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1、はじまりは海

数ある作品から、アクセスしてくださりありがとうございます。


現実によく似た世界があるのですが、架空の国のお話だと思ってくださると嬉しいです。よろしくお願い致しますm(__)m

母に騙された。


こう思ったのはきっとカレンだけじゃない。


カレンは、買い物についてきて欲しいと母に誘われて出掛けた。いつもなら趣味の似た姉のケイトが一緒なのにどこかに出かけてしまったからだ。


行きつけのお店はずらりと新作が並び、華やかな品揃えだった。それほど興味を持たずに来店したカレンも、眼を奪われるほど。

そこでたまたま(・・・・)後からベレスフォード公爵夫人に出会ったのだった。公爵夫人と母はほどほどに親しい友人同士である。


 いつもなら苛々するほど時間がかかるはずの母の買い物は、お目当てであるバッグもそこそこに見て、あっさりと購入していた。


「あら、奇遇ね。セリーナ、今から暇かしら?」

「ええ、もう買い物も済んだ所なの」

「じゃあ是非うちにいらして。もちろんあなたの可愛らしいお嬢様も」

なんて、高らかな声で会話を繰り広げたかと思うとべレスフォード公爵夫人の車にあれよという間に乗せられてしまった。


 ひたすらテンションの高い会話を繰り広げる二人を見ながら、カレンは軽くため息をついた。


富裕層である避暑地ロサは、今あちこちの別邸ではそれぞれ家族を引き連れて来ていて、バカンスを楽しんでいる。

べレスフォード公爵家よりは、家格は劣るものの王妃を拝した事もあるカレンのミルウッド侯爵家もやはり有名な家だった。


カレンは20歳になったばかり。社交界へデビューして、お披露目も済み結婚市場へと名乗りを上げている状態なのだ。


べレスフォード公爵家の別邸は、プライベートビーチを要していて、屋敷からの眺めは最高のものだろう。

べレスフォード公爵夫人と母と同席させられ、海の見えるテラスでグレープフルーツジュースを飲みながら涼む。


海風はそんなに好きじゃない。

湿気をはらんだ風は、カレンのほのかに赤みのある腰まである長い金髪を優しく撫でず、時おり頬にまとわりつかせる。


「あ、ディーンだわ。やっと上がってきたのね」


公爵夫人は席を立ち、プライベートビーチから屋敷へと続く道を歩いて来る人影にディーン!と大きな声で呼んだ。


ディーンと言うのは夫人の息子でディーン・ジェラードだ。彼は名家の生まれというだけでなく、その素晴らしい容貌もまた有名でモデルとしても活躍している。面識はなくても彼の事なら知っていた。


サーフィンをしていたらしくサーフボードを腕に抱えていて力強い足取りでこちらに歩み寄ってきた。

今は青みがかった銀色に染めている髪は前は少し長めで、後ろは綺麗に刈り込んである。日焼けした肌は鍛えた体をより完成度を高めるかのように演出していて、鑑賞に値する素晴らしい体つきだ。


「ディーン、お客様にごあいさつを。ミルウッド侯爵夫人とそのご令嬢のカレンさんよ。息子のディーンよ」

紹介されると彼は、魅惑的な笑みを向けてサーフボードをテラスの下に置くと母の手をとり唇を寄せた。

「ようこそ、ミルウッド侯爵夫人」

続いて、カレンにその綺麗な青い瞳を向けられて手を差し出した。

「はじめましてカレン・ホワイトリーです」


「ディーン、着替えてこっちにいらっしゃい」

どうやら、母にしてやられたのはカレンだけじゃないらしい。


逆らうと面倒な事になると分かっているので、カレンは黙っていたけれど、その態度を見ればディーンもまたやられたなと思っているだろう。

ようはこれはお見合いなのだ。

ディーンはカレンよりも2歳年上の22歳。家柄といい年齢といい釣り合いがとれている。


「はい」

意外なほど素直に返事をして、彼はビーチハウスの方へとサーフボードを持ち直して歩いていった。


「カレン、素敵な男性でしょう?」

母がにこにこと言ってきた。


「ええ、もちろん。私もそう思います」

実物も確かに目が覚めるくらいの美男だ。ねじ曲げて否定すればよりやっかいかもしれないので、素直にそう言った。

でも彼の容姿は少々それが、過ぎるくらいにというおまけがつく。


シャワーと着替えを済ませてきたディーンは、かなり素早く戻ってきて、軽くシャツを羽織りリネンのロールアップしたパンツを履き素足にスニーカーを履いていてまるで、自分しかいない空間のようにリラックスした格好だ。

つまり、礼を尽くした装いではなくて、その手には乗らないよ、と彼の母とカレンの母に対する無言のアピールに思えた。


「カレンさんにあなたのお気に入りのビーチを見せてさし上げて」

めげないベレスフォード公爵夫人はそう言うと、

「わかりました。では、ミス・ホワイトリー、行きましょうか」

手を差し出されてカレンも素直にその手を取って立ち上がった。

テラスからプライベートビーチへと続く道を並んで歩いた。


リゾートにしてはきっちりとし過ぎている白のワンピースは、裾が風で太ももにまとわりついて少しだけ歩きにくい。

「海はお好きですか?」

礼儀正しくディーンはそう質問をしてきた。


海はお好きですか?は、今日はいい天気ですね、や、今日はあいにくの雨ですね、みたいにどうでも良い会話術の一つだ。


カレンとしては、お互いに気乗りのしない相手と不毛な会話を繰り広げる必要性を感じなかった。


「ここまで来れば、母たちには声は届きません、私に気を使わなくても大丈夫です」

そう言うとディーンは軽く目を見はった。


「よくある事でしょう?条件のいい男性に、自分の娘をあてがいたい親。そして結婚する気の見せない、浮き名を流してる大切な息子にそれなりの娘を側に置きたい。正にそんな典型的な構図でしょ?」

カレンがそう言うと、ディーンは可笑しそうに少しだけ笑った。


「確かに俺はまだ22歳だし、結婚なんて冗談じゃない。しかし、君は俺に全く惹かれたりしないのか?」

なんて自信家!

