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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第2話 初任務と下剋上
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暗殺か護衛か③

 城内に裏切り者がいるとはつゆ知らず、リリアたちは玉座の間に簡易的に用意されたテーブルセットに座り、ランドルフから拝借した見取り図を広げていた。

 ランドルフが言うには城の見取り図は重要機密書類らしく、リリアたちが少し持ち出すのも許すことはできないらしい。


「見取り図は今、あたしたちが開いているこの一枚しかないんですよね?」


「はい、私の知る限りではその一枚のみかと。城に関わる重要な情報なのでそう何枚はないかと思いますが…」


 そこでランドルフは言葉を詰まらせてもごもごと口を動かした。


「あんのかよ?」


 ギロリとブラインが睨みつけるとランドルフは気まずそうに目を泳がせる。


「い、いえ、もしかしたら城の建設に関わった建築士が持っているかもしれません」


「その建築士はどこだよ?」


「一昨年、亡くなりました」


 聞いてブラインは気まずくなって顔を歪める。


「なぁ、先代の王とか女王とかいねーの?」


 気遣いができるような男だったか、ただ本当に聞きたかっただけなのか、唐突にルークは話を変えた。

 リリアとブラインも心の中でよくやった、と誉めたたえるが、


「昨年、お二人ともご病気でこの世を去りました。残された王族は現国王のみでございます」


 ランドルフは俯きながら悲しそうに言った。


「と、とりあえず作戦会議だったな」


 その重たくなった空気を取り繕うようにブラインは率先して作戦会議を始めようとし、リリアもそれに素早く頷いた。


「そ、そうですね」


 気持ちを切り替えて、ランドルフに貸してもらったチェスの駒を手のひらで転がしながらブラインは見取り図を見つめる。


「まぁ、まず王は玉座の間と横に繋がってる寝室、この二つに行動範囲を絞ってもらうとしよう」


 キングの駒を見取り図の上に置く。

 ブラインの手に残された駒は自分たちを現すナイトの駒が三つと城内に残るわずかな兵士を現すポーンがいくつか。

 この任務は普通のチェスとは違い、ナイトが二つではなく三つ持てるが、同時に他、クイーンやビショップなどの駒落ちも多く、ポーンの数も少ない。

 これが盤上のゲームならば中々厳しいものである。


「兵士は今、城内には何人ぐらい残っていますか?」


「およそ、三十名ほどかと」


 リリアの問いに横に控えていたランドルフが返す。

 広い城を守るにはあまりに数が少なすぎる。普通、戦争があるにしても奇襲に備えて少しは兵を残すものだが、度重なる戦でモルタ国にはそんな余力はなかった。


「これはあたしのあくまで予想だけど、暗殺が決行されるのは早くても三日後の夜…念入りに兵の配置や侵入経路のことを下調べする時間も考えると一週間はかかると思います」


 リリアの言葉にブラインも同調するように頷く。


「あぁ、そうだな。前提条件に相手側が見取り図を持っていないってことがあるが、大臣の話から察するにまず見取り図は相手の手に渡っていないものと考えていいだろう。城内に裏切り者がいなければな」


「め、滅相もありません。私は勿論の事、赤ん坊のころから知っている王を殺そうなんて考える者はいません」


 ブラインのトゲのある言葉を慌ててランドルフは否定した。


「一応、内部にも注意を払っておいた方がいいかもしれないわね。どんな不安要素も残さないためで決して疑っているわけではありませんのでお気を悪くしないでください」


「それで配置だがよ、ポップルウェル。お前は王の側につけ」


「全員で王の周りを固めるのではなく、あたしだけですか?」


「おう、今回のケースは暗殺者が外からやってくるのは確実なわけだし、周りは穴一つない城壁だ。二人は外で待ち伏せた方が城への被害もなく済むだろう。…まぁ、正直言うと俺も赤髪も黙って防衛してられる性格じゃねーし、赤髪の方はわからねーが、オレの独自魔法オリジナルはどっちかっつうとタイマン向けなんだわ。複数人で来られたら王を守ってる余裕なんてないだろうからな。それに比べたらお前の独自魔法オリジナルの方がいくらかは融通効きそうだしよ」


 あのワガママそうな王の側に一人でずっといるなんてあまり気の進まないことではあるが、これも豪華報酬のためである。

 リリアは黙ってそれに頷いた。


「後は俺と赤髪だが…」


「それなら守るべき場所は決まっていますよね。城に入る正面入り口と後方の緊急逃走経路になっている裏門。内部から突然現れる、もしくは壁をぶち破って突入してくるなんて、あちら側の性格から考えてまずないと思いますけど…」


「全員の能力を把握してるわけじゃねーからよぉ、確実とは言えねーぜ。もし、俺たちも考えつかないような場所から現れた場合はどうする?」


「ん? 皆様は暗殺者と知り合いで?」


 訝しげに目を細めるランドルフには何も答えずに、リリアはポケットから小さな三つのハンドベルを取り出した。


「このベルは一種の通信機として使える魔法具で魔力を込めて鳴らせば、同じ印のついたベルを持つ者だけに鈴の音が聞こえるようになっています。もし、あたしの前に三人が突然姿を現した場合はこのベルを鳴らします。三人を相手取り防御に徹した場合でも長くても二分が限界だと思いますが…」


「要は二分以内にお前の所まで駆けつければいいってこったな」


 ブラインはリリアの手からベルを受け取り、一つをルークに放り投げる。

 今まで何も喋らないでいたルークだが、別に眠っていたわけではなく、宙を見つめて何かを考えながらブラインが投げたベルを受け取った。


「じゃあ、俺は裏門付近、赤髪は正門付近の監視でいいな」


 話が纏まってとりあえず、王を守るナイトの位置は決まったので見取り図の上にブラインはナイトの駒を正門前と裏門のところへ一つずつ置いた。


「兵士は廊下と各階の中央階段前、もしもベルが奪われたり壊されたりした場合のことも考えてオレたち三人の近くにも配置しておいた方がいいか」


 余ったポーンの駒を見取り図に置いて、配置はひとまずこれでよさそうだとリリアとブラインの二人は納得するとランドルフにその旨を伝えて兵士の配置を頼んだ。


「一応、自分の足で城内を歩いた方が良さそうだな。タバコがてら行ってくるわ」


 二人に告げて、ブラインが椅子を引いて立ち上がった。


「なぁ、本当にこれでいいのか?」


 配置も決まったし、少し休憩を挟もうとしたそんな時にルークが閉ざしていた口を開いて冷笑を浮かべた。

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