系統判別とオリジナル魔法③
シュタインが小瓶の上に手を置くと中にいたふわふわと漂う光の球に羽がついたような虫がシュタインの魔力に反応し、つむじ風となって瓶の中に風を起こし始めた。
「見ての通り、私は風系統の魔法使いだ。この瓶の蓋には特殊な加工が施してあり、体内魔力を吸い取る力がある。吸い取ると言ってもごく僅か、身体には何の異常もない」
シュタインが瓶口から手を離すとシンクロフェアリーは元の光る球へ姿を戻す。
「この虫は極めて変わった性質で魔力を感知すると自己防衛のため、火や風、水といったそれぞれの系統に姿形を変えてしまうんだ。その習性を我々は系統判別に活用させてもらっている。では、君。試しに前に出てやってもらえるか?」
シュタインは先ほど当てたメガネの少年を教壇の前に立たせて、自分と同じように少年の手を取って瓶の上に置かせる。
すると少年の魔力に反応して今度は砂けむりに虫は姿を変えた。
「君は土系統みたいだな」
それだけさせて、少年を席に座らせると綺麗に並べられた瓶を箱から出して自分の分取り、各列の後ろに回すよう言う。
しばらくすると、ルークたちの手元にも渡り、列の最後までいったのを確認してから各自で判別を行うよう促した。
自分の得意魔法を知ることのできる機会に生徒たちは胸を躍らせながら判別を始めた。
「系統判別ねー」
ルークは手のひらで瓶を転がしながら退屈そうに呟く。
周りの生徒たちの瓶からは火が燃えたり、水で満たされたり様々な反応が見られる。
「やらないの?」
メイナもまだ判別を始めてはいない。
「俺、魔法使えねーからさ」
「きっとルークくんならすぐ使えるようになるよ」
「魔法式って言ったっけ? あんなの覚えられねーよ。それより何でお前もやってねーわけよ」
メイナは少しだけ苦笑い気味に笑う。
「なんだか緊張しちゃって」
メイナの心にあったのは、命を助ける騎士になると決めたのに火や闇などの攻撃的な系統だったらどうしようという不安。
そのせいで周りが判別を終えてはしゃぐ中、実行することができなかった。
「まだやってないのかね?」
生徒たちの様子を見に教室内を回っていたシュタインが二人に声をかける。
「授業時間にも限りがあるんだ、早くしたまえ」
「は、はい!」
別段、シュタインは怒っていたわけではなかったが、笑顔一つ見せない顔が怖くなりメイナは慌てて瓶口に手を置いた。
メイナの魔力に反応して虫は形を変え始める。
瓶の中が眩く光り始めたかと思えば、虫は光を強めるだけで形を変えない。
「あ、あのこれはーー」
姿を変えない虫に自分には得意系統もないのかと不安になってシュタインの方を向いたその時に、中にいた虫がぽんっと二つに分裂した。
「生命を生んだ。君は光系統のようだね。光系統は中々珍しい系統だよ」
「生命を生んだ、ですか…?」
シュタインは無機質な表情のまま頷く。
「うむ、光魔法は再生や癒しの力を持っている。主に救護で役立つだろうし、隣には水と風。独自魔法の幅も広いと思うよ」
メイナにとって願ってもない系統だった。
机の下で小さく握りこぶしを作って喜んでいると、シュタインは退屈そうに頬杖をついていたルークに視線を移した。
「君は…確か新しい第六席の…」
さして誇らしくも思っていないよう逆さまにつけられた白竜のピンを見てシュタインは呟く。
どうやら教師たちには周知の事実らしい。
「どれ、君もやってみなさい。新しい第六席の系統には私も興味がある」
第六席という言葉を聞いて周りの生徒がざわつき、ルークにちらちらと視線を向けてくる。
まるで檻の中の動物になったような気分にルークは忌々しげに顔を歪めた。
「やれっつったって俺は魔法使えねーんだぞ?」
「魔法が使えない? 人は誰しも魔法が使えるようにできている。勉強すれば必ず使えるようになる」
「だから、その勉強が嫌なんだって…」
「なに!? 知識を得るということは素晴らしいことなんだ。君には知識を得るという探究心はないのかね!?」
ルークの小さなぼやきに激しく激昂し、シュタインは机を叩いた。
「いいかね、勉学は人を賢くするだけでなく進化もーー」
「わかったわかった、やるよ!」
長々と説教をされても堪らないとシュタインの言葉を遮って、転がしていた瓶を机の上に置いた。
瓶の中で回されて、虫も少し弱ってしまったようにも見えるが、ルークが瓶口に手を置くと問題なく魔力の性質に呼応して姿を変え始め、瓶の中に燃え盛る炎が満たされた。
「素晴らしい魔力量だ。君はどうやらーーえ?」