女性はことごとく自分に惹かれると思っているんだろうか?

だけどそれは、事実なのだろう。


砂浜に入った所で、ヒールのあるサンダルは途端に歩きにくくなる。よろめいたカレンを見て、ディーンはウエストに手を回した。

体と体は隙間が無くなり男性用のサボンの香りがふわりとする。

「もちろん、あなたはとても素敵。でも、私もまだ婚約なんてしたくない。条件の良い相手を親が決めるなんて今どきナンセンスよ」


「まったくの同意見だな。………なぁ、君は考え方が良く似てるみたいだ。実はこんな風に母がお眼鏡にかなった子を引き合わせるは初めてじゃない」

「そうでしょうね」

カレンは頷いた。


例え夫人がお膳立てをしなくても、財産と権力を持つベレスフォード公爵家に嫁がせたいと働きかける親はたくさんいるだろう。

まして、これほどの美男子ならば、娘の方だって喜んで会わせて欲しいと言うに違いない。


「ミス・ホワイトリー、つまりは君は俺とどうにかなりたいと思わないんだな?」

「そんな事、思わないわ。あなたと私じゃ違いすぎて相容れない」

カレンは、知らない人にまで噂されるほどの話題に上がったことなどない。ディーンといえば常に話題を提供している。


「しばらく、うまくいってるふり(・・)をしないか?」


「ふり?」


「君だって母親の干渉は避けたいんだろ?だったら俺と付き合ってるふりをすればその間は押しつけられない。頃合いを見て上手くいかなかったと別れればいい。俺なら別れたって、どうせ俺が移り気なせいだと、またか、となるだけだ。次に非の打ち所のない男を紹介されたらどうする?君の母親は確実に君にウェディングベルを鳴らさせるぞ」

ディーンはこの思いつきが気に入ったのか、目をキラキラとさせている。


「そんなの無理よ。すぐに分かってしまう」

ディーンはとてもモテるのだ。


すぐに誰か別の相手が噂になるに違いない。そんな相手と、たとえ納得ずくのふりでも名前が並ぶなんてカレンにとっては不名誉だし、マイナスにしかならない。


「出来るよ、パーティーの同伴は必ずお互い限定すれば」

確かに、ディーンはとても魅力的で一度くらいエスコートされてみたい、そんな欲求も無いこともない。


「いやよ、あなたの隣にはモデル仲間が最適よ」

容姿に優れた彼の隣で、評価されるのはごめんだ。

カレンはそれほど自分が美しいとは思っていない。背はそれほど高くないし、グラマラスでもない。

顔はどちからかというと、幼さが残り、美人というよりは、愛らしいと評される方だ。

ディーンがいつも噂になるのは、グラマラスな美女なのだから。


「モデルや女優じゃ母が納得しない。その点君なら……文句のつけようがない。なんなら期限をつければいい。そうだな、一年くらい。そうすれば母だって次はしばらく何も言わないと思うんだ」


一年!!


それは長すぎる。一週間?それじゃ短すぎてすぐに捨てられた女になってしまう。一ヶ月?

まるでしぶしぶ付き合ってもらったみたい。半年?

それは危険すぎる。だって彼はとても魅力的であまりにも、女性への影響が大きすぎる。


「分かったわ。でもとりあえず三ヶ月。その間だけね」

自然と噂が終息して、話題に上らなくなった頃合いだろうと思うのだ。それなら、こっそりと別れてしまえば……。


「じゃあ、決まりだ。俺の事はディーンと、君の事はカレンと呼ぶよ、よろしく。三ヶ月のガールフレンド」

言うと同時に軽くキスをしてきて、カレンはやや呆れた。


「本気なんだ……」

ボソッと呟いた。


なぜに、こんなフェロモンの塊みたいな男と三ヶ月と期限つきの関係を承諾したのか。


もう少し短くすれば良かったと言い出しておきながらカレンは後悔した。出会ってすぐに、こんなキラキラした外見の男と付き合い出すなんて、まるでおとぎ話を信じてる幼い女の子みたいだ。

カレンとディーンは顔を寄せ合う様にして来た道を上っていく。こんなことを例えふりだと分かっていても、急にして許してしまってるのは、見た目が格好良いからに違いない。


一見すると思惑通りにとても親密になり戻ってきた息子たちに、お互いに母親たちの期待に満ちた目が辛い。


「カレン、明日一緒にビーチで過ごそう」

と、女なら一瞬で蕩けそうな笑顔を見せる。それはもちろん、カレンも。


「ええ、もちろん。お誘いをありがとうディーン」

これくらいの受け答えならなんて事ない。


三ヶ月、三ヶ月の夢だと思えば……。


「まぁ、素敵。明日またいらっしゃいね、カレンさん」

「ありがとうございます」


帰りの車で、母は満足そうにため息をついた。

「やっぱりあなたも女の子ね。彼に惹かれない女性なんて存在しないわ、そうでしょ?」


だからこそ、近づきたくないのに。

なぜに、そんなに女性を惹き付ける男性と見合いなんてさせるのか、そんな相手と結婚なんてすればきっと四六時中ヤキモキしなくてはならないはずなのに。

まして、その中でもディーンは唸るほどの財産まで持っている。どんな事だって許されるし出来てしまう。


軽いキス。挨拶みたいな、それでさえ心を乱されそうになるのに。

信じたくないのは、そんな魅力にたちまち屈しそうなカレン自身だ。

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