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悪役令嬢なんて関係ありません!全力で弟妹を可愛がります!

作者: 古鈴 神楽

ブームに乗って悪役令嬢の婚約破棄を書きたかったのに、婚約にもならなかったです…orz


「壁よ!!」


右側で瞬時に大きくなった魔力を認識した瞬間、シトリンは自分とその近くに居た生徒を守る為に防御魔術を展開する。

だが、防御魔術の範囲外に黒い髪の少年を見つけた瞬間、思いっきり飛びついて一緒に地面に倒れ込む。


地面に触れた瞬間、背中から爆風と氷の粒が当たるのだが、魔術の二重展開が出来ない今、腕の中の人物を守れるのは己の身体しかない。

出来るだけ覆いかぶさって、傷を少しでもつけないようにぎゅっと抱きしめていたのだが、今まで以上の激痛を左腰の少し上に感じた瞬間、意識が遠のいた。


(制御出来ない魔術を使うんじゃないわよ…!)


「おい、ベルクール!しっかりしろ!」

「ベルクール様!」

「クラヴェル様!!」


シトリンの下から自力で脱出したのか、少年が他の生徒達と一緒に自分を呼ぶ声が聞こえたのを最後に意識が途切れた。






*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*





「あぁ…そのまま永眠したかった…」


完全に目が覚めて、シトリンは重い溜息と共に頭を抱えた。


シトリンは、幼い頃より人には言えない秘密があった。

それは、前世の記憶があるという事。

この魔術や精霊術が溢れる世界とは全く異なる、科学という物が発達した日本という国に生きていたという記憶。

物心つく頃から時々不意に思い出す記憶に付き合い、何年か経った頃には、前世の記憶だと納得出来るまでになった。

だが、事故の後に何度も眠りにつく度に夢の中で見た記憶は思い出したくもなかった。


出来るなら、今も否定したい。


(まさかここがゲームの世界だったなんて!!)


前世の友人が好んでやっていた乙女ゲーム。

タイトルや詳しい内容は分からないが、キャラクターは宝石の名前で、学園ファンタジー物だった。

その中でもシトリンは、メイン攻略キャラの王子の婚約者だった。王子を攻略するルートでは、嫉妬に狂い、ヒロインに嫌がらせや暴行をして王子に近づかないように妨害しまくる悪役キャラのようだった。ゲームをしたこともしたいとも思わなかったので、いつも友人が文句と愚痴で言っていた名前以外、あまり深く知らない。


(あぁ、でも、婚約の理由が、王子を庇って出来た消えない傷が原因だったような…)


「マジですか…」


シトリンが庇った黒髪の少年は、この国の第二王子だ。そして、ゲームの中で婚約者だった王子と同じ名前。


だが、シトリンは婚約者になる訳にはいかなかった。ゲームと同じ運命を辿りたくないからだけではない。

それよりも重要な問題があったからだ。


(ラピィが悲しむじゃない!)


前世で弟か妹が欲しかったシトリンには、目に入れても痛くないほど可愛がっている双子の弟と妹が居る。

しかも母親が産後の肥立ちが悪く、そのまま亡くなってしまったのだが、残された双子を貴族らしく乳母に任せっきりにせずに、あれやこれやとでしゃばって育ててきたので、溺愛度は想像以上だ。


その片割れの妹が、王子に一目惚れしていたのだ。体が弱いラピスラズリは、シトリンが話す王子の様子を頬を薔薇色に染めて聞く姿は悶絶する程可愛い。

たとえシトリン自身は王子の事を好んでいなくても(むしろ関心がない)、ラピスラズリに話す為だけにガン見して観察する程の溺愛ぶりだった。


『大丈夫?』


どうやって回避するか悩んで居ると、心配そうに覗きこんでくる小さな精霊。


ラピスラズリの契約している風の精霊は、ふわりとシトリンの膝の上に乗ると、言い辛そうに口を開いた。


『ラピスラズリに「オージサマがいらっしゃったので、起きれそうなら来ていただけますか?」って言われたんだけど、寝てる事にする?』


その言葉に頭を抱えそうになるのだが、精霊は嘘は苦手なのだ。下手に無理をさせると力が弱まってしまう事もある。


「私の事を気づかってくださり、ありがとうございます。ですが、知ってしまった以上、行きますわ。ラピィには支度をしてから行くと伝えてくださる?」


『ん。無理しないでね』


心配そうにしながらも頷くと、精霊は風になって消えた。


シトリンは傷が痛まないようにそっとベッドからおりて着替えると、身だしなみを整えて一階のサロンに降りていく。

途中、すれ違ったメイドに身だしなみをチェックしてもらったので、王子の前に出ても大丈夫なはずだ。


(せめて髪を結う時間ぐらい考えて欲しいのだけど!)


