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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第2話 初任務と下剋上
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戦いの火蓋②


「はっ、いやなに、騎士隊とか偉そうにふんぞり返っていたやつらがどんな技を使うかと思っていたが、あんまりにもケチな技で呆れて反応が遅れちまっただけだよ」


 ミカエルに対抗するように笑うルークだが、実際はミカエルの魔法の使い方に感心をしていた。

 相手の隙をついてただ単純に魔法での大技をぶっ放すわけではなく、まず機動力を削ぐ狡猾さ。それはミカエルの素早く鋭いレイピアによる剣技とも相性がいい。

 加えて、ルークの足に蔦が絡むように魔法を使ったのはおそらく、リリアの話をしている時。

 魔法式の詠唱をしているようにも見えなかったが、それを隠す技術も白竜騎士隊の8席のなせる技というわけか…。

 血の垂れる頬を拭ってルークはじっとミカエルの顔を睨みつける。


「ケチな技か…。ふふふ」


「なんだよ? ちょっと傷ついたか? ごめんね」


 おどけた調子でルークが舌を出すとミカエルはやれやれといった感じにサラサラと銀色の髪を揺らした。


「謝らなくてもいいさ。所詮、ここで殺される下民の戯言だ。それにあれはただの下級魔法だぞ? それぐらいの魔法であのエルシュタットの悪魔の顔に傷をつけることができるなんてこちらこそ驚いてるよ」


 やられたな。

 ルークはそう思った。

 自分が負けるとか勝てそうにない『やられた』ではない。

 相手のペースにハマってしまっている。流れを取られたと感じたからだ。

 ギャンブルでもそうだ。

 いい流れで自信をつけた相手はなかなか厄介で、ギャンブルの弱いルークとはいえ相手のペースにだけはならないようブラフでそれを断ってきた。

 そういえば、リリアを裸にしたあの日からギャンブルしてないな。

 鈍っているのかもしれない。でなきゃ、こんなお坊ちゃんにこんなふうにやられるわけないだろう。

 小汚い牢獄の兵士たちの顔が思い浮かんでため息を一つ。

 なんでこんな時に汚いおっさんどもの顔が浮かんでしまったのか…。


「………もういいか…」


 誰に問うわけでもなく、誰に言うでもなくルークはぽつりと呟いた。


「何がいいかだね? 諦めたか? まだボクはオリジナルだって使っていないんだ。下級魔法で顔に傷。では、オリジナルではどうかな?」


 ミカエルも馬鹿ではないし、それなりの場数をこなしてきた。

 掴みかけていたペースを覆されそうになっているのも感じる。

 諦め、投降するようにこちらへゆっくりと近づいてくるルークの姿を見て、ミカエルの頬を汗が伝って落ちた。

 まずい。


「俺はさ、ギャンブルの才能ないみたいで弱いんだけどよ、負けるのだけは大嫌いなんだわ。喧嘩でもギャンブルでも」


「奇遇だね下民。ボクも大嫌いだ。君のこともね!」


 振りかざした手を降ろすミカエル。

 途端、石畳の石が集まりそして固まる。巨大な石の壁となったそれはぐらりとルークに向けて倒れた。

 間髪入れず、ミカエルは次の術式に入る。

 無数の薔薇を矢のように飛ばし、爆発させた。土煙と爆煙が舞う中で普通まともに受けたら粉々になるだろうが、ミカエルはいつでも斬りつけるようにレイピアを構えてじっと立つ。

 視界を悪くしたのはわざと。

 爆発した薔薇の花びらは踏めばミカエルに場所が伝わるようになっている。地面には無数の薔薇だ。死角はない。

 じっと待つ中で花びらがルークを捉える。

 真っ正面だ。

 あの魔法の攻撃を避けもせず、歩いてきたと言うのか。さすが悪魔だ。

 ミカエルは忌々しげに笑った。


「だが、エルシュタットの悪魔。キミの伝説もここで終わりだ!」


 煙の中にルークの影が見えた。

 渾身の力を込めてミカエルはレイピアを疾風のように突きつける。

 と、同時にミカエルの腹に重い衝撃が走った。


「こ、拳…!!?」


 腹を中心に全身を砕かれるような鈍痛。大砲で撃ち抜かれたかと錯覚してしまうように、また、自分の身体に穴を開けられたかと錯覚してしまうような激しい痛み。

 空中に血を撒き散らしながらミカエルは数メートル吹っ飛び、石畳の上に背中から叩きつけられた。


「あ、あがっ…!」


 今までにない。

 体験したことのない痛みに目が霞む。


「なんだろうな。ちょっとは騎士隊らしく戦おうと思ったんだろうな。お前の力を見てみたいとも思った。不思議なもんだな」


 じゃりじゃりと音を鳴らして近づいてくるルークをミカエルは血を吐きながら弱々しく睨みつけた。


「俺らしくない。力でねじ伏せてきたってのに使ったこともない魔法で戦おうとしてた」


 そこまで聞いてミカエルはことりと意識を失った。


「さてと…他はどうなってんかな。リリアかヤンキー先輩か…」


 しばらく空を見上げて考えた後、ルークはゆっくりと歩き始めた。

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