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あたしのお姫さま  作者: 犬丸
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狼はイヌ科だが…

会場のざわめきは収まる気配を見せない。

まさか前半の競売が姐さんの謎の行動で終わってしまうとは。

俺も他の観客と同じように何も状況を把握できていなかったが、このまま同じようにただ困惑しているわけにもいかない。


静かに立ち上がり、預かった資金を抱えて姐さんがいるであろう商品の保管室へと向かう。

今回の競売は現金での支払いが指定されているので資金だけでもかなりの大荷物だ。

大金を持ち歩くのはもちろんリスクが伴うが、その程度のリスクもどうにかできないようでは参加する資格がないのと同じようなものだ。


「それにしてもなんであんなガキを買ったんだ?」


思わず口から言葉が漏れていた。

姐さんは子ども好きでもないし、そもそも人間をわざわざ買うほど興味がない。

まさか知らなかっただけでそういう趣味、とか。

いやまさかそんな。


あれこれと考え込んでいるうちに保管室へと到着していた。

落札済みの商品はここに集められているはずなので姐さんもここにいるだろう。

扉の前に控える〈天秤〉のスタッフに参加者のチケットを見せると、すんなり入ることができた。


「遅いよキース」


中では予想通り姐さんがいた。

落札した少女が入っている檻の側で床に座り込んでいる。

相変わらず自由な人だ。

周りの主催者側の方が戸惑っているのが伝わってきて不憫だな。


「遅くなってすみません。預かってた金もってきましたけど、支払いは?」

「こ、こちらでお願いいたします」

「あっこの子に何か服持ってきてよ。裸じゃかわいそうでしょ」

「すぐにお持ちいたします」


預かってた金と落札した金額は一致するからそのまままとめて渡せばいい。

あとは向こうが確認すれば終わりだ。


「ねえねえ、お姫さま。名前はなんていうの?」

「…リリアン」

「かわいい名前だね!あたしのことはラウって呼んで」

「は、はい…」


うーん…会話は噛み合っているのにどうも感情的には噛み合っていないような。

まあ買った側と買われた側ならそんなもんかもしないが、姐さんはもともと他人の感情の機微に疎いところがあるから空回っている感じがする。

でも姐さんは上機嫌みたいだし、そのうち少女の方が慣れるだろう。

なんともいえない気分で2人のやり取りを眺めていたらスタッフが近寄ってきた。


「お支払いの確認ができましたので、商品を持ち帰られて大丈夫です。こちら、簡易なものですがご所望の衣服でございます。」


檻の鍵と少女の服、それと星の欠片を渡された。

鍵と服は姐さんに渡し、星の欠片はとりあえず俺が持っておこう。

姐さんは素早く檻を開けて少女ーーリリアンに服を渡していた。

服を着て出てきた少女は舞台上で言われたように大した怪我もないようだった。

それにしても改めて近くで見るとそうそう見かけないような美少女だ。

将来性も十分のようだし、2000万はいきすぎだが200万くらいなら支払う奴は多いだろうし姐さんに買われたことは幸運だったと言える。


「それじゃ帰ろうかお姫さま。こいつはキースっていって、まあまあ便利だし好きに使っていいからね」


姐さんはリリアンを抱き上げて俺を雑に紹介した。

それにしてもまあまあ便利って…それなりに便利なつもりだったんだが、ひとまず便利と思われているだけでもましか。


「キースです。よろしく姫様」

「よ、よろしくお願いします。リリアンです」

「お姫さまに手を出したら殺すからね。泣かせても殺すからね。怒らせても殺すからね。」

「おれ変態じゃないんで手は出さないですけど気をつけます」


それにしてもなんで姫なんだろうか。

姫様自身も何も分からないという顔をしてるから俺が来るまでに教えてもらったって事もなさそうだ。


「じゃあ帰ろうか。お姫さまの服とかは明日にでも買いに行こうね」

「俺も付き合いますよ。荷物持ちしますから」

「うーん…まあいいか。じゃあ明日ね。〈情報屋〉にも会いに行くから」

「分かりました」


外に出ると街の灯りに迎えられた。もう日付が変わる時間だからか人通りもまばらだ。


「お姫さまお腹減ってない?」

「い、いいえ」

「そっか。お腹減ったら言ってね。」

「あの、ラウさんは」

「ラウでいいよ。あたしには普通に話してよ」


姫様に名前を呼ばれて姐さんは嬉しそうだ。


「ラウは、その、何で私を買ったの?」


姫様は真剣な顔で姐さんを見つめていた。

これからの自分の生き死にすら関わって来るんだから無理もない。

そして俺も姐さんがこの子を買った理由は気になる。

姐さんは姫様の目をじっと見つめた後ににこりと笑った。


「あたしがお姫さまを買ったのは、お姫さまがお姫さまだったからだよ」


意味がわからない。


「私は普通の商人の家の子で、姫と呼ばれるような人じゃないよ」

「別にお姫さまがどんな家の子かなんて関係ないよ。あたしは、ずっとあたしだけのお姫さまが欲しかった。お姫さまを見た時、きっとこの子があたしのお姫さまなんだって思ったから買ったんだ」


そういえば姐さんはよく姫様みたいな雰囲気の女の子の人形を集めてたな。

てっきり人形集めが趣味なのかと思ってたが、姫様に似ていたから集めていただけなのか。

狼はイヌ科だが…まさか〈黒狼〉と呼ばれるこの人が犬のようにしっぽを振る姿を見ることになるだなんて思わなかったな。


「ねえ、お姫さま。あたしのお姫さまになってよ」

「…はい」


姫様は小さい声でそれだけを呟いた。

まあ、それ以外に何を言えばいいんだろうな。




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