下げる。
「気にしないでいい。同郷のよしみだ。無事に生き残って成長して、新しい技術を齎してくれると思えば、安いもんだからな。良いスキルを手に入れるまで、金にも困るだろうし大変だろうけど、頑張ってくれ。どうしても困ったら、フランに言えば、飯ぐらいは食わしてやるよ。」
「はい!頑張ります!」