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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
9/41

サバイバルに潜む悪意①

 近くには岩肌に大きな穴のあいた洞窟が見える。きっとあそこが二次試験の会場となるんだろう。


「なんだよ、ただのサバイバルゲームか」


 受験生の中から屈強そうな大男がつまらなさそうに漏らした。

 鍛え上げられた筋肉から戦闘力も高さも見て取れる。


「…あの人も同い年ぐらいなんでしょうか」


 メイナはそんな男を見て呟いた。

 確かにルークから見てもとても十代半ばには見えない身なりだった。


「話は最後まで聞くことじゃ。二次試験の『洞窟サバイバル』は皆も察しの通りそこの洞窟で行う。じゃが、ただ洞窟内で数日過ごせ、というわけでもない。中には学院の先生たちの協力を募り、即席の魔物を放っておる。無論、作った魔物故に行動範囲は洞窟内のみ。倒せば霧となって消えるまがい物の魔物じゃがな」


 そこまで聞いたところで受験生の坊主頭の少年が手をあげる。


「つまり、その魔物がいる中で生き残ることが二次試験なんでしょうか?」


「それもあるが、この魔物達にはそれぞれポイントがつけておる。ポイントは強い魔物ほど高く、弱い魔物ほど低い。二日後の朝、ここに集まったものでポイント競い、高かった者から合格者を決める」


 再び、坊主頭の少年は手をあげた。


「ポイントの合計値は自己申告でしょうか。それとも学院側に計測する方々がいるのでしょうか」


「答えはどっちも否じゃ。皆、一次試験の紙はもっとるかの? それを手首に巻いてみぃ」


 言われた通り、ルークもくしゃくしゃになった紙を手首に巻いてみる。すると、紙は徐々にブレスレット状へと形を変えた。

 ブレスレットには平べったい水晶のような物が付いており、そこには0と表示されている。


「理解したかの? その魔法具がポイントを計算してくれるわけじゃ。質問はあるかの?」


 少年か少女か、中性的な顔立ちをした絹のように綺麗な栗色の髪を肩ほどまで伸ばした受験生が手をあげた。


「ポイントの譲渡や奪うことは可能なのか?」


「どちらも可能じゃ。だが、奪うはまだしも競い合う立場で譲渡は得になるとは思えないがの」


 次に先ほど不満を漏らした筋骨隆々の男が手をあげる。


「奪うのことだが、殺してしまった場合にはポイントはどうなる」


「別に学院側は殺しを承認してるわけではないんでの、死んだ者からはポイントを奪うことはできぬ。他に質問はあるかの?」


 始まってみなくてはわからないのか、大方を理解したのか、手をあげるものはいない。


「ちなみにスタートは公平を期すため今から全員に転移魔法をかけ、洞窟内へランダムに飛ばす。リミットは二日後の日の出。最初に集めて外で待機するもよし、ギリギリまで粘るもよし。一度出たら洞窟へは戻れんからの

。では、二次試験スタートじゃ」


 ゼピアの掛け声と共にルークの目の前には一瞬にして闇が広がった。

 肌寒く湿度も高い。地面のゴツゴツした岩の感触から洞窟内に飛ばされたことがわかる。


「しまったな。灯りがなきゃ行動もできねー」


 取り敢えず、その場に座り込み、ルークは闇に目が慣れるのを待つことにした。

 リミットが二日後じゃ腹もすくだろうし、出口を探すことも考えなくてはいけない。もう少し自分も準備をしておくべきだった、と腰に刺さった腹も膨れない短剣を見てため息をついていると、すぐ近くからコツコツと何かが近づいてきている音がする。

 咄嗟に短剣に手をかけ、臨戦態勢に入るルークのすぐ目の前にぽぅっと暖かな光が灯った。


「幸先良くポイントが稼げるかと思ったが…」


 小さな灯りに照らされて姿を現したのは先ほどの学院長に質問をしていた男か女かわからない中性的な顔立ちをした受験生であった。


「まぁ、これはこれで都合がいいがな」


 そう言ってルークのすぐ前にランプを置いて向かい合うように座る。


「セリルだ」


 大きな瞳で真っ直ぐルークを見ていう。


「は?」


「私の名だ。こちらが名乗ったんだ、お前も名乗るべきじゃないか?」


「あ、あぁ、ルークだ」


 しばらく見つめ合いながら気まずい沈黙が続く。

 なんだこいつ、何か話があって近づいてきたんじゃないのか?

 耐えきれずルークが切り出す。


「お前って男? 女?」


「…それは今必要な質問か?」


「いや…」


「なら聞くな」


「お前絡みにくいって言われない?」


「…たまにな」


 再び、しばしの沈黙が続き、セリルが斜めがけの鞄から干し肉を取り出してルークに差し出した。


「ルーク。私と協力しないか?」


「えらい急だな。まぁ、こっちとしては食料も灯りもないわけだし願っても無いことだが」


 ルークは干し肉を噛みちぎる。

 それを見てセリルは小さく笑みを浮かべた。


「変わり者だろうと思っていたが、まさか食料も準備してないとはな。さっそくだが、この二時試験についてお前は何か気付いたか?」


「そうだな…」


 ルークはしばらく考える。


「考えてみるとおかしな点はある」


 セリルはルークが話すのをじっと待つ。

 まるでルークの力を図るかのように。


「この試験の合格は二日後の朝に入口に集まった受験者のポイント数の高さで決めるって言ってただろ? 普通は何点以上とか何位以内とか決めるもんじゃないのか?」


「あぁ、私もそれを不審に思って推測したが、恐らく試験終了時に出口まで辿り着く者が極端に少ないんだろう。かなり入り組んだ洞窟みたいだしな。もう一つ考えられるのはろくにポイントを稼ぐことができないまま試験終了時間を終えてしまう。後者は考えにくいが、難関と言われるヘクセリットの試験だ。十分可能性はある」


「つまり、俺たちが最初にするべきことは出口を探すこと。道中にポイントを稼げれば尚良しってとこか」


「それが妥当だろう。他にもこの試験にはいくつかの裏ルールがあるのは気付いているか?」

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