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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第2話 初任務と下剋上
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系統判別とオリジナル魔法⑤

 結構な力で口を塞いでいるはずだが、メイナはほわぁっと恍惚の表情を浮かべる。

 君が悪くなって咄嗟にリリアは両手を離した。


「リリアさんの手…いい匂いがします」


「な、なんなの? あなた…」


「い、いえ、別に臭いわけじゃないですよ! なんか花の香り? 甘い匂いがしました」


 授業用ノートにメイナはそのいらぬ情報を書き綴る。

 やばいやつに話しかけてしまった、とリリア顔を引きつらせてそのノートを破るとくしゃくしゃに丸めてポケットにしまいこんだ。


「あぁ…なんてことを…」


 悲しそうに瞳を潤ませるメイナだが、リリアはそれを聞こえなかったように無視をする。


「ねぇ、あなたルークの瓶を間近で見てたんでしょ? あれはどういうことなの?」


 やっと話したいことを言えたリリアは内心で安堵する。


「どういうことと言われましても…わたしにもなにがなんだか…。リリアさんも普通に授業受けてるんですね」


「それはそうよ、白竜騎士隊ってだけで普段は一人の生徒だもの」


 思わず返してしまったが、また話が逸れてしまいそうなので小さく咳払いをして、区切りをつける。


「あたし、遠くでよく見えなかったんだけど、全属性使いってなによ?」


「えっと、シンクロフェアリーが全属性の反応を見せて、増えて、死んでしまって…正直わたしにもわからないです」


 リリアは顎に手を置いて考える。

 シンクロフェアリーが全ての反応?

