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あたしのお姫さま  作者: 犬丸
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見つけた

あたしはお姫さまが大好きだ。


小さい頃から絵本の中に出てくるお姫さまが大好きだった。

可愛くて、優しくて、きれいで、愛らしくて、自分とは正反対のそれにひどく憧れた。

あたしだけのお姫さまがほしい。

その思いはどんどん強くなって、次第に人形集めが趣味になった。

お姫さまのような愛らしい人形を集めては飾りたて、大切にした。


人形はほとんど〈情報屋〉に仕入れてもらっている。

あいつは伝手が多いからなんでも手に入れてくれる。

その代わりにあたしは荒事を引き受けてやった。

〈情報屋〉みたいに頭は良くないけど力には自信がある。

今夜のオークションが終わればずっと欲しかった人形が手に入る。

今までになくやる気が溢れた。


「まあ簡単な仕事だけどね」

「なにか言いました?」

「別に。受付すんだの?」

「はい。入りましょうか」


オークション会場は街の中央にあるホールで行われる。

〈天秤〉はこの街では比較的まともな組織なのでオークション会場も落ち着いている。

出品されているものは大して変わらないけど、他だったらこうはいかない。

まず入る前に喧嘩して、入ってからも喧嘩して、終わってからも喧嘩する。

オークションとは名ばかりのただの奪い合いだ。

それはそれで楽だけど。


「やあ〈黒狼〉」


会場に入ろうと思ったら声をかけられた。

今日はやたらと声をかけられる日だ。

しかも違う呼び方ばっかり。

なんなんだ。


声の方を向くとユーチェンが立っていた。

相変わらずにこにこしてる。

後ろにはたくさんの部下が並んでいてみんなにこにこしている。

〈乙女〉の連中はみんなこんなだ。

キースが私の後ろで軽く頭を下げた。


「ユーチェンも来てたんだ」

「ああ。〈天秤〉の主催なら落ち着いて参加できるからね。君こそオークションに来るなんて珍しいね。おつかいかい?」

「そんなとこ」

「また遊びに来てくれ。君ならいつでも歓迎だ。〈乙女〉にもね」

「気が向いたらね」


ユーチェンは軽く手を振って会場へ入っていった。

あたしもひらひらと振り返した。

〈乙女〉は美人ばっかりだけどお姫さまって感じじゃない。

むしろ王子とか騎士の方が似合いそうだ。

いつも誘ってくれるけどあの中にあたしが入ったら浮いちゃうな。


「あたし達も入るよ」

「はい」


キースを連れて入ると会場は人でいっぱいだった。

事前に〈天秤〉に参加すると伝えてあるから席は確保されてるけど、こんなに来るなんて今日はすごいものが出るのかな。

ざっと会場を見渡すとあたし達と離れた席にサルガッチェの姿もあった。

相変わらず図体はでかいし気配を隠そうともしない、闘志の塊のような男だ。

席が離れててよかった。

近かったら絶対にうるさかった。

席についてぼーっとしているとステージに司会者が現れた。


オークションが始まる。





「ーー続いて、13番の商品は〈星の欠片〉です。この大陸では大変手に入りにくい希少金属で、それが純性で300gあります。この金属は機械部品として優れた通電性を持つだけでなく、装飾品としても磨けば星のような煌めきを放つことで有名です。それでは、100万から開始です」

「1000万」


会場がざわついた。

いきなり10倍まで引き上げるバカは…サルガッチェしかいない。

札を上げようとしていた他の参加者はあいつにビビって固まっていた。

あたしは気にせずに札を上げる。


「2000」


鋭い眼光が飛んで来る。

でも視線なんて痛くもかゆくもない。

歯ぎしりが聞こえて来そうなほど怒りが滲んでる。

あたしが相手だと知って尚更ムカついているみたいだ。

あいつじゃあたしに勝てないから落とせないと絶対に手に入らない。


「3000万」

「5000」

「…6000万」

「8000」


痛くもかゆくもないとは言ってもうざったいことには違いない。

キースは息を殺して固まってるし会場の空気も重くなった。

サルガッチェは口を開けたり閉じたりしていたが最終的には札を下げた。

仕事終わりっと。

残りの2000万はあたしのものだけど、欲しいものなんてないしなあ。

人形なんて出品されないだろうし、もうすぐ休憩に入るからもうお金払って帰っちゃおうかな。


「それでは前半最後の出品です。これまた珍しい商品でございます。西大陸の珍しい色を持つ少女。見目麗しく、処女も確認済みです。父親に売られまして、素早く回収いたしましたので大きな傷もございません。言葉も通じます。愛玩用にするもよし、繁殖させるもよし、調教はしておりませんのでお客様のお好みに合わせて躾けられてください」


そういって運ばれて来たのは10歳ほどの少女だった。

白い肌にかかる純金にも負けない金色の髪に、海のように青い瞳。

口枷を嵌められ、檻に入れられているが、その美しさは損なわれていない。

怯えたように後退り、涙を流しながら会場を見ている。


いい色だ。

こっちの大陸は暗い色が多くてこういった色を持つ人間は少ない。

あたしも肌も髪も目も黒い。

少女の色は絵本の中のお姫さまと同じ色で、あたしが持っている人形も同じ色をしているけど、こっちの大陸じゃなかなか手に入らないから大変なんだ。

ほんと〈情報屋〉には感謝しないと。


人形のことを考えるとまたわくわくが蘇って来た。

笑みを浮かべたまま少女を眺めていると、青い瞳と目が合った。


その瞬間、体に電撃が走った。


こんな感覚は初めてだった。

本物の電撃だって受けたことはあるけど全く違う。

背筋がゾクゾクして、足先から頭のてっぺんまで甘い震えが走った。


「見つけた」


あたしのお姫さま



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