少しばかりの現実逃避をしていると、あっという間にサロンについてしまった。


「失礼します。シトリンです」


中からメイドがドアを開けてくれたので、部屋に入ると中に居た四人が同時に振り向いた。

手前に座っているのは妹のラピスラズリと弟のタンザナイト。

奥に座っているのは王子であるオブシディアン・クラヴェルと、王子の友人で騎士団長の息子であるマラカイト・ダリエだった。


「遅くなりまして、申し訳ございませんでした」


傷に響かないように頭を下げようとすると、オブシディアンが止める。


「傷が開いたら困る。座ってくれ」

「では、失礼します」


ラピスラズリがタンザナイトの方にずれてあけてくれたスペースに座ると、メイドがシトリンの前にも紅茶を置く。


それを待って、マラカイトがほらっとオブシディアンを突ついて急かす。


「すまなかった」


まさかオブシディアンが頭を下げるとは思わなかったシトリンは目を見開く。


ゲームの俺様何様王子様のアダ名をつけられていた程ではないが、小さくても王子なので滅多に頭を下げない印象があったのだ。


だが、シトリンの表情にムッとしたオブシディアンは「傷…」と呟いた事で納得した。


「タンザナイト君から聞いたけど、傷が残ってしまうみたいだからね。流石にオブシディアンも責任を取らないと」

「責任と言われましても…。王家の者を護るのは、貴族の勤めですわよ?」


マラカイトが言った責任の言葉に内心ギクリとしながら、何とか体裁を述べると逆にキョトンとされる。


「確かにそうだけど…。君、女の子だよ?」

「はい。確かに傷物では嫁ぎ先は限られますが、これでも一等貴族であるベルクール本家の娘ですわよ?嫁げないはずがございません。それにベルクール家の役に立つ嫁ぎ先が無ければ、魔術師になると昔から決めておりますもの」


だから気にするな。気にも留めるなと念を送りながら言うと、マラカイトが困った様に言った。


「でも君、オブシディアンの事が好きなんでしょ?」

「は?」


弟と妹に尊敬されるようにと、二重三重に被っていた猫が外れて、思わず素になってしまったのは致し方ない。


(ラピィの前で、なんという勘違いを!これでラピィが泣いたら、後でこいつシメる!)


「え?だって、オブシディアンの事、ずっと見つめてたよね」


疑問系でもない確定された問いに、ラピスラズリの恋心を漏らせないシトリンは、何と答えて良いのか分からない。

うーんと心の中で唸っていると、隣から小さな声だが、ラピスラズリが恥ずかしそうにマラカイトに告げる。


「ダリエ様、お姉様はわたくしの為にクラヴェル様を見てくださっていたのです。外にあまり出れないわたくしが……クラヴェル様をお慕いしているので…」


最後の方は真っ赤になりながら俯いてしまい聞き取り辛かったが、そう遠くに座っているわけでもないので全員聞くことが出来た。


真っ赤になりながら震えるラピスラズリ。

それをじっと見つめるマラカイトとオブシディアン。特にオブシディアンの方は少し頬が赤くなっている。


(ちょ、ラピィが可愛いからって、ガン見するな!特に王子!今まで気にも留めなかった癖に!)


オブシディアンとマラカイトの視線から護る様にラピスラズリを抱きしめると、タンザナイトも同様にラピスラズリの前に手を伸ばし己の体で隠して睨む。


「そうですね…もし、どうしても責任を取らないといけないと思っていらっさるのでしたら、私を婚約者候補から外してくださりませんこと?私、妹の好きな方に嫁いで、妹と疎遠になるぐらいなら、死を選んだ方がマシですわ。なので、ベルクール家からは私ではなくラピスラズリを婚約者候補に入れてくださいな。それが、私の傷の代償となるのでしたら、安いものですわよね??」


いくら王家の者を守った代償といえど、貴族の女が傷があるというだけで、現状のニ、三等落ちないと結婚してくれる相手は現れない。その事を踏まえた上での相談。

オブシディアンの婚約候補者は一等、二等貴族の年の近い女の子が候補者として発表されているが、どんな手を使ってでも良いから今発表されているベルクール家の候補者を変更しろという言葉の裏の脅しだった。


「お姉様?!」


腕の中のラピスラズリが驚いて声を出すのだが、顔を上げさせない様に抱きしめる力を少しだけ強くする。


「ただし、この子には政略結婚なんてさせません。ベルクール家が一等貴族だからという理由で婚約者にするのはおやめくださいね。この子を選ぶのなら誠意をもってくださらないと。この子を悲しませる者は、私の力とベルクール家の力を全て使ってでも排除しますわ」


いつもの余裕を持たせた笑みを捨て、挑発する様に口元だけに笑みを浮かべて、真っ直ぐにオブシディアンを見据える。


(この子達を守る為に必要な知識も魔導も同世代以上の物を持ってるし、これからも努力は惜しむ事もしないし、何よりお父様も賛同してくれた。魔導団長を敵に回して、王になった時の未来は明るいかしら?)