 聞いたことがない。

 魔法属性は鍛錬すれば、二つ、あるいは三つ。隣り合わせにある系統ならそれなりに使いこなすことはできるはずだが、苦手系統もなしに魔法を使う術者など聞いたこともない。

 やはり、ルークは人の姿をした悪魔…もしくはそれに準ずるものか…。


「あの、ルークくんはシュタイン先生に連れていかれてしまいましたし、後で一緒に聞きにいきませんか?」


 リリアは首を横に振る。


「いえ、あたしたちでもわからないことを魔法式もわからないあいつが理解してるとは思えないわ」


「そうですよね…。あっ、そういえば、リリアさんの系統はなんなんですか? わたしは光属性でした!」


 嬉しそうにメイナは瓶に手をかざして数を増やすシンクロフェアリーをリリアに見せる。

 まぁ、考えてもしょうがない、元々、規格外のやつだし、とリリアは自分を納得させてメイナの瓶をそっと手に取った。


「魔法属性も独自魔法オリジナルも人に見せつけるようなものじゃないけどーー」


 メイナの瓶にリリアは小さく真っ白で綺麗な手をかざす。

 瓶の中にルークの物とも劣らない大量の水が満たされた。


「系統は水。あなたの光とは隣同士の属性ね」


「リリアさんは水なんですね。リリアさんの隣なんて光栄です!」


「聞きたいんだけど…なんであなたはそんなにもあたしに肩入れするわけ?」


「そ、それはリリアさんが平民の星だからです! それにすっごく綺麗ですし、憧れる女の子は多いと思いますよ?」


 それにしても自分のことを知りすぎている気もするが…。


「ねぇ、リリアさんなんて他人行儀な呼び方はやめて。呼び捨てにしたら? あとその敬語もやめて」


 メイナは手を前にしてぶんぶんと激しく振った。


「そ、そんな恐れ多いです!」


「そう、せっかく友達になれると思ったんだけど…」


 ルークの癖がうつったか、リリアは意地悪そうに笑った。

 ちょっと自分のことを知りすぎていて気持ち悪いところもあるが、仲良くなれそうな気がした。

 なぜならば彼女はルークと試験を乗り越え、一夜を共に過ごしたーー


「あなたも下着見られたり、裸にされたりしたんでしょ?」


 ーー被害者仲間のはずだからだ。

 そっと耳打ちしたリリアの言葉にメイナはまん丸の目をさらに丸くさせて固まった後、


「その話、詳しく聞かせてください!」


ペンを片手にリリアを食い入るような目で見つめた。





「なぁ、俺になにすんだよ? 人体実験?」


 長い廊下を引きずられてやっとのことで解放されたと思ったら、薄暗い部屋で椅子に座らされた。

 室内は物で溢れかえっており、液体に入った不気味な生物や奇妙な器具の数々が並べられ、床には魔法についての学術書や資料類が散乱した汚い部屋だ。


「手洗いことをして悪かったね」


 椅子に座るルークにコーヒーの入ったカップを手渡すと、シュタインは物で埋もれた椅子を強引にかき分けて引き出すとルークと向かい合うように座った。


「ルークくんだったね。一人の研究者として頼みたい。私の研究に協力してくれないだろうか?」


「協力? 無理矢理にでもさせようと思ったからこうやって連れてきたんじゃねーのかよ?」


 コーヒーを一口飲んでから、ルークは不機嫌そうに言う。


「強引にさらうような真似をしてしまったのは本当に悪かったと思っている。どうしても未知の物に遭遇すると我を忘れてしまうたちなんだ」


 申し訳なさそうにシュタインはボサボサに伸びた髪をくしゃくしゃにして微笑を浮かべた。


「研究って言ったって、散々牢獄でいじくりまわされたんだ。俺自身、普通じゃないことは薄々感じてたけど、今更何もわからねーと思うけど?」


「うむ、君がエルシュタット牢獄に幽閉されていたことは学院長から聞かされている。そこで非人道的な人体実験がされていたことも噂には聞いているよ」


「血抜いたり、腕切り落とそうとしたり、頭割られそうになったりな。まぁ、全部ぶん殴って追い返したけどよ」


「私は決して君の嫌がることはしないと約束しておく。勿論、君の身体にも興味はあるが、人体研究は私の分野ではないからな」


 ルークを真っ直ぐに見つめるシュタインの真剣な眼差し。

 今までルークの身体を分解しようとした研究者たちとは違い、シュタインは信頼できそうな気もする。


「協力したとして、俺に利点は?」


「私も名門学校の教員だ。それなりの金額は渡せる」


 金という魔法の言葉に思わず二つ返事で了承してしまいそうになるが、ぐっと我慢して、報酬の上乗せを待つ。


「…私の研究が表彰された際に貰った純金製のメダルも渡そう。勿論、君の研究で何かを得ることができたら報酬の八割を君に渡すと約束する。私にとって研究費以外の金など何の役にも立たない鉄くずだ。一研究者として新しい知識を得たい、それだけなんだ。もし、途中で私が君の嫌がることを強行した場合は迷わず、私を殺してくれて構わない」


 悪くない条件どころか良すぎる。

 何か裏があると疑ってしまうが、シュタインの言葉には研究という以外の他意は見て取れない。

 シュタインはまだ、報酬に納得してないのかと思ってか、自分の財布に入っていた全ての金をルークに手渡した。


「それに君は魔法が使えないと言っていたね。私も君の独自魔法オリジナルには興味がある。なにかと協力することはできると思う」


 ルークは待遇の良さに訝しげにシュタインを見やる。


「頼む!」


 誠意を示すようにシュタインは地面に手をついて頭を下げた。

 長い沈黙。

 ルークはシュタインの言葉に罠が隠されていないかと塾考した後、小さく頷いた。


「…わかった。ただし、俺が嫌なことをした場合、すぐにぶん殴るからな」


「本当か、感謝する!」


 ぱっと顔を明るくしてシュタインは顔を上げた。


「で、では、さっそく!」


 土下座の態勢のままシュタインは細い指をルークのズボンに引っ掛けると勢いよく下にずりさげた。


「尿検査からだ! この私のカップに君の尿をーーあぐっ!」


 シュタインの頭頂部にルークの拳がめり込んだ。


「いきなり何すんだ!」


 拳をわなわなと震えさせて、ルークは既に意識のないシュタインを怒鳴りつけ、それでも怒りが収まらず無防備な相手をボコボコに殴りつけた。





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