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3, 正反対の二人

 ビーチハウスの前にボードを置き、そろって室内に入る。

ベッドルームが二つ、それにバスルームとキッチン、リビングがありここでも暮らせるくらいの装備だった。さすがはベレスフォード、と感心する立派な作りだ。

目の前には、プールがもちろん水が光っている。


「先に浴びても良い?」

海水に浸かったから、シャワーを浴びたくてたまらない。

「その前に軽く運動」

ディーンがそんな事を言い出して、カレンはそれと同じくして彼の腕に抱き上げられていた。


「どういうつもりなの?」

「年頃の男女がヤること」

「冗談は止めて、私はそんな簡単には……」

カレンは逃れようともがいたけれど、当たり前だが上手くいくはずはない。

ベッドルームにあっさりと連れ込まれ、考えていなかった危機が差し迫る。


「簡単だよ、だって俺たちはそういう風に出来てるんだ。アダムとイヴの時代から」


水着なんて無防備な装いだったから、そんなのは首の後ろのリボンをほどけばあっさりと少ない布地に隠されていた所を顕にしてしまう。

「ディーン!」

あっさりと片手で両手を捕らわれ、カレンは楽しんでいる彼の瞳を睨みつけた。


「三ヶ月間は、カレンは俺のだろ?その間禁欲するつもりはない。22なんてまだまだヤりたい盛りなんだ。カレンは引き受けただろ?恋人役を。俺は浮気したりしない、わりと一途なんだ」

「こんなの……ふりじゃない、から………!」


「しー、駄目だ。暴れたら痛くしてしまう」

宥めるような声は優しささえあるのに、止めようとはしない。

「いや、ディーン………ほんとに、やめ……て」

カレンの語尾は弱くなっていく。


「カレンもきっと好きになる。これはとても自然で素敵な事なんだ」

「そんなの……」


「可愛いカレン。そう遠くない未来、きっと俺にもっとお願い、って懇願するよ」


囁く声は優しくてとてもうっとりする響きがある。

こんなの望んでいない。


いくら言い聞かせても、カレンの体はディーンに従順だった。知らないうちに、ディーンの手は緩み両手は自由になっていたけれど、その手は彼の背を抱きしめるようにさ迷っていた。


―――――


 ディーンは、どんな女性に対しても情熱的に出来るのだろうか?恋する相手にはそれこそカレンが知った事よりもずっと、素晴らしい体験をさせるのだろうか、いずれにしてもカレンの初めての相手が、目の前のアドニスみたいな男だ。


「カレン、気分は?」

「知らない」


簡単に、許しては駄目だ。

「どうかした?機嫌を損ねるような心当たりはないんだけど」

乱れたシーツの上で、ディーンは惜しげもなく裸体をさらして、魅惑的な唇はカレンの肌に優しく触れている。


「もう、帰る」


「もう少し、一緒に居よう。親密に過ごしたあとはいつまでもこのままで居たくなるだろ?」

まるで愛されていて、甘えられているかのように錯覚する。

これだから女はほっとけないのかも知れない。

罪な唇は、どこもまるで甘いとでも言いたげに、あちこちに触れて、柔らかい胸たどり着くと、甘えるみたいに顔を埋めるようなしぐさをする。


「どれだけカレンが魅力的か、自分では分からないんだろうな」

「そんなの……」


頭の中で警報が鳴る。


いくら今、優しくしても次の瞬間には同じように別の相手に同じことをしていても不思議じゃない相手だ。

ディーンはカレンをすっかり変えてしまっても、その事をきっと気にもしない。

彼はその時にしたいことをしてるだけ。

ほんの少ししか一緒に居てなくても、すでに学んでいる。


ディーンの手が少しずつ目的をはらんだものに変わっていく。カレンは抗議なのか、甘く誘っているのか自分でもわからずに、ディーンの名を呼んだ。


「カレン、気に入っただろ?」

見つめながら言われると、嘘を見抜かれそうだ。

「気に入ってなんて」

素直にすごく気に入ってる、なんて言えるはずがない。例え見抜かれてしまっていたとしても。


「俺はすごく気に入った」

ディーンは言うと、情熱的にカレンの唇にキスをした。




―――――気がつけば、窓の外は薄暗くなっていて昼どころか夕方になっていた。

「腹へった」

体を伸ばしたディーンが、ベッドサイドに置いた腕時計を見た。


「ご飯に行こ」

「そんな服を着て来てない」

ブランチの後にここに来たのだから、ディナーに相応しい服じゃない。


「そんなの買えばいい」

いかにも普通の事だというふうに、言っていてそれがいかにも良いところのぼっちゃまらしいなとカレンは思った。そして、ディナーも断れない、ということを悟る。



 シャワーをしてから、ディーンがメインモデルをしているブランドショップに行き、そこでカレンのドレスとアクセサリーを買った。


カレンは白とローズカラーのプリントドレスにして、ディーンは同じブランドのタキシードスーツを着ている。

既製品ではなく、オートクチュールだろう。


ロサでは最高級のレストランに車をつけると、彼を追って来たのか、パパラッチがシャッターを切る。

カレンの腰に腕を回して余裕のある笑みを向けて、

「目線だけこっち」

とカレンにポーズまで指定してきた。


「変な顔で撮られるの嫌だろ?」

モデルをしているだけあり、カメラ写りは気になるらしい。そして一緒にいる相手の映り具合も。


「ディーン!新しいガールフレンド?」

問いが飛んできたが、人差し指を唇にあてて『ナイショ』と合図をした。


タキシードをきちんと着て、こうしてカメラのフラッシュを浴びていると、ディーンはより輝いているように思えた。


たっぷりと立ち止まり、写真を撮らせディーンは、カレンを守るようにして店へと足を進めた。

店内では一番いい席に案内されたのだとすぐにわかる。ディーンが椅子を引くのを待ちそして座る。


メニューを見て、ディーンが注文したのに続いてから頼んだ。

「さすがだね」

「え?」


「こういう店に慣れてる」

うわべだけではなさそうな微笑みに

「……それって……もしかすると褒めているの?」

とカレンは聞いてみる。


「まぁね。マナーを知らなくても良いけれど、学ぼうとしないのは嫌いなんだ。一緒にいる人間で態度を変えるのも。俺といるのを自慢するのも」

「自慢してしまうのは仕方ないのじゃない?私の彼を見て素敵でしょ?って言うことでしょ?」


「カレンはそういう気はなさそうだけど?」

「仕方ないわ。だって、私のじゃないから」


ディーンは、食前のワインに手を伸ばすと一口飲んだ。

「これまで友達以上の付き合いをしてこなかった。カレンといるのはとても自然で余計な感情を抱かなくて済む」


余計な、というのはなんだろう。

ディーンの友達以上の付き合いはしたことがない、のような発言にはそもそも驚く。

だけど、ふりなのに、親密な事をしてしまうディーンなら友達、とそういう仲になるのも彼にとっては普通なのかも知れない。


「俺はカレンとこうして過ごすのが、どうやら楽しいみたいだ」

「悔しいけど、私もそう思ってる」


思ったより、いい加減な男じゃない。

その気になればどこまでも、良家の子息らしく優雅に振る舞える。


「この出会いに」

乾杯の合図に応えて、カレンは微笑んだ。


期限を決めていて良かった。

本気でディーンと付き合うのは、きっと想像したこともないくらいに大変だろうから。


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