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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第2話 初任務と下剋上
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暗殺か護衛か④


「なによ、偉そうに」


 ルークの見下すような目つきにリリアは苛立ちを覚えて、眉をひそめた。


「あんたに何がわかるっていうの? 大体、あんたは入学したばかりで戦略なんて立てたこともないただのペーペーじゃないの」


「確かに俺は戦や任務なんて経験もしたことがない。が、一つだけわかることがあるぜ」


 机に足を放り出して、ルークは鼻で笑う。

 その行為がより一層にリリアを逆撫でするが、ルークは御構い無しに話を続けた。


「戦略云々なんてわかるわけもないし、配置のことは別に文句はないさ。けどよ、お前ら忘れてることがあるだろ?」


 その言葉を受けてリリアとブラインは考えるが、まったく見当がつかない。

 自信満々そうにルークは何を言っているのだろうか、二人は揃って頭をひねった。


「わかんねーの? 相手があのいけ好かないニコニコ野郎ってことだよ」


「そんなの忘れるわけないでしょ。だから、こうやって少ない兵をどう動かすか、練ってたんじゃない」


「馬鹿、お前は本当に馬鹿。あいつ、相当性格悪いだろ? そんな定石通りの作戦で大丈夫なのかって言いたいんだよ」


「性格悪いって、あんた仮にも先輩でそれも騎士隊長よ?」


「まぁ、待てよ。ポップルウェル」


 反論しかけたリリアをブラインは顔の前に手を出して抑えた。


「…あながち間違ってもいねーよ、こいつ。オレはキールさんを認めてるし、信頼もしてる。幾度となく、任務の中で助けられた恩もあるし、あの人以外に隊長は考えられねー、そう思うぐらいだ。だからこそ、お前らより少しだけ長く騎士隊にいた俺だから言えることだけどよ、確かに、キールさんの性格の悪さは折り紙つきだぜ。人の発想の常に斜め上にいくあの人をずっと見てきたからよぉ」


 ブラインはタバコを咥えながら楽しそうに笑みをこぼした。

 確かにリリアにも思い当たる節がいくつかはある。

 あるにはあるのだが、この作戦をどう変えればいいのかがわからなかった。

 護衛任務としては人手が足りない状況だが、相手は三人。外からの侵入を考慮すれば、考えられる作戦としては悪くはないはずだ。

 苦慮するリリアをルークは可笑しそうにくすくすと笑った。


「いいか、一つ目に相手が三人とは限らない」


 ルークは人差し指を立てて言った。


「はぁ? あんた何言ってるの? 相手は三人。これは確かよ」


 リリアに対してルークは呆れたように首を振った。


「なぁ、お前はあいつに三人で攻めるからよろしくね、とでも言われたわけ? 人数なら依頼主から兵を借りるなり、魔法で洗脳するなり、頭数を増やす方法なんて俺でさえいくらでも考えつくぜ?」


