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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
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学校へ行こう④

「あぁ、俺はルーク。ルーク・キーー」


 自己紹介をしようとしたルークの声を遮るように教室内の喧騒が強まる。

 受験者の視線は一様に教壇に立つ中年の男に向けられていた。


「えぇ〜、受験生諸君。これから試験を始めるわけだが」


 汚らしく伸ばしたボサボサの黒髪に伸びっぱなし髭の浮浪者を思わせる出で立ちをした男は面倒くさそうに白い箱を教壇の前に置いた。


「まず、この箱に入っている紙から一枚取り出してほしい。ただし、中はまだ見るなよ」


 細かな説明をするわけでもなく、与えられたのは紙を一枚引け、それだけだった。

 受験生たちは訝しみながら一人、また一人と箱から紙を一枚取って離れる。

 ルークとメイナもその紙を取って元いた場所に戻ってきた。


「なんなんでしょうね、これ」


 動揺した様子で紙を小さな手で握りしめるメイナは心配そうにルークに話しかける。


「…さぁ」


 受験という行為自体、初めてだったルークにもさっぱり見当がつかず、首を傾げる。

 教壇の前にいた受験生の長蛇の列が収まり始めた頃、教壇に立つ男は周りを見渡した。


「あぁ〜、今回集まった受験生はここにいる教室だけではなく、他のいくつかの教室にも受験生には集まってもらっている。確か、今年の編入希望者は二千人ぐらいだったかな」


 教室内がどよめく。

 ここにいるもの全員がこの教室内にいるものを敵視し、ライバル視していた。予想外の大規模さにざわつくのも無理はない。


「まぁ、ぶっちゃけ多いよな。こっちも暇じゃねえし、できるだけ数を減らしたい。そこでだ、さっき引いた紙を開いてほしい」


 男の言葉をきっかけに一斉に皆が紙を開き始める。

 ルークもきっとお題かなにかが書いてあるんだろう、と予測しながら開いてみる。

 中にはたった一文字『○』と書かれていた。


「…なんだこれ」


「も、もう開けたんですか? あ、あたし怖くて…ルークくん開けてください!」


「なんでだよ、まだ開いた結果でなにがあるかわかったわけじゃないんだし、気楽にいけよ」


 そう言われて恐る恐る開いた紙にはルークと同じく『○』の文字があった。


「これは一体なんですか?」


 一番前に座っていた見るからに真面目そうなメガネの少年が立ち上がって紙を男に向かって突きつけた。

 ルークとメイナのものとは違ってまっさらな紙である。


「なにってお前…見りゃわかるだろ。くじ引きだよ」


 耳をほじりながら男は続ける。


「騎士ってのは強いことは勿論だが、時には運も必要なこともある。今この教室には七百人ぐらいいるわけだが、当たりは○印が書いてある。つまり、メガネ。なにも書いてない紙を引いたお前は不合格だな」


「ふ、ふざけるな!」


 平然とそう言って見せた男の言葉を口火に教室内の受験生の大多数が次々に立ち上がり、怒声をあげていく。

 自分の持った紙を再度確認し、メイナはほっと胸をなでおろした。

 たまたま、当たりを引いたが、もし、ハズレを引いていたらたった一度の受験もこんなにも早く終りになってしまっていたのだろうと。


「痛てっ! 物を投げんな! 取り敢えず、当たりを引いた奴らは一次試験は合格だ。健闘を祈る」


 手にあるもの投げつけられ、反感をかった男が頭を抱えてそう言ったのと同時にルークたちは大きな海を目の前にして立っていた。

 背後には先程までいたはずの学院が見える。


「空間転移…されたみたいですね…」


 教室にいた時のまま、隣に座っていたメイナはキョロキョロと辺りを見渡して言った。


「空間転移? まじかよ、魔法ってのはなんでもありだな…」


「きっと、さっき引いたこの紙に魔法がかけられていたんだと思います。当たりくじを引いた人だけこの砂浜に飛ばされるように」


 ルークはくしゃりと紙を丸めて自分のポケットに入れる。

 どうやら別教室のやつらも同じくこの砂浜に飛ばされてきたらしい。目算で二百人ほどの受験生がルークたちと同じように海岸に座っていた。


「ほっほっ、おめでとう諸君」


 どこからともなく皆の目の前に現れた老人はご機嫌そうに言った。

 ルークには見覚えのある顔だ。

 忘れるはずもない。昨日、自分を挑発してこの試験を受けさせた張本人の学院長、ゼピアであった。


「一次試験でお主らの力は計らせてもらった。次は二次試験始めようと思う」


 受験生全員が一斉に首を傾げる。

 一次試験はくじ引き。力を図るもなにも自分たちはくじを引いただけだ。運も実力の内とでも言うのだろうか。


「その前に二次試験からはちょいとばかし危険が生じる。軽傷で済む場合もあるし、大怪我、最悪死に至ることもある。帰って実力をつけてから出直すってのも手じゃ。自信がないものは今すぐ帰路につくことを勧める」


 ゼピアはこの話を聞いて帰るという選択を選んだ者をしばらく待つように喋るのを止めた。

 しかし、若者とはいえ、エリート騎士を目指す者たち。多少の危険は覚悟していたし、なにより自分の力に自信を持った者たちの集まりの中には誰一人として逃げ出そうという心情には至らなかった。


「関心関心。でも、ワシは忠告したからね」


 この状況になるのを予想していたかのようにゼピアは悪戯っぽく笑った。


「わ、わたしどうしよう」


 ただ一人、メイナだけは死の危険性もあると言われ当惑していたが、皆の雰囲気に呑まれ言い出せずにいた。


「ル、ルークくんは怖くないんですか? 死ぬかもしれないんですよ?」


 隣に立つルークはうーん、と少し考えた後に答える。


「まぁ、帰っても牢屋に戻るだけだしな」


「ろ、牢屋!? い、一体ルークくんは何者ですか??」


 ルークの言葉にさらに困惑している間にリタイア宣言の時間は締め切られ、結局居残りが決まってしまったメイナの焦りなどつゆ知らず、ゼピアは二次試験の内容を話し始めた。


「二次試験は『洞窟サバイバル』じゃ」




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