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ヘクセリットの魔法騎士と紅月の悪魔  作者: 春野まつば
第1話 編入試験
3/41

パンツの色を当ててみよう③

 鉄格子を挟んでお互いを見据える二人。

 先に口を開いたのはルークの方である。


「質問はありか?」


 リリアは少しそれを考え込み、


「……一度だけならいいわ。でも、核心に迫るような質問や答えざるを得ない質問はなしよ」


了承した。

 これはリリアの騎士道精神がそうさせた。こちらが有利な条件である以上、少しはフェアにしておこう、そんな考えがリリアにはあった。


「わかった。それじゃあ、質問。俺を連れて行きたい理由を聞きたい」


「そんなことに大事な一回を使っていいの? 大した答えはないわよ?」


 本当に不可解な質問。

 聞いても自分の下着の色なんてわかるはずもない。逆に何かあるのではないか、何かイカサマをこの瞬間にしているのではないか、と身構えてしまうほどルークの意図がわからなかった。


「構わない。単純な質問だからな。それだけ聞いておくのを忘れてたってだけだよ」


「あたしは学院にあんたを連れてくるように言われただけ。あんたの強さを噂で聞いて学院で騎士として育成したいんだろうなぁって推測はしてるけど実際はどうかわからないわ。ねぇ、本当にこんな質問で良かったの?」


「あぁ、もう大体見当はついているからな」


 そう言ってニヤリとルークは笑う。

 その自分を見透かされているような目にリリアはぞくりと悪寒を感じた。

 ありえない、透視魔法はブロックしてるし、下着が透けて見えるタイプの服でもない。

 考えられるのはイカサマだが、協力者として考えられる髭の看守は賭けが始まってから自分に一度も近づいていない。

 もし、他にイカサマをしているとして自分に触れず、衣服の下に隠れた下着を見ることができるだろうか…。

 いや、これはきっとハッタリだ。

 あたしの動揺を誘い、その隙に何か手を打つに違いない。


「へぇ、言ってみなさいよ」


 そんな結論に至り、リリアは気丈に振舞ってみせる。


「お前のパンツの色は…『白』だ」


 自信満々といった感じにルークは言った。

 この部屋にいる一同がリリアへ視線を向ける。

 下着の色が白、というのはなんとも無難な答えのように皆は一様に思っていた。本当はわからないから適当に一番ありそうな色を選んだのではないだろうか。皆は内心でそう考えてしまうが、肝心なのはリリアの答えであるが、果たして、


「違うわ」


 答えはNOだ。


「賭けはあたしの勝ちのようね。一緒に来てもらうでいいわね?」


 一度は言動にドキリとしたが、当てられはしなかった。

 それはそうだ、当てられるはずはない。

 リリアは隠していた勝ち誇った笑みを浮かべ、椅子に座るルークを見下ろしてみせる。


「お前の勝ち? なんでだよ?」


 だが、ルークは心底意地悪そうな笑みを浮かべて反抗してきた。


「は? 完全にあたしの勝ちじゃない。あんたはあたしの下着の色を当てられなかったんだから」


「だから、お前のパンツが白じゃないって『証拠』はあるのかよ?」


「そ、そんなの屁理屈じゃない!」


「屁理屈でもなんでもないだろ。証拠がなきゃ、違いますあんたの負けですって言われて納得できるか?」


 リリアにはすぐにルークの意図が理解できた。つまり、証拠を見せろ。見せられないなら当たっているのに嘘をついているとでも言いたいのだ。

 子供のような屁理屈にイラつきながらもリリアはズボンをほんの少しだけ下げ、ルーク以外には見えないように下着の上部だけ覗かせてみせる。

 それだけでも恥ずかしくて死にそうだった。

 色は青。薄い青色である。

 

「だめだだめだ、腰部分だけ青色で、下は白かもしれない。その場合は色の占める布面積で何色かを決めるぞ」


 だが、ルークは納得しない。

 ケケケと下品な笑いを浮かべてさらにぬげと促してくる。つまり、ズボンを全部脱ぎ捨てて自分の前に立てと言っているわけだ。


「こ、この…スケベ! 変態! ズル!」


 顔を紅潮させ、涙目になってそう叫び、ズボンに手をかけるが、どうしても羞恥の念が勝ってしまい、手が止まってしまう。

 恥ずかしくてどうにかなりそうな中で感づく。これが狙いだったのではないかと。

 リリアの性格から推測してきっとこういう風にいちゃもんをつければ確認はできず、勝ちを掴めると。その読み通りになってしまった自分が恥ずかしいし、悔しい。

 リリアはギリギリと歯を噛み締め、殺意を込めてルークを睨みつける。

 ここであたしが勝ったとしても絶対こいつとは仲良くなんてできないわ…!


「脱ねーみたいだな。じゃ、俺の勝ちってことでいーー」


 ルークが勝ち名乗りを上げる前にリリアは勢いよく飛び上がるようにズボンを脱ぎ捨てた。


「こ、これであたしの勝ちよねっ!」


 上はヘクセリット学院の制服である軍服。下は薄い青一色のパンツ一丁。そんな恥ずかしくもアンバランスな格好にも関わらず、リリアは威風堂々と仁王立つ。ただし、顔は爆発しそうな程真っ赤に染め上げて。

 もし、ルークが羞恥心からリリアが脱ぐことはできないと予測していたのであればルークは大きな誤算を起こしていた。

 リリアがものすごく負けず嫌いであることを読み取ることができなかったのだ。


「ルーク、こりゃあ嬢ちゃんの勝ちだわ」


 見かねた看守が改めてリリアの勝ちが決まったことを口に出すが、


「あぁ? 負けてねーだろ」


認めない。

 ルークの方も人並み外れた負けず嫌いであった。

 それにこういう不測の事態に対して考えもないわけではない。かなり苦しいが言い分だが。

 ルークは鉄格子の隙間から手を出し、手のひらを上に向ける。


「それを脱いで俺に渡せよ。本当は白色なのに塗料で塗ってるのかもしれない。それを確かめなきゃ、俺は納得しないね」


「へぇっ!!! ぬ、ぬぬぬ、脱ぐってし、した下着を!!?」


 突飛なその言葉に変な悲鳴のような声が漏れた。

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