「確かに可能性がないとは言い切れねーな」


 素直に納得するブラインだが、リリアは妙に悔しくなって下唇を噛み締めた。


「二つ目、これが一番重要だ。相手が見取り図を持っていないとは限らない」


「ありえない、論外よ。見取り図はここにある一枚だけのはずだわ」


「のはず…言い切れねーよな? 俺の勘が言うんだわ…」


 そこでルークは兵士たちに作戦配置を伝えに行ったランドルフが戻ってこないことを確認して、


「どうにもあの大臣はくせーってよ」


 リリアはジト目でルークを見据える。


「あんたの勘、当たるの? あんなにギャンブル弱いのに?」


「うるせーな。考えてみろよ、王族はあの馬鹿そうな国王のみ。じゃあ、次に権力を握れるのは誰だ。人望や役職の高さ的にあの大臣しかいねーだろうが」


「じゃあ、あたしたちが呼ばれたわけは?」


「まぁ、カモフラージュだろうな。予め、暗殺側に詳細な情報が伝えてあって、あちら側が有利になるようにしてあるってことだよな、赤髪」


 ブラインの言葉にルークは頷いた。


「もし、相手に自分らが見取り図を持っていないことを勘付かれていない場合、暗殺側はどう動くか」


 ようやくリリアにもルークが言いたいことを理解できた。


「…奇をてらった作戦…決行は今日の夜…ってことね」


「そういうこと」





「決行は最短でも三日後、念入りに事を運ぶなら一週間はかかる…たぶんそう思ってるだろうね」


 人気の少ない道に竜車を止めて机をを囲む三人。

 見取り図に目を落としていたキールはくすくすと悪戯っぽく笑った。


「作戦の指揮はブラインくんかリリアさん。まぁ、年功序列的に考えてブラインくんの線が高いかな。それを補佐するリリアさんって構図かな」


 まるであちら側が見えているかのようにキールは言い当てる。


「あら、あの新入り…ルークちゃんは?」


「大方、何も言えずにオロオロしてるだけさ」


 不機嫌そうにミカエルは吐きすてた。

 リリアと親しげにするルークを酷く嫌って、ミカエルは新メンバーとしてルークを受け入れようとはまったく思っていなかった。


「うーん、ルークくんについてはよくわからないな。自分が指名しといてあれだけど正直、イレギュラー的存在だからなぁ」


 苦笑するキール。


「それでも、彼が率先して作戦を考えるようなタイプには見えないし、あの二人の仕切りならおおよその配置は読めるかな」


 見取り図の上にそこの道で拾った石ころをキールは並べる。


「正門にルークくん。裏門にブラインくん。王の側にリリアさん。性格からして王の周りに三人で固まるっていうのは取らないと思う」


 ズバリ、的中させるキールの配置予想。

 一番長く、数多くの任務を仲間と共にこなしてきたキールにはなんとなくリリアやブラインの思考が予想できた。


「じゃあ、手っ取り早く三人で玉座に攻め込んじゃう?」


 キールは首を横に振る。


「それについては何らかの戦略がうってあるはずだよ。そもそも城の守りは固く、どうしても正門か裏門のどちらかを通らないといけない。城壁なんて壊してたらすぐに見つかって囲まれちゃうだろうし」


「ここはどうです、下水道が地下からつながっているはずですが」


 見取り図の一部を指差してミカエル。


「イヤよ、あたし。下水道何て汚いわよ!」


 ダグラスは身をくねらせて、心底嫌そうに首を振った。


「さすが戦争慣れしてるとでも言うのかな。ここの城は下水道からの侵入ができないように幾十のも障壁とトラップが仕掛けられているみたいだよ。狭い下水路で三人まとまって歩けばひとたまりもないよ」


 よく見てみれば、確かに見取り図の端書きにはトラップが仕掛けられているということが記してあった。

 仕掛けが如何様なものかわかれば幾らかマシだと思ったが、そのような記載はない。


「二人には正門、裏門にいる二人を相手に対峙し、撹乱してもらってその隙をついて僕が王を仕留めてくるって作戦はどうかな?」


「この場合、シンプルだけどベストな作戦かもしれませんね」


 ミカエルは頷いて、それを了承した後に見取り図上の正門前に置かれた小石を指差して言う。


「ボクにこの新入りの貧民をやらせてください。リリアとは戦いたくないし、こいつには少しばかりムカついているんだ」


「ルークくんが正門にいるというのはあくまでも予想だよ?」


「キールさんの予想は当たります。ボクは幾度となくそれを経験してきましたから」


「嬉しい言葉だね。じゃあ、正門はミカエルくん、裏門をダグラスくん頼めるかな?」


「ダグラスじゃなくて、カトリーヌって呼んで!」


 可愛く頬を膨らますダグラスをキールは笑ってやり過ごす。


「撹乱するなら兵隊の人数を増やしますか? 洗脳薬を一応持ってきたんですけど」


 ミカエルがポケットから出した特製の洗脳薬は一滴で従順な兵士を作ることができる代物だ。

 ちょっとした出来心でリリアを振り向かせようと惚れ薬を作っている際に偶然できたものである。

 しかし、キールはそれを手で押し返して、しまうよう促した。


「他国でそれはまずいよ、非人道的で罪に問われてもおかしくない。まぁ、王の暗殺も依頼とはいえ、十分犯罪なんだけどさ」


 その言葉にキールはさらに付け加えて窓の外を眺める。


「それにただでさえ、僕らは目立つ。昼間に街中を動き回っていたら否応でも警戒されてしまうよ」


 聞いてミカエルは黙って薬をポケットにしまいこんだ。


「決行は今日の夜、町中が寝静まったころに動き出そう」


 流れる雲を見上げながら、キールはぽつりと言った。





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