#1 すべてはあの夜から
今回から新作です。
この作品の時系列は「星空龍星、異世界冒険中」から1年後の第2世界で起きた話です。
是非、最後までお付き合いください。
夜の道を歩く高身長の学生。
黒髪に真面目な顔つきで笑顔が少ないような感じ――これは友人から得た評価。それが俺、浅倉英斗だ。
高校の入学式前日に夜におつかいを頼まれた俺は買い物を済ませ、帰宅途中。
その道中、川の上に建つ橋の上で夜空を見上げる少女がいた。
笑顔が似合う顔に黒髪のショートヘア、澄んだ瞳が魅力的な小柄の少女。
その時、俺はその少女に一目ぼれしていた。
自分が思う中で最高の美少女と言える。
話しかけたい――そう思うことは簡単。
だが、俺には思うだけで実行する勇気はない。
少女の後ろをいつの間にか通り過ぎていく自分を情けなく思うが、明日は大事な入学式。
家に向かって買い物袋を手に持ち、帰宅した。
翌日、俺は身支度を整えて入学式に持っていく物をバッグに詰め、坂の上にある星条高校へと向かう。
受験に受かった友達もいれば、受験に受かっていない友達や別の高校に行った友達もいる。
そんなことを考えながら坂を上る……
道の途中、目の前に見覚えのある少女がいた――昨日、橋の上で夜空を見ていた少女だ。
『今度こそ話しかけてみる』と心に誓いを立て、その少女に近寄るが……
「ねえ、そこの君……もしかして昨日の人だよね?」
気づかれていたようだ。更には顔まで覚えられている。
「あ、ああ、そうだけど」
「高校まで一緒に行かない? 私、ここに来たばかりで道がわかんなくて」
「べ、別にいいけど……」
照れることはだめだ。ここは大きく前進するんだと自分に訴え掛ける。
「俺は浅倉英斗! よろしくな!」
「私は星空玲、よろしくね! 英斗くん!」
自分の事は不快には思われていない。
引っ越してきたばかりの美少女と仲良くなれたことは幸運であることを実感する。
桜並木の下を2人で歩く。
会話を繰り返すうちに、2人は星条高校の門の前へ着いていた。
周辺では星条高校の在校生が、新入生に声をかけて部活動への勧誘をする姿が見える。
見渡す限り、自分の知っている顔はいない。
そして、星城高校の校舎に視線を移すと、普通ではない何かを感じる。心に重りを乗せられたような感じが……
これは英斗だけではなく、隣にいる玲も感じている。
普通とは違った何かを持っている英斗には手に取るようにわかる。
「英斗くん……今、何かを感じなかった?」
「ああ、俺も感じた。間違いねえ……この学校、何かがヤバいぜ」
「……ねえ、英斗くん。ちょっとこっちについてきて」
玲は英斗の手を握り、人気のない場所へ英斗を連れていく。
「なあ、いきなりどうしたんだ?」
「聞きたいことがあるの……英斗くん、あなたも普通じゃないんでしょ?」
玲が言った「普通ではない」、これは自分でもわかっている。
自分の中に潜む、1つの力……
「玲にもあるのか? 不思議な力が」
「よかった。私だけじゃないのね……そうよ、私にもある不思議な力」
すると、玲は小石を拾い出し親指に乗せる。
そして人差し指で親指の上の小石をはじく――次の瞬間、小石は弾丸のような速度で撃ちだされる。
撃ちだされた小石はコンクリートの壁にめり込んでいる。
「これが私の能力、名付けて……”エクスリボルバー”よ」
玲の能力、エクスリボルバー。指ではじいたものを弾丸のようにして撃ちだす。
名前の由来は未知と拳銃の組み合わせ、センスには触れないでおこう。
「次は俺の能力を見せるぜ」
英斗は拳に力を込め始める――力を込めた拳は赤く光だす。
その拳をコンクリートの壁に叩き込む。
鈍い音はならずにコンクリートの壁にはクレーターのようなへこみができている。
「これが俺の能力、身体能力を引き上げるのが効果だ」
英斗の能力、名前はまだない。
効果は体の一部に力を込めると、その部分の身体能力を引き上げる。
そして不思議なことに、この能力は精神力を消費することで加速するように力を上げることができる。
「良い能力ね……そうだ、名前をつけてあげる」
玲は英斗の能力に名前をつけることにした。
英斗は気に入らない名前にならないように心の中で祈る。
「”アクセル”っていうのはどう? アクセルを踏んで加速するように力が上がったから、この名前がいいと思うの」
「おお、良いなそれ! 気に入ったぜ、その名前!」
「それなら良かった。英斗くん、そろそろ行こうよ」
話しているうちに時間は5分ほど経過している。
その5分内で校舎から普通ではない何かの事は2人とも忘れている。
2人は荷物を持ち、人気のない場所から校門へ移動を始める。
そしてこの時、ある1人の人物が陰から覗いていた。
「へえ、新入生にも能力者がいたんだ。これは生徒会長さんに高く売れるネタを頂きだな」
陰から英斗と玲をのぞいていた1人の男は校舎の陰に消える。