パンツの色を当ててみよう④
「ば、ばばばばバカじゃないのっ!? どうみたって正真正銘本物の嘘なしのパンツじゃない!? なんでこんな所で裸にならないといけないのよっ!!」
「できねーか? そりゃあ、できねーよなぁ! こんな場所で周りは男のみで下半身裸のケツ丸出しになるなんてよぉ!?」
ギャンブルが始まるとルークが性格が変わったようにのめり込むことを看守は知っていた。
それに加えて嫌いな上から目線な物言いをされ、おまけにあの負けず嫌いな性格だ。
「あぁ〜だめだこりゃ」
思わず頭を抱えてしまう。
しかも、今回に限っては相手が悪い。ただの温室育ちの人の死にも触れたこともないであろうエリート学校の騎士様かと思えば、中身はルークと同じく超負けず嫌いときたもんだ。お互いごねりあえば勝負はつかないだろう。
下半身下着姿でリリアはしばらくルークを物凄い形相で睨んでいたかと思うと、纏っていたマントで下半身を覆い隠した。
それを見たルークは確かな勝利を確信し、腕を組んで小さく笑いだす、が突如として目の前の机にひらりと何かが舞い降りた。
「さぁ、これで満足かしら?」
必死の強がりに見えた。
今にも火がつきそうなほど顔を真っ赤にしたリリアは勝ち誇っていたルークを真似るように腕を組み、片眉をぴくりと動かした。
「ポ、ポップルウェル殿!!」
兵士が声をあげたのも無理はない。
ヘクセリット魔法学院で白竜のピンを付けた学生は王室の直属軍兵隊長のポジションを約束されたようなものである。そんなエリート中のエリートが一人の囚人の前で痴態を晒すなど考えられないことなのだ。
「ここまでさせて、まだ屁理屈を言い出すのは勘弁よ。あたしは今、正真正銘ノーパン、というか履いてないわ」
さらなる屁理屈の予防策か、ルークだけにちらりとかなり際どいラインをマントをめくって見せつける。
それに対し、ルークは机に置かれたリリアのパンツを手にとって、苦笑い気味にそれを放ってノーパン姿のエリート騎士の前に落とした。正直に言うとここまでやるとは思わず、ひいていた。
大概の女性は下着まで脱げと言われたら折れるはずだ。それが明らかに立場が上のものが相手ならば尚更である。
「負けだ負けだ。やっぱり賭け事は向いてねー。今んところ勝ったことねーし」
降参といった感じに両手を頭の後ろで組み、机に足を投げ出し、深く重いため息を吐いてしばらく悔しさのためか唸った後、ルークは立ち上がった。
「わーったよ。お前と一緒に行くわ」
そう言い終わると共に頑丈そうな巨大な錠前を殴り壊し、牢獄の外へ出る。
別に出られなくて投獄されていたわけではない。ただ出ても退屈で出られないふりをしていただけだった。
「と、止まれ! まだ王の許可は出ていないぞ! 止まらなければ脱獄とみなす!!」
手に持った槍をルークに突きつけてリリアを守るように立つ兵士二人。単なる一般兵が王国軍さえも苦しめた悪魔に勝てないことはリリアだけではなく兵士たちもわかっていた。ただ、使命を果たす、それだけが兵士たちの心を奮い立たせた。
しかし、その覚悟とは裏腹に手に持つ槍は細かにカタカタと震え、歯はガチガチと鳴る。
ルークもその覚悟を悟ってか兵士たちの正面に立ち、迎え撃つ準備をするが、その状況は王のところへ向かった兵士がヨゼフを連れて戻ってきたことにより、破られた。
「こ、これは何事だ!」
牢屋の外に出ているルークとそれに槍を向ける兵士たちを見て、ヨゼフは声を上げる。
「彼との勝負に勝ち、彼は私と一緒にヘクセリットへ来てもらうことになりました」
兵士たちの後ろに隠れている間に素早く衣服を身につけたリリアが王の前に出てそう言った。
「そんなことが許されるわけがなかろう!!」
エリート候補とはいえ、ただの学生が働いた愚行に王は身体を震わせて怒号をあげた。
重く低い声が監獄内に反響し、辺りが慄いて静まり返るが、ルークだけはクスクスと笑い続けていた。
その反響が止んだかと思った刹那、兵士の一人が壁に勢いよく打ち付けられた。
「よぉ、久しぶり」
離れていたヨゼフとの差は一瞬で縮まっており、鼻の頭がつきそうな位置でルークは挑発するような笑みを浮かべて言った。
「な、なんと……」
あまりに突然の出来事に誰も反応できなかった。兵士の一人が我に返ったように槍を持って駆け寄るが、一暼されただけで身が竦み、小便を漏らしてへたり込んでしまう。
「なぁ、王様。行ってもいいよな?」
それを意に介した様子もなく、ルークはその言葉の後にボソボソとヨゼフの耳元で何かを呟いたかと思えば、ヨゼフは顔を真っ青に染め上げて踵を返し、儚げな声で一言こう言った。
「……出所の手続きをしろ……」