集会に出よう①
ルークたち編入生組が学院に入学してからはや三日が経った。
ルークも何度か寝坊しそうになりながらも毎日のように目覚めのビンタをしに来るメイナのおかげもあって、なんとか無遅刻無欠席を保っているそんな状態。
「だっるい…」
ルークは理解できない授業の数々に辟易して机に突っ伏す。
ちらりと横目で覗けば隣で熱心に勉強するメイナの姿がある。
ルークは深いため息を吐いた。
騎士育成学校と言うからには実践訓練、すなわち戦闘訓練があるかと思い、それだけを楽しみにしていたが今の所、そんな授業に出くわしたことがない。
「ルーク・キスリングはいるかぁ、オラァ!」
突如、けたたましい声と乱暴に教室の扉を蹴られた音で教室内が騒がしくなった。
確か自分の名前を呼んだ。
また、シュタインの研究か?
だが、シュタインが使いを寄越して伝達をしてくることはない。いつも自分の足で俺の元まで赴き、貧弱な身体から考えられない馬鹿力で強引に連れて行かれる。
「よぉ、赤髪。召集だぜ」
どうやら考えてるうちに目の前まで来ていたらしい。
その声と自分に対する呼び方には聞き覚えがあった。
ルークは億劫そうに顔を上げてその人物を見る。
相変わらずのツッパリファッション。
「まさか、オレのことを忘れたなんて言わねーよなぁ? 学院内喧嘩最強の漢、ブライン・ドアーズをよぉ!」
「いや、顔は知ってっけど名前は今初めて聞いたわ」
「あぁん! 名乗られなくてもオレのことぐらいは知ってて当然だろーが!」
「…んで、何の用だよ」
腕枕に顎をついたまま、退屈そうに話すルークの目の前にブラインの拳が振り落とされる。
机がミシミシと音を立てた。
「…召集だ、ついてきな」
生意気な後輩をシメにくる不良のようにブラインはルークを連れ出そうとする。
机を殴ったのはおそらく威嚇。
調子こいてんじゃねーとかそういうことだろう。
強面の先輩の暴挙によって放心状態のメイナに行ってくるわ、と言い残してルークはブラインの後を追った。
話の内容は教室内にいる生徒全員に聞こえてはいたが、それでも不良の先輩と呼び出される生意気な後輩、という構図にしか見えなかった。
ブラインに連れられるまま歩くのは入学前に学院長と会った部屋があるフロア。
無駄に豪華な装飾がしてあり、明らかに授業棟とは見栄えが違う。
やがてブラインはステンドグラスの装飾された重く堅そうな扉を開けた。
「やぁ、久しぶりだね」
部屋に入るなり、一番奥に座っていたキールは柔和な笑みを浮かべて言う。
「なになに、新入りさん?」
部屋には奥からコの字型に並べられた長テーブルと椅子がある。そこに座るのは十一人。その中にはリリアの顔もあった。
「君はそこよ」
銀髪のモデルのようにすらっとした体躯に目鼻立ちがくっきりとした誰が見ても美人だと思うような少女が空いてる席を指差す。
言われるがままにルークが席につくと、キールが両手を叩いた。
「さて、これで六席も埋まったし、やっと白竜騎士隊が揃ったね」
「あぁ、六席がなんだっていう」
何の集会か理解していなかったルークは一人合点がいって納得した。
「そうそう、まだ紹介をしてないよね。僕の名前はキール・グラッジ…ていうのはさすがに覚えてるよね?」
キールの人懐っこそうな笑みにルークは忘れていたとは言えずに無言で頷く。
「よかった。じゃあ、まず僕の右手に座る彼は第二席のクライド・ストーカー。ぶっきらぼうで口が悪いけど僕と同じ三年生だ、仲良くしてね」
キールの隣に座るクライドという長髪で目つきの悪い少年は挨拶代わりにルークを睨みつけると、小さく舌打ちをした。
「次に僕の左側に座るのは第三席、オリヴァー・クローグくん。彼も同じ三年生なんだけどとっても恥ずかしがり屋さん。慣れるまでは苦労するかもね」
「…よ、よろしく…」
オリヴァーと呼ばれた少年は蚊の鳴くような声でポツリと言った。
身体は細長く、棒のようにひょろりとしているが、背は高い。その長い体を小さくさせて座っている様から気弱なのは話さなくてもわかる。
「えっと、次はブライン・ドアーズくん。クライドの隣に座る彼だ。ルークくんとは編入試験に会ってるみたいだし、今日も一緒に来たぐらい仲良しだからよく知ってるよね」
ブラインからは前三人が座っているテーブルとは異なる二つの机が向かい合わせになるところからだ。上座にキールを中央にした三人が座るテーブル。ブラインの四席からは下座から見て右側から席が若い順に並んでいる。
ブラインの名前を知ったのはつい先ほどで詳しいことは何も知らないが、とりあえず頷いておくことにした。
「君の隣に座るかわいい女の子は二年生、第五席のステラ・ウッドハウス。身体は小さいけど君よりも年上だからね」
「ステラだよー。よろしくねー!」
外見は明らかにガキ。幼女。顔立ちもあどけないし、口調だって子供じみている。おまけに改造されたフリフリのついた制服がなんとも子供だとしか思えないようにしている。