ぶるりと震えたオブシディアンとは対照的にマラカイトは楽しそうに笑う。


「噂には聞いていたけど、凄い兄弟愛だね」

「あら、仕方が無いですわ。だってラピスラズリもタンザナイトもこんなに可愛いのですもの。この子達を悲しませるのは、いかなるモノでも許せませんわ」


「確かに可愛いよね」

「はい!」


同意される程嬉しいものはない。ふふふと笑っていると、今度はラピスラズリとタンザナイトが心配そうにシトリンのドレスの裾を掴む。


「?どうかしまして?」

「おや、こちらも手強そうだね」


マラカイトは更に面白そうに笑い出すのだが、シトリンにはさっぱりわからなかった。

どうでもいい設定


■悪役令嬢 シトリン・ベルクール

⚫︎ゲーム

昔の事故をネタと貴族の力を使い、俺様王子の婚約者に無理矢理なった。ワガママだが、魔導科1の実力者。ヒロインを見下しているのに王子がヒロインに惹かれるのを許せなくて、いじめ抜く→没落

母親がお産で命を落としたので、母親を奪った弟妹を憎んでいる。

カラー、黄

⚫︎現実

前世の記憶があり、そのために小さくて可愛い弟妹溺愛。身体の弱い妹の為に王子の観察をしており、事故の責任を…と言われたので、妹を婚約者候補にしてもらう。が、選ばなかったら怨むつもり満々。妹の身体の為に精霊と契約しているが、周りは知らない。弟ルートに入ったらヒロインの性格によりだが、駆逐する気満々w

恋愛は、自分だけ見てくれる人が良いので攻略キャラは眼中に無い。


■王子の腹心 マラカイト・ダリエ

⚫︎ゲーム

爽やかイケメン。だが、貴族という地位と王子の幼馴染というポジションで、人の汚さを見まくってるので、内面はかなりの潔癖。敵と定めたらトコトン冷たくなる反面、味方になると甘くなる。

補足…親が政略結婚で冷え切っているので、一途に夢をもっており、他の人の好感度を上げすぎると、好感度が一気に低下。こいつのせいで、逆ハールートがなかったと言われている。

カラー、緑

⚫︎現実

見た目だけの爽やか青年。

優しいが、他者に興味が無い。興味をもったらトコトン面白がる。腹黒。

敵には冷たく、味方には甘い(からかう)

シトリンが王子に片思いと勘違いしていた。妹達の溺愛ぶりをからかってる。結構溺愛。周りを固めていく(笑)


■王子 オブシディアン・クラヴェル

⚫︎ゲーム

俺様何様王子様。絶対の自信を持っており、事故は汚点。威張るシトリンも汚点。

だが、気を張らなくて良いヒロインに惹かれ、寄り添い、過去は過去と割り切りシトリンの悪事を暴き、ベルクール家を没落させる。

カラー、黒

⚫︎現実

俺様何様王子様。だが、シトリンが内心怖いw

ラピスラズリの必死に生きようとする姿を見て、支えようとする。数年後には溺愛。多分ヒロインはいる余地なし。


■妹 ラピスラズリ・ベルクール

⚫︎ゲーム

弟ルートの悪役。魔導科。体が弱い事を盾に、弟にひっついて行動。弟を奪うヒロインを憎む→体が弱くて死亡

カラー、紫

⚫︎現実

王子様ラブ。一目惚れして、さらに姉の教えてくれる王子に恋をしていた。婚約者候補になってから、王子の弱さに気づき、支えようと努力する。


■弟 タンザナイト・ベルクール

⚫︎ゲーム

姉に疎まれ妹に寄生され、自信が無い。魔導の力はあるのに、イマイチパッと出来ない。ヒロインに自信を持つように言われ、好感度パラメータを上げると愛情を感じて安定し、実力が伸びていく。チョロキャラ後輩。

カラー、青

⚫︎現実

シスコン。実力あり、容姿良く、モテるがシスコン過ぎて周りに興味無し。

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― 新着の感想 ―
[一言] 妹のこと好きになれない。 設定は面白いので続きを読んでみたいです。
[一言] 物語よりも設定を読んでいる方が面白かった。 きっと物語が中途半端だった所為かと。
[一言] もし連載するんなら読んでみたい
感想一覧
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