系統判別とオリジナル魔法①
メイナは涙で真っ赤に腫らした瞼を擦りながら、案内された部屋の扉を開ける。
「なんだよ、また泣いたのか? いつまでたっても泣き虫だなお前は」
扉を開いてすぐに先に中で待っていたルークは呆れ顔で言った。
静かに椅子に座って待つセリルの姿もある。
「う、うるさいなぁ…」
少し膨れてメイナはルークの隣に腰を下ろした。
どうやら最終試験を受けた受験者全員が無事に合格できたらしく、先ほどの部屋と同じ人数がこの部屋に揃っていた。
「皆さん、編入試験合格おめでとうございます。晴れて今日からあなたたちは我が校の生徒となりました」
部屋に入ってきたアデリーヌは合格者全員が揃っているのを確認してから学院内の規則や授業、学生寮の説明を淡々としていく。
事細かに説明するものだから疲れていた受験生たちは時折、うつらうつらと舟を漕いでいた。
全ての説明を終えた頃にはすっかり空は紅く染まり、一日終わりを告げようとしていた。
最後にアデリーヌは五人に寮に用意された部屋の鍵を渡して、お開きとなった。
「お疲れ様。僕はヤーコブ・ファン・レイン。これからは編入生どうしよろしくね」
アデリーヌが退室すると、ルーク達の方に歩み寄り、握手を求めるように手を差し出した。
灰色の髪に緑色の瞳。育ちのよさを感じさせる顔立ちに小柄で力の弱そうな少年だ。
「あ、メイナ・ミレーです。よろしくおねがいします」
メイナだけが、その手を取って小さくお辞儀をする。
「ルーク・キスリング。よろしくな」
「セリル・フランチェスカだ」
続いてルークは片手を上げて、セリルは無愛想に名を名乗る。
この場で名前を名乗っていないのは一人になるが、その人相の悪い少年はケッと舌を鳴らした。
「くだらねー。仲良しこよしはしねーぜ」
お世辞にも整った顔立ちとは言えないが、細く引き締まった身体をしており、背は高い。
その少年は睨みつけるようにルークたちを見て、乱暴にドアを開けて出て行ってしまった。
「彼は確か、ダン・ルウィットだったかな。先生がそう呼んでいたのを君たちが来る前に聞いたよ」
ヤーコブが苦笑い気味に頭をかいた。
「あながちあの男は間違ってはいないがな」
淡白にセリルは言う。
理解していなかったルークとメイナは目を見合わせて首を傾げた。
それを補足するようにヤーコブが理解していない二人に説明を始める。
「さっき、アデリーヌ先生に紙をもらったよね? この学院では総合力で判断された順位がまず最初につけられるんだ。生徒全員が言ってしまえばライバル関係にあたるからセリル…くんもそう言いたいんじゃないかな?」
あぁ、もらったなとルークはポケットに入れたまま目も通していないくしゃくしゃになってしまった紙を広げる。
「ダンくんもそれで仲良くしようと思わないんだろうね。ところでみんなは何位だった? ちなみに僕は836位。下から数えた方が早いけどこれから頑張って200位以内を目指すつもりさ」
「わたしは907位です…」
ちょっと落ち込んだ様子でメイナ。
「私は421位。最初にしてはいい方だろうな」
「すごいです、セリルくん! 私の半分以下じゃないですか…。あぁ、なんか落ち込むなぁ…。ルークくんは?」
メイナに言われてルークも紙に書かれた順位を告げる。
「6」
「ろろろ6位!?」
悲鳴にも似た声を上げるヤーコブ。
三人が目を丸くして信じられないといった顔のまま固まってしまう。
「いや六席」
くしゃくしゃにシワの入った紙を見せて、ルークは言い直した。
正直、高い順位だとは思うがイマイチ凄さがわからないでいる。
「ろろろろろろろろろろろ六席!!??」
驚きの許容を超えたか、ヤーコブは口をあんぐり開けたまま後ろに倒れた、かと思えば起き上がり小法師のようにすぐにルークの紙を奪ってまじまじと真偽を確かめるようにその紙を凝視する。
「ルークくん…本当に何者ですか?」
ヤーコブまでとはいかないが、セリルやメイナも驚きを隠しきれないようでメイナは引き笑いを浮かべながら呟いた。
その時、勢いよく扉が開かれる。
「て、てめぇが六席だと…つーことは白竜騎士隊ってことか!」
どうやら扉の向こうで聞き耳を立てていたらしく、ガンをつけながらにじり寄ってくるダン。
ルークも表情を変えて自分の間合いにはいってくるのを待つが、
「た、頼む。てめぇをライバルとして認めてやるからアンナちゃんのサインを貰ってきてくれ!」
ダンは床に手をついて頭を下げた。
「アンナって誰だよ?」
「知らないんですか? 白竜騎士隊の第十席、アンナ・ウォーターズさん。巷では大人気の歌姫ですよ?」
どうやらメイナはリリアこと以外の白竜騎士隊のことも詳しいらしい。
「歌姫? 歌姫が騎士なんてやってんのか?」
「基本的にこの学院は授業と任務以外は自由なんだよ。まぁ、アンナさんの場合、特例もあるだろうけど」
間に入ってヤーコブ。
「ところでライバルってお前何位だよ?」
ふと気になったので必死に頭を地面に擦り付けるダンを見下ろしながら聞く。
ぴくりと身体を跳ねさせたかと思えば、ダンは顔をあげてニヤリと笑った。
「1036位だ」
「めちゃくちゃ低いじゃねーか」
「というか、最下位ですね。学院の生徒数は僕たちを合わせて1036人ですし」
「チビ、おいチビ! 黙ってろチビ! オレは大器晩成型なんだよ!」
ルークは少し考えてから不敵な笑みを浮かべる。
「いいぜ、サインもらってやるよ。ただし…俺にケンカで勝ったらだ。勝てたらサインどころかデート、キスでもさせてやるよ」
「まじか? その話ぜってぇ忘れるなよ!」
「おう、いつでも来い」
ダンは飛び上がって、地面に立つとをヘラヘラと笑いながら部屋を出て行った。




